第12話 問鼎軽重な企み
「問鼎軽重」とは、高い権力や地位を持っていると認められている人を軽くみて、取って代わろうとすることのたとえ。または、人の権力や能力を疑って軽くみること。この場合は課長の権威を軽くみての命令無視を指している。「鼎」は青銅製の三本足の器で、古代中国において権力の象徴とされたもの。
古代中国の周の王室の権力を狙っていた楚の荘王が、周の使いに周の王権の象徴である鼎の大きさや重さを訪ねたところ、鼎の大きさや重さは関係なく、国力が衰えたとはいえ、そこに鼎があることが徳が存在している証だと言った故事から。
一般的に「鼎の軽重を問う」という形で使うことが多い。
出典は「春秋左氏伝・宣公三年」より
「どうかしたんですか?」
不運な運ちゃんAが問いかけると、
「おかしい……3日後に転生するとスケジュールがすでに決まってますね」
課長補佐代理が眉間に皺を寄せて答えた。
「まだ死んでないよね?」
「そうです……担当者はミマサカ副課長補佐??」
「ミマサカって……さっきのゴージャスな感じの?」
「そうです……が、おかしい。そんなハズは……?」
課長補佐代理によると、さっき不運な運ちゃんAが会話した知的な雰囲気の眼鏡美女がアラガキ・タクトの担当をすることが内定していたのだが、なぜかそれが取り消され、ゴージャス美女の担当に変更になっているというのであった。
「それのどこに問題が?」
「あなたもさっきお聞きになってたでしょ? 彼女の野望を」
「男は全員、問答無用で司法官に転生させるとか言ってましたね」
「転生させると言えば聞こえは良いのですが、実際には司法省の奴隷人形になるんです。自分の意思を持たない。あなただったら、なりたいと思いますか?」
「……姫への転生と天秤にかけろって?……う~ん」
「ハイハイ、真剣に悩まないでいいです。とにかく課長は却下しましたが、彼女はあきらめていないのかも知れない。アラガキ・タクトの魂を勾引かして強引に司法官に転生させるつもりだとしたら、それはまさに問鼎軽重! これは何としても止めないといけない!! あなたにも協力してもらいます!」
課長補佐代理は強引に話をまとめてしまった。
「ちょっと待った~!」
「……何ですか?」
「何で俺が協力しないといけないんだ? そもそも今の俺って魂だけで身体がないんだろ? それに姫の肉体がゾンビ化するとか言ってたじゃないか?」
「細かいことまで良く覚えてますね。感心しました!」
「感心って……」
「まず最初の質問にお答えします。アラガキ・タクトを、無事にあなたが転生される世界へと転生してもらう為です。そうしないと、あなたは復讐を果たせないのですよ!?」
「復讐の件はもういいよ」
「ホントにいいんですか?」
「うん」
「却下します!」
「はぁ~!?」
「貴方の意思はこの際、どうでもいいのです! 私がそう決めたのですからおとなしく従ってもらいましょう!」
そう言いつつ、課長補佐代理は酒臭い息を吐いた。酔いのせいで暴走してるのでは、と思わせる態度であった。
「そんな横暴な! お願いだから、もう転生させてくれよ」
不運な運ちゃんAは思わず涙ぐんだ
「はい! 話の腰を折らない!! 第2の質問に答えさせていただきましょう。魂であるあなたに天界で活動するための仮の肉体に宿っていただきます」
「そんなことが可能なの?」
「本来はいろいろ根回しが必要なんですが、今回は緊急避難ということで無理やり!」
課長補佐代理はニヤリと悪人面をした。
「そして、第3の質問の答えですが……実はまだ転生対象の姫から魂は抜いていません」
「……ええっ!? 最初と話が違うじゃないか!?」
不運な運ちゃんAは課長補佐代理に詰め寄る。
「過程は違っても結果は同じことですよ。現地に工作員を派遣しておりまして、私の命令で姫から魂を抜くことになっておりましたので、中止させます」
「中止させるということは、姫転生は?」
「あくまで一時的に執行を延期するだけです。あなたの姫への転生は決定済みなので覆ることはありません!」
そう強調する課長補佐代理。
「……それで? 協力するとして、なんか見返りがあるの?」
不運な運ちゃんAはダメ元で尋ねたところ
「もちろんタダとはいいません……特能をひとつ差し上げます」
課長補佐代理はそう言ったのであった。
課長補佐代理はミマサカ副課長補佐が課長を軽んじていると言ったわけですが、実際には課長補佐代理自身も課長を軽んじているのに、そのことは完全に棚上げしていますね。こういうのを「五十歩百歩」と言います。




