黄金の公爵と主従の約束を
「エドワード様」
部屋に入った時、本当にいたキリガネを見て、泣きそうになた。
「出ていって」
だけど、駄目。
「エドワード様?」
「出て言って。僕はもう、寝るの」
僕は、この人のものじゃない。この人も、僕のものにはなれない。
「早く!!」
だから、僕を一人にして。僕を愛してくれないのなら、愛さない。
「分かりました、出て行きましょう」
キリガネの歩く音がして、それから扉を閉める音がした。
「キリ……ッ」
嘘。嘘!お願い、僕を愛して。僕を助けて。僕を僕に返して。取り返して!
「エドワード様」
「キリー」
顔を上げたら、扉の前には、少し悲しそうに微笑んだキリガネがいた。
「いつまでたっても、泣き虫ですね、貴方は」
涙が柔らかいものでぬぐわれる。
「早く着替えないと、お風邪をめされてしまいます」
さあ、早くと僕のシャツを着せてくれる。どうして?
「キリー」
「はい?」
どうして、出て行かないの! って怒らせてくれないの?
「エドワード様、どうか、ご命令を」
なんで、優しくしてしまうの?愛してないんでしょう。僕のものじゃないんでしょう。なのに、なんで。どうしてっ!
「私はこの命が果てるまで……いえ、命が果てても貴方のお傍にいます」
「僕の、ものになるの?」
「いいえ、なりません」
そんなに酷いことを言うのに、笑うの?
「ものでは、貴方を守れません。私は貴方を守るために、傍にいます」
ぎゅっと手を握られる。
「エドワード様、私のためにご命令を」
僕はお父様を愛してるのに。甘やかさないでよ。
【その命 絶えても】
僕は最低だから、
【僕の傍にいろ キリガネ!】
好きになっちゃうじゃないか、馬鹿!
「ねえ、キリガネ」
「何ですか? エドワード様」
ベッドにもぐりこんで、顔だけ出す。
「僕とお父様、どっちが好き? 大切?」
「また、そんな……」
困った顔をする。困ることなの?
「何度申し上げたらいいのです。エドワード様に決まっているでしょう」
「だったらいいの。お休みなさいっ!」
笑顔で目を閉じる。キリガネが動かないのに気付いて、目を開ける。
「どうしたの?」
「エドワード様、このことは旦那様には……」
お給料が、とかぶつぶつ悩むキリガネに笑って、
「どうしよっかなー」
と、言っておいた。