黄金の公爵と希望の約束を
「ド、エドッ」
ペチペチと頬を叩かれて僕は起きた。
「やっと起きたか、寝坊助」
くすりと笑うのは、紛れもなくエディスさんだ。
「僕……」
ぽろりと何かが零れる。
「僕、凄く悲しい」
その零れたものをエディスさんが指で拭ってくれた。
「悲しくてっ、でも優しい夢を見てたんだ……っ!」
ずっと眠っていたのは、僕。がらくたの城で眠っていたのはお姫様じゃない、僕。
周りが真っ白だって気付いたのは貴方が言ってくれたから。だから、気付いたんだ。僕は生きている、人間なんだって。人形じゃないんだって。
自分の足で歩くよ。いつか、貴方に追いつくまで。貴方を愛せるような僕になるんだ。
「あー、緊張するー」
僕は膝を抱え込んでいた。だって、僕まだか弱い子どもだもん。緊張することだってあるに決まってるよ。東部一大きな屋敷――って言っても僕の屋敷の半分ほどの小ささだけど――の前に僕は来ていた。
「さて、と。行かなくちゃ!」
こんな所で立ち止まってられない。僕の目標はこんな小さな屋敷の中にはない。こんな小さなステージ、僕の舞台なんかじゃないよ。クス、と僕の唇が自然と笑みを描いた。
「あの女は僕を見てどんな顔をするのかな」
僕の顔を見て、僕の声を聞いて、あの女が僕にどういう顔をするのか。きっと、睨むんだろうな。僕が苦しめた分、彼女は僕を憎んでいる。憎しみの連鎖は、止まらない。
「僕を兄さんから離した罰くらいは受けてもらわなくっちゃね」
グッと指をベルのマークがついたボタンに押し付けると、カラーンカラーンという音が間抜けに響いた。
パタパタという小さな音がだんだん近づいて大きくなっていって、
「エドワード様」
赤い髪の、キツイ目の少女が僕の目の前に現れた。
「こんにちは」
ほら、早く。僕が必要なんでしょう。僕を憎みたいんでしょう?
「どうして、貴方が……」
僕を憎んで憎んで、ずっとその気持ちを忘れないでいて。それが君を普通に引き戻すことになるから。
兄さん、僕は貴方がくれた希望を忘れないよ。
【END】