黄金の公爵と清らかな約束を
僕と兄さんが出会ったのは1年前。僕がなにも知らなかった時代。
「初めまして、エドワード君。エディスと言います」
全く、知らない。エディス大佐。その頃の兄さんは知らない人で、とても死んでいた。
「エドちゃん、これが今日からお前のお兄ちゃんだよー」
汚らしい男が笑う。でっぷりと太った体は脂ぎっていて、そう、ガマガエルによく似ている顔をしていた。
「嬉しいだろ~エドちゃん」
この体に刃を突き刺したら何が零れてくれるだろう。キラキラする金貨かな? 宝石かな?
「はい、お父様」
皮膚の上を彷徨っている手も、なにもかも、汚らわしくて、大嫌い。
「愛してるよ、エドちゃん」
でも、
「はい、お父様。エドワードも愛しています」
エドワードは、僕は、愛していないと許されない。
お父様だけが僕を愛してくれているのだから。だから、僕もお父様だけを愛さなくちゃ、いけないんだ。
「エディス大佐。私がいない間エドちゃんを宜しくねえ~」
にやにやと意地汚い笑み。この人もこの男に触られ、汚れていくのかな?
「ええ。私のような者でよければ」
綺麗すぎる、整った笑顔。作り物の人形の、微笑み。
「エドちゃん、エディスお兄ちゃんにご挨拶、しなさい」
「はい、お父様。エディスさん、宜しくお願いしますね」
にっこりと最後まで言った後、とびっきりの笑顔を見せてあげる。汚らしい男は満足そうに厭らしい笑顔を見せるが、エディスさんは表情を崩さない。
「とてもいい息子さんですね」
と、その綺麗な声が言った時に思った。ああ、この人は、汚れない人だと。そして、この人は寂しい人だ、とも。