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『僕がいた過去 君が生きる未来。』番外編  作者: 結月てでぃ
黄金の公爵と絆の約束を
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黄金の公爵と暗殺の約束を

 僕はシトラスと一緒に軍に行った。彼が軍人じゃないどころか、軍に入ることすらしちゃいけない人物だと知ってビックリした。

「内緒ですよ」

 と人差し指を唇に触れさせて笑った彼は、僕と同じ寂しい人だった。僕は彼の仲間になっただけで、心まで軍にやったわけじゃない。

 まあ、仲間になるには一つだけ条件があったんだけど、それも僕にとったら簡単なこと。それよりも、ボスみたいな奴の頼み事が大変だった。後、貴族としてのお勤め、かな。最近、腐った貴族って多いんだよね。


「あ、ぅん……い、いっ」  僕が仲間になってまず最初にしたことは一つ。それは僕にしかできないことだった。それをするためには僕自身がすることは一つだけしかなかった。

 男をおとすこと。枯れきった爺さんでも、美形な兄さんでも、必要ならおとした。僕にはそうできる体があったしね。

「じゃあ、明日頼むよ」

「ああ、分かったって」

「しくじったら許さないからね」

 必要なら、どんなに汚い下の身分の奴とも。

「だから分かったって」

 最初は汚いと思った。でも、だんだんそれも感じなくなってきた。どんな奴も一緒だってことを知ったから。僕を僕と見ないで、一時の気分で僕とこんなことをする。後でどうなるかなんて考えもしないで。

「そう。ならいいけど」

 全ての人が、汚かった。僕を僕として見れない奴は、皆切らなくて、駄目な奴だった。やっぱり、こんなのはいけない。こんなものじゃ僕の心は満たされないんだ。

「じゃあね」

「あっ、おい! もう行く気かよ?」

 クスリと僕は笑って、薄汚れた茶色のドアの前に立って、錆びた金属製ドアノブを握る。

「失敗しなかったらまた遊んであげる」

 だから、と僕が言う前に近づいてきた男は乱暴に口をぶつけてきた。

「約束だぞ」

「ハイハイ」

 馬鹿って嫌だね。すぐに調子に乗るんだから。

 僕はさっさと異臭のするボロアパートを出て、一呼吸おいてから走り出す。暗くて狭い路地は通らずに、夜でも人通りの多い大通りで人の間を走る。追ってこられたら面倒だから。黒い車の後ろを走るフリをして、トランクから乗り込む。

「成功ー」

「お疲れさまです、エドワード様」

 はーっと大きく息を吐きながら後部座席に移動する。前を見たら眼鏡をかけたキリーがこっちを向いて笑った。

「これで明日はなんとか。失敗したら悪いけど、あっちを始末しといて。目的の奴は僕がやっておくからさ」

 車が静かに屋敷まで帰っていく。まだ薄明かりがついている街は美しい。汚いものが見えてない世界は綺麗。

「人手が足りないってのも不便だよねぇ」

 金と権力、自分の体を使って雇えても制限がある。しかも信頼度も微妙だから、いつ裏切られるか分からなくて安心できない。でも、それもこれも目的のためだ、皆のためだ。

「キリガネ」

 だけど、時々疲れることがある。僕も子どもなんだから。

「家についたら、おこして」

「はい。エドワード様」

 そんな時はぐーっと、会いたい気持ちが強くなるんだ。




「おや?」

 翌朝、僕は王宮のすぐ傍にある貴族宮の最上階の会議室にいた。

「クレイガス男爵の姿が見えないようですが、どうかなさったのか」

 顎を組んだ指の上にのせて南にいる奴らに訊くと、

「本日の議会には絶対参加とのことでしたが、はて一体」

「ま、まったく、困ったお方ですな」

 と、扉の方を慌てて見たり、脂汗をきったないハンカチで拭いたりする。慌てすぎだってば。

「どうも、最近男爵は我らのことをよくお忘れになるようですね」

 ふぅ、と悩ましげなため息を吐いて、目を瞑る。ここからが僕の勝負だ。

「男爵の席から外してはどうかと、王からご意見を頂いたのですが、貴公らの考えはどうか、私に聞かせてくれぬか」

 場の空気が凍って、ひんやりとしてくる。どうせ、こいつらは何も言えない。だって、ぶくぶく太ってるだけの貴族なんて何の役にも立たないからね。


「やったよ。やったよ僕はっ!」

 ずっしりと手に重い扉を押し開いて、室内に侵入する。

「お前から言われた貴族全員を削除したよ!」

 つるんと白いA四の紙をひらひらと振ったら、

「そうか」

 だけしか奴は言わなかった。

 僕はむっときて、腰に手を当てて、顎を上げて椅子に座った相手を見下した。

「何、ソレ。それだけ?」

「んー? ああ、はい。お疲れ様賞」  ペランと髪を放り投げられ、さらに僕はカチンときたけど、拾ってあげた。それには、ビッシリと黒い虫のような文字が貼りついていた。

「なあに、コレ。ふざけてるワケ?」

「いいや、大真面目だ」

 僕はふぅっと息を吐いて黒い部屋の中を見回す。どうして電気をつけているのにこんなに暗く見えるんだろう。

「……コレを成功させたら僕の望みを叶えてくれるの?」

「ああ。叶えてやるよ」

 僕の望み、大切な望み。それが叶えられるのなら、

「分かった、やってあげる」

 僕はどんなことでもしよう。

「助かるよ」

「別に。こんなの僕にとっては簡単なことだしね」

 余裕をなくしたら、終わり。コイツに飲み込まれないようにしなくちゃいけない。

「じゃあ、きっちり殺してくれよ」

 そう言った後下品な笑い声を出すそれに吐きそうになりながら、どんよりとした空気の部屋から抜け出す。

「殺す、ね」

 僕は扉に背を預けて紙に書かれた内容を読み返す。

「別に悪いことなんてしてないと思うんだけどなー、バスティスグランって」

 黒髪の、いかにもな顔の好青年がうっすらと微笑を浮かべていた。その下を見て見ると、赤髪の青年がオロオロとした顔をしているのに、少し笑えてしまう。

「うわ、なーんか、性格キツそっ!」

 さらにその下に貼られている写真。その中に入った赤髪の少女がギロリと鋭い目で僕を睨んでいた。長男のレイヴェン、次男のフェリオネル、そして長女のアーマー。東部で最も有名な軍人一家、バスティスグラン家の三兄妹だ。

 一番上、長男のレイヴェンの写真だけに赤い丸がつけられている。一体、どうしてこの好青年面をした人物を殺さなくちゃいけないのか。

「この人って、確か結構色んな人から好かれてたはずじゃなかったっけ?」

 元々護衛部だった人だから、時々貴族宮の中で見ることもあったけど、僕から嫌なことを言われても笑顔で対応してて、僕から見ても嫌な感じしなかったのに。優しいこの人は、僕なんかとも話をしてくれて、時々頭まで撫でてくれた。それなのに、僕が殺さなくちゃいけないんだ。物凄く後味が悪くなりそうな任務だ。

「まあ、そんなの僕には関係ないことだよね」

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