貴方に出逢えてよかった
貴方に出会えてよかったわ。いてくれたから、出会えたから今の私はいるの。きっと貴方がいなかったら、出会えてなかったら私はいなかったと思うの。
それくらい貴方は私にとって大切なの。今、確かに思うわ。貴方が大好き。
なにがあっても私は貴方だけを一生愛してるわ。
貴方に出会ったのはとても冷えた月の夜。あの日は私の妹のシルクが戦死してしまった日で、私は酷くうろたえてしまっていた。民衆を驚かしてしまったと後悔したほどに。
「このような所に座り込んでいては体が冷えてしまいますよ」
いきなり頭上から降りかかった声。それは今宵の月のように冷ややかで、だが暖かく、優しくもあった。
「放っておいて下さい。今はここにいたいのです」
長い絹糸のように美しい水色の髪をみだし、上等のドレスのまま夜露にしめった土の上に座っている女性。だが土にまみれてもその女性の清らかな美しさは少しも汚れなかった。普段穏やかな色を携えているセレスト色の瞳は悲しみに満ちており、涙を長く流し続けたため、少し赤くはれてしまっているのが痛々しい。レイアーラ・ティーンス。それが彼女の名である。
今宵、天へと永遠に旅立ってしまった第二王女のシルク様の姉姫。つまりは第一王女であり、王位継承者である。
「ではレイディ」
そう言って誰かが立ち去って行くのだと思ったレイアーラはそれを安心し、しかし寂しくも感じた。しかし次の瞬間優しくささやかれた言葉に顔を上げた。
「私に貴方の涙をお守りさせてくださりませんか?」
そう声をかけたのは麗しい青年だった。夜のような黒に近い紫紺の髪を首の後ろで一つにくくり、その身を白銀の鎧に包んでいる。優しく微笑む瞳の色はまさに月と同じ。だが今宵の月のような冷たさなど全くなく、むしろ温かさに満ちていた。
その瞳を見た瞬間、レイアーラは自然と口に出していた。
「……はい」
こうして二人は出会ってしまった。月と夜のように 花と水のように。
ひっそりと、しかししっかりとお互いを抱きしめあい、愛し合い、この国で最も憧れられた恋人同士。
光の女神・レイアーラと夜の騎士・レイヴェン。二人の悲しくも美しい恋物語は今、ここから始まる――