黄金の公爵と一歩の約束を
僕は偉い。本当は僕が偉かったんじゃないけど、それでも僕は偉い。
エドワード・エンパイア。それが僕の名前だった。でも、僕の名前は今日からもっと長くなる。あの、悪魔のせいで。今だって思ってる。一番最初に会った時、僕がナイフを持っていればと。そのナイフをアイツの胸に突き刺していればと。
「お父様……」
今になって思う。守られるのは僕じゃなくてお父様だったんだ。戦うのは誰でもない、それは僕自身だった。へっぴり腰でも、なんでもいいからファイティングポーズをとるのは。結局、自分を守れるのは自分だけなんだ。
「出ていきたい奴は出ていけ」
僕の住む屋敷の玄関に使用人を全て集め、そう声を張り上げた。そう言うと、ザッザッと僕の横を人が通って行った。笑顔で嬉しそうに。笑いも出なかった。知っていたから、僕は嫌われているってことを。
これから彼らは何処でどうやって生きていくのだろう。明日からの安全を考えないほどに、この家の方が嫌だったのだろうか。
「エドワード様」
横を黒が通ったような気がした。ザアッと全部が真っ白になった気がして僕は叫んだ。
「キリガネ!」
黒い服を着た人が僕に微笑んだ。それはさよならなの? それとも――
扉が閉められて音のない屋敷に置いていかれた。早く、早く探さなくちゃいけないのに、僕はぺたんと床に座り込んだ。早く、早く僕のナイフを見つけて、あの悪魔を滅ぼさなくちゃ。そう思ったら涙がでてきた。ぬぐってもぬぐっても止まらない。泣いてる暇なんてないのに。
ここはどこなの? 僕は誰なの? 僕はどこで何をしたらいいの?
「エドワード様」
優しい手が色を与えてくれる。僕をすくい上げて屋敷に戻す。それは微笑む。黒の中の白。
「キリガネ……どうして?」
だから、言ってるじゃない。
「誓いました。私は貴方と永遠に共にいると」
「いい、の?」
「いいも悪いもありません。私は貴方だけの僕です」
跪いて僕を抱きしめる。
「今日から私と暮らしましょう。貴方の全てを私が支えます」
脇の下に手を入れられてぐるぐると回される。……なんだか、ちょっと楽しい。昔、ずうっと昔にお父様がしてくれたような気がする。
「ちょっとドキドキしますね、エドワード様」
こくんとそれに頷いて、笑う。うん、まだいける。僕は笑える。生きれてる。
「キリガネ」
「はい」
僕のことを想ってくれるなら、大切に想ってくれてる、僕に力を貸して。僕が誰の前でも笑って生きていけるようになるために、力を貸して。僕と、一緒に歩いて欲しい。
「じゃあ、いこう」
どこに行くかなんて聞かないで。決まってないんだよ。とにかく、僕とキリガネが安全に生きるための第一歩目だ。
「悪魔を捕まえに行こう、キリガネ」
初めて一人で立つために笑う。僕だけの味方に手を伸ばす。
「さあ、早く!」
やっと手が繋がった。じゃあ、じゃあ、歩き出そう!
今度は簡単にいかないよ、悪魔。だって、ここは僕のための舞台だ。
突き刺して 落して そして羽をもいであげるよ悪魔