黄金の公爵と殺人の約束を
「兄様ー」
「はい。どうされました?」
「兄様って、バイオリンは……」
屋根裏にある、兄様の部屋。行くまでの道が暗くて、階段が長くって。だから、好きじゃない。
「引ける?」
でも、どんなにくだらない理由でもいいから、一日に一回は行くようにしてる。
「ええ」
「本当? じゃあ、教えてくれる?」
「私でよければ」
ほこりっぽい部屋、狭い部屋。小さいベッドに、いっぱい紙が置いてある古くて汚い机と椅子だけの部屋。
「わーいっ!」
お似合いだね。薄汚い家畜の部屋に。
「ありがとう、兄様」
汚いベッドに腰かけてあげて、ぼろぼろで傷だらけのバイオリンを持った奴を見る。
でも、
「……あら?」
「なあにい?」
でも、
「美しい音色」
「これはエドワード様じゃないわねーえ」
「でもエドワード様の教師でも、こーんな音は出せないわよ」
でも、
「じゃあ、あの人じゃないの?」
「あの人って誰さ」
何をさせても、
「エディスさん。この前からいる」
「あ、あの綺麗な人?!」
いつさせても、
「あの人ならねー」
「何させても上手いもんね」
「こないだ、狩りに一緒に行ってくれって頼んだ奴がいたよね」
「あ、あれ凄かったー!! こーんなにおおっきい鹿を狩ってきてくれたのよ!」
「……軍人だから当然じゃないの?」
どこでさせても、
「でも、あの人ピアノも上手いよ」
「うそーっ!」
「ホント。こないだ弾いてたの見ちゃった。絵画みたいにキマってた」
どうやっても、
「軍人だから、強いし」
「スポーツ万能だし!」
「でも他の筋肉の塊みたいなのとは違って、頭もいいし!」
どうしても、
「エドワード様より貴族っぽいよねー」
「だあーってえ、エドワード様って威張ってるだけじゃん」
「いっつも僕はお前らとは違うんだーって顔してさ」
「なにしても下手くそなくせに、偉い人のご機嫌取りと人の弱点を探すのだけは上手いよな」
僕を、見下す。
「……上手いね」
「ありがとうございます」
控えめな微笑み。ムカつく。そうして、笑ってさ。心の中でも、僕を笑って見てるんだろ。エドワード様より、とか言われて喜んでるんでしょ。汚い奴、汚い奴、汚い奴!!
「兄様、じゃあ教えてー?」
「はい」
僕を殺そうとする奴は許さない。
「兄様、ここ分かんない」
「そこはですね」
ねえ、お父様。コイツを、コイツから僕を守ってよ。もう二度と僕を殺そうだなんて誰も思わないようにしてよ。僕を、お父様で埋めて。全てお父様のものにしてっ!
そうしたらもう、僕は何も考えなくてもいいでしょう? ねえ、お父様。