黄金の公爵と眠りの約束を
愛してる。愛してるって言って。大人って、よく言えるね。アイシテルなんて偽りの心から出た言葉を。本当は、愛してなんかいないくせに。
「エド、エドワード。こら、起きろ」
「んー……エディ……」
「兄さんだ、エドワード」
むっとした顔で兄さんが見ている。兄さんはエディとかエディーって言われるのが嫌いなんだ。許すのはギールかドゥルースくらい。
「こんな所で寝たら風邪を引くだろ。それに」
ぎゅーっと首に抱き付いて、短くなった髪の毛に顔をうずめる。兄さんの甘いような、でもすっきりとした花の匂いに似た香り。
「明日出発するんだろ? こら、まだ準備残ってるだろーが」
「兄さんっ」
ぎゅっと子どもみたいに抱きつく。すると短くため息をした。頭をひんやりとした手が撫でる。
「……分かったから、ちょっと落ち着け」
「うん」
「少し、もう少しだけ…寝てろよ」
「うん」
兄さんの膝の上に頭をのせて、目を瞑る。
「ねえ兄さん」
「ん?」
「ううん。やっぱり、何でもない。お休みなさい」
ぎゅっと目を閉じると、世界が柔らかく落ちた。
ねえ兄さん。僕 まだ愛してるなんて言えないよ。そんな寂しい言葉 兄さんに向かって言えないよ。
だって大好きだもん。こんなに酷い言葉でなんて伝え切れないよ。