黄金の公爵と勧誘の約束を
僕がそうしていたのはそんなに長くなかったと思う。すぐに何かが転げ落ちてきてくれたから。
「あいたた……」
それは人間だった。それも、あの男とよく似た。
「あれ? 貴方だけですか?」
ソイツは僕の顔を見てぽかんと口を開けた。前言撤回。全っ然、似てない!
「入れ違ってしまったようですね」
顎に手を当てて考えているのをじとーっとみつめてから、やっと僕は口を開く。
「アンタ、誰さ」
やっとソイツは僕の方を向いて微笑んだ。……なんか、むずむずする。変に穏やかな笑顔。でも、なんか安心する。
「シトラス・ブラッドといいます」
うっわ最低。やっぱあの一族か。だから笑顔がこんなんなのかなぁ。アレの弟の手なんか握りたくない。差し出してきてるのを叩きたいくらいだよ。まあ、そんなことをするわけにもいかないからしぶしぶ手を握ったら、両手で握り締められた。一体何なのさ。僕は絶対に何も買わないよ。あの男を殺せるものならちょっと悩むかもしれないけど。
「貴方をスカウトしに来ました!」
にっこりニコニコマーク。セールスマンとしたらその笑顔は合格点かもね。
「あー……すみませんっ、よく聞こえなかったのでもう一度言ってくれませんかぁっ?」
でも笑顔なら僕だって負けてない。
「ですから」
ずずいっと顔を近づけられて顔をそむける。
「貴方を軍にスカウトしに来ました!」
「……は?」
シトラス・ブラッドの第一印象はあんまりよくない。その兄と比べるとかなりマシだけど、それでも微妙だ。だって、コイツは自分を偽っているから。
うん、でもこれだけは言える。その時からずっと、ううん、きっとこの先も、僕の親友はシトラスだけだ。僕はそう思ってるし、シトラスだってそう思ってる。だって、僕の気持ちが分かるのはシトラスだけなんだから、ね。