黄金の公爵と味方の約束を
「どうぞお帰りください」
相手の体をくるりと回して背中をぐいぐい押したら、
「え、え、何故ですか!?」
て困った声を出した。
「軍に興味ありませーんっ」
軽い調子で言っても相手には効かない。
「どうしてですか?」
「おや、貴族なら余計に入った方がいいのでは? 貴族ならその権力と金で簡単に上れますし」
適当な理由じゃ納得してくれない、と。商人ってのは面倒臭い生き物だね。
「軍人が嫌いなの」
「なぜ、軍人が嫌いなんですか?」
「馬鹿だから」
そう言ったらクスクス笑って。
「それには同感です。が、中にはそうでない方もおられますよ」
兄弟揃って馬鹿か。どうしようもないなあ。
「それってエディスさんのこと?」
わざわざ僕の方から名前を出してあげたらソイツは、
「ええっ、違いますよ~!」
きょとんと子どものような顔をして手を横に振った。
「もっと、もっとまともな人ですよ」
「誰さ」
「それをお話したいと思って来ました。……もう一つは入れ違いで出来ませんでしたが」
ぽんっと僕の前に手が出される。
「なに」
「一緒に行きましょう。僕ら、白の希望の元へ」
金に汚れているように見えた笑顔が、少し違うように見えてくる。
「僕はずっと、貴方を待っていました」
差し出された手の向こうに何があるんだろう。その時の僕には分からなかった。
普通の人なら、きっとその手を取ったりしてない。だって、限りなく間違えに近い道を進み、自分自身を深く苛むから。
だけど、もう一度貴方に逢えるなら。
逢えて言葉を交わせるのなら、言いたい言葉は決まってた。それは、ね。僕の親友と同じ言葉だったんだよ。
「……分かった。一緒に行くよ」
僕は貴方に逢いたかった。逢いたくて仕方がなかった。だから、この手を取った。それが、どれだけ僕と貴方を苦しめることになるのか、分かっていなくて。
貴方の涙が見えてなくて。ごめんなさい、ごめんなさい。僕の愛しい愛しい――