表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『僕がいた過去 君が生きる未来。』番外編  作者: 結月てでぃ
黄金の公爵と絆の約束を
6/39

黄金の公爵といつかの約束を

「おい、いつまでも寝てんじゃねえ、起きろ!」

 頭に重い衝撃を感じた。誰? 僕にこんなことをするのは!

「いったぁい」

 目を開けると、男の人がいた。

「誰っ!?」

 知らない人。男の人。

「だっれか、誰か! キリガネ、兄様! いないの?!」

 その人の着ている黒い服。その人が持っている黒い物。軍服と、ゴツゴツとしたライフル。さらに、その人自身の、イライラとした怒りのオーラが鋭く僕に突き刺さる。

「怖いっ、誰か助けてよお」

 ぎゅっと頭を抱えて泣きそうになっていると、男の人がため息を吐いた。

「暗いガキ」

 涙が出そうになった。怖い! 怖い!

「シュウ! 悪いな」

「遅いぞ、エディス!」

 兄様、兄様だっ。笑いながら兄様がこっちに来る。僕を、助けに!

「兄様っ、僕、怖かった!」

 だっと駆け寄る。途中、怖い男の人と目が合った。嫌だ。

「エドワードさん、すみません、怖がらせてしまって。もう大丈夫ですよ」

 ぎゅーっと兄様に抱きつく。この落ち着く匂い、温かさ。うん、兄様だ。

「キリガネを呼ばなかったら、僕まで!」

 抱き付いて、わあわあ泣く。だって、涙が止まらないんだよ?!

「私が悪かったです。危ない目に合わせてしまい、本当に申し訳ありません」

「本当だよ! もう、しないで!!」

 ガガッと地面を削る音が聞こえた。

「うるっせえ、黙れ!」

 さっきの、怖い人だ。でも、もう怖くなんかない。兄さんがいる!

「お前、僕を誰だか知らないの?」

「エンパイア公爵の馬鹿息子、エドワードだろ」

「ばっ?!」

 緑色の髪をして、同じ色の目で鋭く僕を射る怖い人。

「知ってるのに、そんな態度!? お前こそ、馬鹿じゃないの!?」

 でも、そんなのより僕の方が凄いんだ! 偉いんだ!

「僕の父様は軍にもいっぱいお金をあげてやってるんだ。お前なんか軍から追い出してやる!」

 そう言うと、ソイツは少し悲しそうな顔をした。

「だったら、追い出してみろよ。俺を」

 自嘲するように、怖い人が一度笑った。

「まあ、無理だろうな」

 でも、すぐにいやーな顔に戻っちゃう。

「色狂いのくれるはした金程度じゃな」

 ふっと、笑った。

「はした金じゃない! 町が一つ買えそうな値段だもん!」

「はした金じゃねえか」

「お前、だったらそのはした金、出せんの!?」

 そう言ったら、その怖い人がふきだした。

「そりゃ、出せるだろ」

「嘘つかないでよ!!」

 ぎっと手の平に爪をたてて、声を張り上げる。

「嘘じゃない」

 兄様を見ても、頷くだけ。面白くない、面白くない!

「俺の名はシュウだ。苗字は、ブラッド」

「ブラッド? ブラッドって、あの!?」

 怖い人は苦い顔をした。

「そうだ。だとしたら、お前にも分かるだろ」

「うん……できる。だけど、お前がブラッド家の者だって証拠は?」

「あるぞ」

 バチンッと男が軍服の襟の紐をはずす。

「シュウ! 止めろ!」

 兄様が、走って行く。僕の隣を抜けて。僕を見ないで。

「だめだ、シュウ」

 ぎゅっと兄様が怖い人から紐を奪い取って結び直した。

「これは、そんなに簡単に見せていいものじゃない」

 ぽんっと優しく、首の左側を叩いた。

「兄様ぁ……」

「エドワードさん。シュウ――この男は確かにブラッド家の者です。私が保証します」

 兄様が遠くから僕を見る。僕よりも、あんな怖い男を守ろうとしている。

「家の、家のお金じゃないか! そんなの自分で出すって、言わない!」

 怖い人が、はっと笑った。

「俺は何社、持ってたっけ?」

「覚えきれねーよ。俺に訊くな」

「ってわけだ。うちのグループで、科学系統は全て俺が担当している」

 ブラッド家。この国最大の財力を持つ一族。善い仕事も悪い仕事も、金のためなら何でもする、薄汚い成金。財力をちらつかせて軍や貴族のみならず、王族すらを言いなりにさせようとする最低な連中。こう、お父様は教えてくれた。

「お父様の言う通りだ。薄汚い金で全てを動かそうとするんだね、お前らは!」

「またお父様、かよ。ファザコンもいい加減にしとかねーと気色悪いぞ」

 兄様、兄様! どうして僕がこんなに酷いこと言われてるのに、何も言ってくれないの? 僕の兄様なのに。僕のためにしてよ、僕をもっと大切にしなよ!

「僕は、僕はっ!」

 ぼろぼろと涙が出る。お父様、僕をっ。

「エドワードさん」

 そっと誰かが僕を抱きしめる。見ると、兄様だった。兄様は、静かな表情をしていた。

「兄様、僕はいけない子なの?」

「はい」

 兄様の腕から逃げようとすると、強く抱きしめられた。

「ですが、これからは私が共にいます」

 兄様の顔を見る。その顔は僕のために笑ってくれてなんかいなかった。ただ、この抱擁のように、強いだけだった。

「今は無理でも、いつか。それでいいのですよ」

 ふうーっと、誰かがため息をついた。

「とりあえず、状況は分かった」

 怖い人が、呆れたように両手をあげる。

「後は全て、やりたいようにしろ。今回のことは俺には関係のないことだ」

「悪いな、シュウ」

 ぎゅっと兄様が僕を抱く。

「エディス、忘れるなよ。俺はお前のためなら、犠牲すら惜しまない」

「……ああ。覚えておく」

 怖い人は一つ笑って、歩いていく。

「あ、そうだ。事情聴取、お疲れ様!」

 ははっと兄様が笑う。……こんな顔も、するんだ」

「エドワード様、お車を用意しました」

 ふわりと持ち上げられた。

「キリー!」

 確かめないでも、分かる。

「僕、疲れた。早くベッドでふこふこしたいな」

「了解致しました」

 そのまま車まで運んでもらう。楽!

「エディスさん」

「はい」

 少し狭い車の後部座席に乗せてもらった後、キリガネと兄様の声が聞こえた。

「エドワード様に代わり、お礼を申し上げます」

「いえ、別に。申し訳ありませんでした」

 兄様は、一緒に乗らなかった。僕がベッドに横になって、キリガネに頭を撫でてもらっていた頃に、静かな雨の音が聞こえていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ