黄金の公爵と偽りの約束を
「わあっ、おいしそう!」
「そうですね」
街には、たくさんの香りと色がぎゅっと押し込まれてる。屋敷みたいに広くもないし、凄く汚いけど、面白いから好き。
こんがりと焼けた甘くて硬いパイを叩いて砕く。それを別の生地にクリームと一緒に包んで、甘ーい匂いが道に広がるまで、焼く。
「はい、エディスさん」
「えっ!」
ほかほかのそれを手渡すと、一瞬エディスさんの顔が引きつった。
「あ、ありがとうございます」
「うん。……おーいしっ」
ぱりっとパイ生地を食べ進めると、甘くて、でも少し焼けて香ばしくなったクリームがとろっとでてくる。
「ああ、ついてますよ」
エディスさんがそれをハンカチでぬぐってくれる。にこっと笑うと、エディスさんも微笑んだ。
「ね! あっちも見てみよっ!」
「はい」
手をぎゅっと握って走る。
「ああ! だ、駄目ですよエドワード様、エディスさん!」
人がいるって、素晴らしい。同じくらいの年の子と一緒にいるって楽しい!
「ねえ、エディスさん!」
茶色のレンガの壁に隠れる。
「なんですか?」
「あのね、お願いがあるの」
ひょこっと顔を出すと、エディスさんの優しい笑顔と出会った。エディスさんが頷く。頷いて、跪いて手を握られる。まるで、王子様や、本当の貴族みたい。でも、そんなのは他の誰にだってさせられる。貴方からされても、全然嬉しくない。
「あのね。お兄様って、呼んでもいい?」
家族は、いくらでも買えるものだから。だから、なればいいよ。僕の家族にさ。貴方みたいな、寂しい人は。