たとえ私が消えてしまっても
たとえ私が消えてしまっても笑っていてほしい。あんな夢を言って、困らせて。こんな目に合わせて、泣かせてしまった。
酷い私だけれども、貴女にだけは。貴女の命の灯火が消えるまでは笑っていてほしい。
愛しい貴女、レイアーラ。これを見るときには、私はもう消えてしまっているのでしょう。ですが、私が世界から消えても消えないものはあります。貴女へのこの燃え尽きるはずのない愛の想いです。
レイアーラ、私は貴女を死んでも
「あの……っ」
「悪いが、俺に望む答えはないぞ」
深い緑の髪をした青年。あの人の親友。隣にいなくなってしまってから、初めて会う親友。私は、彼のことを全くしらなかった。
「戦う意思はあるか? なければ俺と一緒に中央に付いてきてもらうことになるが」
「……中央に行けば、どうなるのですか?」
「凍結し、記憶改ざん。その後別の兵器として生まれ変わらせ、戦場に」
そんな、という言葉は出てこなかった。分かって、いたから。此処が優しかっただけで、私はもう人間ではなくなっていたの。だから、その扱いは当たり前、よね。
「……分かりました。私はここに残らせてもらいます。わざわざすみませんでした」
頭を下げると、いや……いい、と掠れた声で返してくれる。
「なあ、アンタ」
「はい」
頭を上げ、見ると、彼は片手で顔を覆っていた。その手の間から零れるものがあった。
「アイツといてくれて、ありがとう、な……っ!」
ぶわっと一気に、今までたまっていたものが全て出ようとするかのように、大量の涙が流れ出した。
「愛してます、レイヴェン!!」
「どうも、ありがとうございました」
アーマーの声が玄関から聞こえてくる。親友を私の代わりに送ってくれたのだわ。静かな足音をさせて、こちらに来る。
「義姉様」
私の前で足音がやんだ。
「ごめんなさい。ごめんなさい……っ、アーマー!」
彼女のスリッパの先を見ていたら言わずにはおれなかった。きっと彼女は怒っている、私を恨んでいる。
「お姉様のせいじゃないわ」
「でも!」
「私のこの想いを背負って頂かなくても結構よ! 子どもみたいにぐずぐず泣かないで! それでも私のお姉様なの? もっとしっかりしてくれませんこと!?」
アーマーの空気を割るような声に私は顔を上げた。髪と同じ火色の気迫を瞳に込めて立っていた。
「私は太陽を射殺す! 侘びの言葉などいらない、アイツをこの手で殺してやる!」
大粒の涙が私にまで降ってくる。悲しい、雨。
「貴女はどうなの、悔しくないの、私が殺したのを人づてに聞くの? 生きてるんでしょう?」
生きてるわ、私なんかが生きてしまってる。そう、私なんかが。
「生きてる、わ。生きてる」
「お願いよ、お姉さま。私、一人じゃなにもできないの……」
ずるずるとしゃがみこんで泣きじゃくる妹の背をさする。
「……そうね、アーマー。私たちの想いは、アイツを殺した後全てあの子に背負ってもらいましょう。あの子は強いのですから。ねえ?」
「は、はいっ、お姉様」
頭を撫で、落ち着かせる。私の妹。
「貴方もそう想うでしょう?」
「うん。そうだね、烏」
烏と、かつてのあの人のあだ名で、今の私の名前を呼ぶのは、不安げな表情をした、弟。
「おいでなさい、フェリオネル」
太陽を、私たちは射殺す。そして必ず貴方に背負わせてみせるわ。それが新しい私の夢。素敵だと思わない? エディス。