森の奥の廃屋
私は倉田明美(33歳)。
夫と、8歳の娘「由美子」と3人で幸せな生活を送っている。
7月のある日。
雑誌記者をしている私は、未解決事件の特集を組むために、ある連続児童殺害事件の現場となった村へ向かった。
昔懐かしい雰囲気が漂う、のどかなこの村で最初の事件が起きたのは今から25年前の事だった。
当時11歳だった福田玲奈ちゃんが、夏休みのある日「遊びに行く」と家を出て行ったきり夜になっても戻ってこなかった。
村の消防団や警察の人が探し回ったけど、結局玲奈ちゃんは見つからなかった。
翌年の夏休みに、次の犠牲者が出た。
8歳の岩下ゆかりちゃんの母親が朝、ゆかりちゃんを起こそうと部屋へ行くと、ゆかりちゃんはいなくなっていた。
しかし、今度はゆかりちゃんはすぐに発見された。
森の奥にある、使われていない廃屋の中で遺体となって……
ゆかりちゃんの傍には『あんたじゃない…』と、血で書かれたと思われる文字が残っていた。
次の年も、そのまた次の年もゆかりちゃんと同じように8歳の女の子が失踪し、その廃屋で遺体で見つかった。
そして、傍には『あんたじゃない…』の文字。
いつしか、この村では8歳になった女の子は夏休みをよその街で過ごすようになった。
その効果があったのか、その後犠牲者は出なくなった。
だけど、犯人は未だ捕まっていない。
また同じ事が起きるかもしれない。
私は事件について考えた。
なんで玲奈ちゃん以外の犠牲者は8歳なのか。
しかも、玲奈ちゃんだけ発見されていない。
最初の事件だけは犯人が違うのかもしれない。
玲奈ちゃんは事件のあった前の年に、離婚した母親に連れられてこの村にやってきた。
都会から来た玲奈ちゃんはこの村の子供達になかなか馴染めず、家にいる事が多かった。
だけど、あの年の夏休みは違った。
毎日、楽しそうに森へ遊びに行く玲奈ちゃんを見て、母親は「やっと友達ができたみたい」と喜んでいた。
実際、「どこに行くの?」と問いかけると「友達に会いに行くんだ」と答えたらしいから、玲奈ちゃんが誰かに会っていたのは間違いない。
犯人はその友達なの…?
私は、森の中にある他の犠牲者が見つかった廃屋へ行ってみる事にした。
たぶん、玲奈ちゃんもそこで友達と会っていたはず。
もう何年も人の入っていないため、森の中は荒れ放題で道らしい道はなくなっていた。
背丈ほども伸びた草木を分け入ってしばらく進むと、一軒の家が見えた。
あそこだわ。
この時、私は何か妙な雰囲気を感じた。
でも、ここは事件があった場所。
何も感じない方がおかしいと別段気にする事もなく、この中に何か手がかりがあるはずだと思い、廃屋の中に入っていった。
廃屋の中は荒れていた。
壁は剥がれ、階段もボロボロになっていて、今にも崩れそうだった。
そして、床には『あんたじゃない…』と書かれた赤黒い文字が残っている。
すると突然、開いたドアの隙間から女の子の人影が横切っているのが見えた。
そこは昼間なのに薄暗く、あの人影が幽霊かと思うと震えが止まらない。
そして、あるものが目に留まった。
古くて大きな木製の箱……
この時、私は思い出した。
___そういえば……私は昔、ここに来た事があるわ……
この箱……もしかして…………
恐る恐る箱を開けると、そこには体育座りの姿勢で女の子の白骨死体が入っていた!!
「きゃあああああああ!!!!」
私は一度も振り向かず、一目散に逃げた。
そして、8歳の頃にここに来た事を思い出した。
当時の私は小児喘息を患っていて、静養のために夏休みにこの村へ連れて行かれた事があった。
田舎のきれいな空気のおかげで私はみるみる元気になり、ここで遊んでいる時に玲奈ちゃんと知り合った。
たぶん、玲奈ちゃんにとって ここで初めてできた友達が私だったのかもしれない。
だから玲奈ちゃんは私にとても優しかった。
__そう、だから私はあの日、都会へ帰る事を玲奈ちゃんに伝えられなかった。
言ったら玲奈ちゃんが悲しむと思ったから………
そして、私はかくれんぼの途中で黙って姿を消してしまった。
その事が後ろめたくて、いつしか私は記憶の中であの出来事を無かった事にしていた……
私は荷物をまとめて車に乗り、急いでこの村を出た。
玲奈ちゃんが隠れていたあの箱は、外からは開けられるけど中からは開かないようになっている。
玲奈ちゃんは私が開けてくれると信じて、ずっとあの中で待っていたというの………?
私は何て事をしてしまったの……
明日、玲奈ちゃんの家に行って謝ろう……
数日後。
由美子を起こしに部屋へ行くと、由美子の姿はなかった。
家中探しても、どこにもいない。
その代わり、部屋には私が玲奈ちゃんにあげた写真が落ちていた。
そう、由美子そっくりの顔をした8歳の頃の私の写真が…
「みぃ〜つけた、明美ちゃん。次は明美ちゃんが隠れる番だよ」
どこからか、玲奈ちゃんの声が聞こえた気がした……