黄金の公爵と勉強の約束を
しばらくの間、この生活は続いた。朝早くから起きて軽い朝食をとったらすぐに仕事。区切りのいいところで昼食。また仕事をしてティータイム、その後悪魔に給仕してあげたりしながったり。で、仕事をして夕食を食べたらキリガネと共に活動する時間は終わり。
その後は、自主学習のお時間。勉強する教科はいつも同じ、学び方も同じ。ちょっと範囲が違うだけ。
「さ、今日も頑張らないと」
テキストはずっしりと重い。鈍器代わりにもなる優れもの。学習室もいつも同じ。大っ嫌いな地下室。
「えーっとぉ」
重たい本のページをベラベラめくって、目をとおす。その中で良さそうなものを見つけたらやってみる。こう見えても僕は実践派なんだよ。
【あ、荒れ狂う海の王
私を抱く海の王
狂う王 狂う王
狂え王 狂わせ】
意味の分からない言葉の羅列を真剣に言うのが苦痛だった。だって、笑いたくても笑えないから。も、すんごくおかしくって、笑えて仕方がないのにだよ?
【狂 狂 狂 海王の笑い】
言い終わった僕のお腹からケハハハハッという笑っているのか泣いているのか分からない声が聞こえた。気持ち悪い感触。
ぶわっと僕を包みこむように水が出現して、
「え、え……あ、い、いっけ……っ?」
そのまま止まってたので、とりあえず奥を指差してみた。
勘が当たって、水は恐ろしい勢いでかけていく。金属とぶつかった音がこっちまで聞こえてきたのにはビックリした。
そう、僕が勉強してるのは魔法。お父様の書棚にあったこの本『召還魔術初級編』を見て、分かったんだ。これが僕の剣だって!
だから、僕は毎日こうして勉強してる。実際してみるのが一番だと思うんだよね。これは約二ヶ月間、毎日続いてる。そして、必ず最初は水系を使うことにしてるんだ。
で、次が
【荒れ狂う火の王
私を抱く火の王
狂う王 狂う王
狂え王 狂わせ
狂 狂 狂 火王の笑い】
今度の笑い声はケシャシャシャ。同じケから始まってもさっきの方が全然マシ。カッコよくない! でもってやっぱり気持ち悪い。
「はーい、いっちゃってー!」
火になんて囲まれたらたまらないからさっさと指差した。
赤い光が消えるのを待つために僕は本を開いた。今度はどれを使ってみようかな。一分経ったか経たないか。だんだん文字が見えなくなってきたから顔を上げて奥を見る。最初に放った水の魔法とぶつかって、火はブスブスと水はシュウシュウと消えていっている。うん、いい感じ。さっすが僕!
「もう乾いたかなぁー」
そう言ってふらりふらりと歩き出す。生ぬるい空気が方を撫でた。
奥に浮かぶ白いものが目に映ったところで止まる。また本に目を戻して、
【荒れ狂う雷の王
私を抱く雷の王
狂う王 狂う王
狂え王 狂わせ
狂 狂 狂 雷王の笑い】
ケカカカカッという笑い声。
「いって」
横に手を切ったら、派手に音を立てて雷が落ちた。地下で落ちる雷ってのは迫力があっていいね。
薄く目を開いて見てたら、悪魔の体がビクンと震えて足が空気を蹴っていた。煙が晴れて、傍にいったら悪魔はぐったりと横たわっている。中に入って、その横に座る。本を頭の上に置いて、持って着ていた毛布を被り、寝転ぶ。気絶している悪魔に抱き付いて、そして目を閉じる。ボロボロに破けた布は手触りが悪くて。空気はほこりっぽくて臭くて最悪だった。
でも、僕はそのまま眠りに落ちる。この2ヶ月の間。僕は毎日、悪魔と一緒に寝ていた。どうしてか、ここはとても寝心地が良いんだ。