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父娘の打算

 

極北の地───セプテンノディアスと呼ばれる土地は、ベルハイム領の更に北に位置する土地で、この国の果てにある辺地だ。

一年中雪に覆われ、王都の情報はまったく入らず社交界なんて開かれる事もない。

まさに閉鎖された土地である。

そしてなにより、セプテンノディアスはゲーム終了後、悪事を暴かれたシルフィーナが追放される場所であるのだ。


「極北の地では、自身の力で全てをなさなければいけないと聞きます。それは貴族であっても同じだと。私は自身の無力さを知り、力を得、皆と協力することを学ばなければ、国母にはなれないと思っています。ですからどうか、私を極北へ送り出して下さい」


すべては王妃になるためなのだと。

父親が望む駒になるためだと、そう言って。


(…ふふふ…これで、たとえ家が没落し極北に追いやられても生きていけるわ)


そう。

エピローグで少し語られるシルフィーナのその後は、不自由な閉鎖された極寒の土地で嘆き悲しんでいるとされる。

しかし今からその生活に慣れておけば、こっちのものだ。

そもそも、前世では雪深い場所で生きていたので、雪国の暮らしはさほど苦しくはないはずだ。


(魔法だって使えるしね)


結構な打算を真面目な顔の裏に隠して懇願する。

父親が娘を利用するなら、娘だって父親を利用する。

そうするようにと幼い頃から教わってきたのだ。


「…わかった。いいだろう、シルフィーナ」

「あなた?」

「お前をセプテンノディアスに送ろう」


母親の怪訝な声を無視して、父親は冷めた瞳のまま頷いた。

お母様からすれば、公爵家の令嬢が不自由な地に行き治安も保証されない場所で傷物にでもなったらと考えているのだろう。

しかし、現段階で既に私以上の王妃に相応しい令嬢はいない。

多少傷物になったとしても、国の果てまで行きそこの人々とふれあい、国民を第一に思う王妃という看板は父からすれば悪くないものなのだろう。

なにより、理解ある父として社交界でも有名になるはずだ。

そう、これは、父と子、両方に利益のある行為。

母は父に逆らえはしないから、この話は通ったも同然だ。


「…俺は、反対です」


だからまさか、父の意向を無視し異を唱えたアルフレッドには驚かざるをえなかったのだ。


「アルフレッド?」

「セプテンノディアスに行く?ハッ、ふざけるのもいい加減にしてください」

「アルフレッド、私の決定に逆らうのか?」


お父様の厳しい声に、アルフレッドはそれ以上なにも言わずに唇を噛み締めた。

それを心配そうに伺うと、アルフレッドは顔を背け挨拶もせずに部屋を出ていってしまった。


「…まぁ…アルフレッドったら…」


お母様が口元をおさえて驚いたように呟いた。

一体アルフレッドはどうしたというのだろうか。


「シルフィーナ」

「お母様?」

「アルフレッドとちゃんと話をしなさい」

「話、ですか…?」

「ええ。貴女たちは血の繋がった姉弟なのですから」


ふふ、と柔らかく微笑むお母様に、ただ首を傾げるしかなく、隣のお父様を見てみるものの、少し呆れたような顔をして退出するようにいわれてしまった。


(…話すようにと言われても…)


とりあえず、応接室から追い出されてしまったため、今は自室に向かっている。

外で待機をしていたエレインに先導されながら、お母様の言葉に内心でため息を吐く。

私たちはここ最近、姉弟らしい会話を全くと言っていいほどしていない。

学園ではそれぞれ男女別の寮に入っているし、普段の学園生活でも、一つ歳が違うため合同授業もほとんど行われない。

加えて、私は貴族の令嬢と、アルフレッドは貴族の子息と一緒に行動することが常となっている。

それは貴族として当たり前の行動であり、そう私たちは教わってきた。

まぁ、他のご兄弟の方々は性別問わず話す姿をたまに見掛けるため、特別貴族として不作法というわけではないのだが。


「シルフィーナ様、御召し物は変えられますか?」

「いえ、いいわ。どうせ夜にお父様たちとご飯を食べなければいけないから」

「承知致しました。この後のご予定はどうなさいます?」

「特になにも。薔薇園にでも行って時間を潰すつもりよ。エレインはもう下がって構わないわ」

「何かございましたら直ぐにお呼び下さい」


失礼致しますと一礼をして出ていったエレインを見送り、シルフィーナはベッドへと腰を掛け、そのまま後ろに倒れる。

しばらく帰っていなかったが、やはりちゃんと掃除をされているため、蒲団からはお日様の匂いがする。


「…セプテンノディアス、か…」


貴族であろうと、容赦のないところだと有名な土地。

いい噂は聞かない。

そもそも、王都は魔術によって常に過ごしやすい気候を保たれている。

前世で過ごした日本のように四季があるものの、台風や大雪、干魃といった自然災害はけして起こらない。

そんな王都で生きる貴族が外に出ようものなら、たとえ魔術の腕に自信がある人間でもそう長くは生きられないだろう。

そんな場所へ、自分はこれから向かうのだ。


(…積雪ニメートルとかかな…懐かしい)


前世では、雪で家のドアが開かずに二階から外へ出たと言う思いで出もある。

快適空間で純粋培養された貴族の筆頭である公爵令嬢なら、あっという間にこの世界からおさらばするところだろうが、そうはさせない。


「…雪国の暴れ馬の異名を持った私を嘗めるなよ」


一人不敵に笑ってから、シルフィーナは体を起こす。

鏡で髪が乱れて居ないのを確認し、先程エレインに言ったように薔薇園へと向かうため部屋を後にした。



ご質問頂いたので、付け足します。


Q.3話で「隣の男爵領は干魃が多く」とあり、領民の様子もあったので、てっきり領地へ戻ったのかと思ったのですが、4話では「この王都では干魃(中略)が起こらない」とあり。領地にある方のお屋敷でなく、王都にある方のお屋敷にいるのですか?


A.私の考えているこの世界では、王都と呼ばれる王族が暮らす城のある場所を中心に、王都に近い場所から順に(王家直属の領地以外を)爵位の高い一族が領地として土地を治めています。また、それぞれの貴族の大半が王都に屋敷を持ち暮らしております。もちろん各々が持つ領地にも屋敷はありますが、そこに常駐している領主はあまりいません。月に数度足を運ぶのが普通とされています。ただ、ベルハイム公爵は月の半分くらいは己の領地におり、シルフィーナとアルフレッドが今回戻ったのは領地の方のお屋敷です。急な話だったので、王都の屋敷には居ませんでした。

ただ、シルフィーナは王都の屋敷でほとんど育てられたため、干魃についてなどはほとんど直接見たことがなく、知識として教えられているだけです。


分かりづらくなってしまい、申し訳ありませんでした。

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