黄金の公爵と保護の約束を
ふーっと奴が息を吐いた。
「出てこいよ」
と言われたけど、出ていく気なんて僕にはない。コイツは悪魔だ、人間じゃない。だから話なんて聞いても全く意味がない。
「エドワード、なにもしないから」
そんなこと言われて、素直に出ていく奴がいるんだろうか。僕が見たことのない世界のどこかにはきっといるのかな。
キリーは今いない。下で少し用意をしてもらっている。僕は、この屋敷の一番上にいたりする。茶色い屋根の上に腰かけてる。風がビュウビュウなって、痛いし寒い。でも、まだ中に入るわけにはいかない。キリガネの用意が全部済んでないだろうから。くしゃんと一つくしゃみをした。慌てて口をふさいでちらっと覗き窓から中を見る。もうバレてるとはいえ、なんだかヤな感じだ。
「エドワード」
もう一回小さくくしゃみをしたら、悪魔が窓から上半身を出してきた。僕の方に手を差し出し、
「おいで」
と言った。
頭をイヤイヤとすると、今まで見たこともないようなやわらかい顔で笑った。きっと、これがコイツの本当の笑顔なんだって気付いた。
「俺はお前に危害を加えない。だから、こっちにおいで」
どうして? どうして悪魔がこんな顔をするの。綺麗な顔をしてるから、こんな風に見えるの? そうだよね、うん、きっとそう。だから、これは甘えてるんじゃなくて、許してなんかなくて、むしろその反対で。そう、チャンス。悪魔を捕らえるチャンスなんだ。
「……うん」