喫茶店で実技試験
「はー疲れたー」
私は今街の中にいる。かなりの距離を全力で走ったので結構疲れた。時間を確認してみると、23時前になっていて、現実の時間は21時位だ、明日は学校が休みなのでもう少しできるだろう。
「というか私は街の外になにしに行ったんだ…」
もうね、モンスター(?)が来て怖くなったから、戦わずして逃げるとかね…情けなさ過ぎでしょ。でもね、あれはしょうがないよね、松明消してて周り真っ暗で何も見えないし、しかも狼だよ?犬じゃないよ?しかも目が光ってるんだよ?怖過ぎでしょ。これじゃあ逃げてもしょうがないよね? うん。と少し取り乱しながらも息を整えて、これからのことを考える。
「冒険はまだ私には早い事が分かったから、街を探索しようかな?」
私は街の外に出ることをやめて、街を探索する事にした。「よし、そうと決まれば早速探索開始!」
探索を開始して分かった事を少し報告してみる。
まず初めに、この街の名前は「ロレントの街」で大まかな構造だ。形は歪んだ円形型で、周りを高さ3m程のコンクリートの様な壁に囲まれている。門は東西南北にあり、東門をでると「深き深緑の森」(只今上級ギルドが攻略中)があり、西門を出ると「惑わしの洞窟」(攻略放置中)がある。で南門を出ると「太陽の丘」(初心者向け)があり最後に北門を出ると、畑が広がっているとのこと。そして南北に「ポータルゲート」があり北が「入口」で南が「出口」だそうだ。2つの「ポータルゲート」を結ぶ大きな通りを「大通り」と言うらしい。大通りには、露店などの店が多くあり主に、プレイヤーが開いているのが露店だそうだ。露店の人とは仲良くしておいた方がいいらしい。とここまでのことを、大通りで暇そうにしていたプレイヤーに聞いた。後もう少し詳しく聞いてみると、教会や図書館などもあるそうだ。そしてゲーム内のNPCの経営している店などは基本24時間営業だそうだ。
私は今までの情報をまとめながら、図書館があると言う西門を目指して夜道を歩いている。人通りの少ない(大通りをそれると、基本人通りは少ない)道を歩いていると、目の前で4、50代のおじさんが大きめな木箱を重そうに持ち上げ様としているのが見えた。私は「手伝います」と言ってそこに加わり木箱を下から待ち上げる。おじさんは一瞬驚いた顔をして「すまねー、そこの店ん中まで頼む」と言って顎で近くの建物を指す。私達2人は箱を落とさぬよう慎重に木箱を建物の中に運ぶ、かなりキツかったがなんとか運ぶ。建物の中に入ると、「こっちだ」とおじさんの先導により奥の厨房の様な所に木箱を運び込んだ。「ここで下ろしてくれ」と言われたので慎重に下ろして行く。その後、おじさんに
「手伝ってくれてありがとうな」
「お礼するからそこの席に座って待ってろ」
と言われたのでカウンター席に座って待っていた。その時周りを観察してみると、ここが飲食店であることに気づいた。木造で内装はそんなに大きくなく、4人がけの机が3つと、カウンター席が5つある造りだ。そんな事を考えていると、
「手伝ってくれてありがとうな。これはほんのお礼だ、食べてってくれ」
とホットコーヒーとサンドイッチを私の前に出した。「いいんですか?」と確認すると「おう」と返されたので、「じゃあいただきます」
と言って、ゲームの中で食事をするって不思議だなと思いながら、コーヒーに口をつける。結構濃いコーヒー(無糖)だったが、独特の酸味があってかなり美味しと感じた。次にサンドイッチに手を付ける、サンドイッチを両手で持ち一口頬張る、シャキシャキとした野菜の食感と少し塩気の効いた肉の味を感じ最後にフルーティーな酸味が口の中に広がる。うん、これも美味しい。少しの間、食事を楽しんだ後に手を止めて、目の前にいるおじさんに声をかける、
「あの、ここって喫茶店ですよね?」
「ああ、まあそんんあ所だ」
「1人で経営しているんですか?」
「いや妻のジュリアと二人で経営している。だけど最近妻が腰を痛めてな、今まで通りに店が回らなくて困っている」
と少し困り顔で答える。どうやら妻のジュリアさんが腰を痛めてお困りの様だ。私はコーヒーを飲み一息つくと、ふと気づく。「そういえば、今所持金キツイんだよなー、ジュリアさんの腰が治るまでなんとか雇ってくれないかな?」などと考えてとりあえずたずねてみる。
「もしよかったら、ジュリアさんの腰が治るまで、私を雇ってくれませんか?」
と聞いてみると、驚いた顔をして
「お嬢ちゃん、料理はできるのかい?」
と問われた。私は自分で料理好きを自負していて、そこそこ腕に自信もあったので、「勿論です」と答えた。
「そうか、確認のために少しテストの様なことをするがいいか?」
「テストですか?いいですよ」
「よし、じゃあ厨房に一緒に来てくれ」
と言って、おじさんは厨房に下がって行く。私は「いまから⁈」と思いながら後について行く。
「そこにあるエプロンを着けてくれ」
と言われたので、沢山あるエプロンの中から黄色いエプロンを選んで着けた。
「準備できたか?じゃあこれを作ってみてくれ」
とレシピを渡された。私はそのレシピを見て、拍子抜けした。なぜならそのレシピに書いてある内容がどう考えても、「目玉焼き」の作り方だったからである。
「こんなので、いいんですか?」
「ああ一応、な。料理出来る奴には、簡単だと思うがな。調理器具と材料はそこのはそこのを使ってくれ」
「はい、分かりました。早速始めます」
と言い私は腕を捲り、手を綺麗洗ってから作業にとりかかる。まず材料と調理器具の確認、フライパン、フライ返し、卵、バター、うんちゃんと揃っている。確認が終わり、いつも
家でやっている様に調理していく。フライパンを火にかけ温める。温まったらバターを一欠片落とし溶かしながら広げる。そして卵を手に取って机に2度程ぶつけて、フライパンに落とす…はずだったのだが、机にぶつけた時に握り潰してしまった。少し驚いたが、気を取り直してもう一度新しい卵を手に取り、今度は力を加減して机にぶつける。するとヒビが全く入らなかった。そして力をどんどん強くしながら、机にぶつけていると潰れて仕舞った。私が唖然と卵でベトベトになった手を見つめていると、
「お嬢ちゃんもしかして…」
と微妙な表情で見てきたので慌てて、
「違うんです!いつもは普通に出来るんです!何故か今日は調子が悪くて…」
と少し無理がある言い訳を口走る。すると
「いやいやお前さんの腕を疑っているわけじゃない、只今お嬢ちゃんもしかして、「料理スキル」おぼえてないんじゃないか?」
と言われた。私は思わず「料理スキル?」と聞き返すと、「やっぱり」みたいな表情をされた。おじさんは「ちょっと待ってろ」と言って厨房の奥の扉に入って行き、すぐにピンク色のエプロンを持って出てきて、「これを着けてやってみろ」と言われたのでエプロンを着け直して再度目玉焼きに挑戦して見た。する今度は拍子抜けするほど簡単にできた。私がさっきは何で出来なかったのかを考えていると、おじさんがヒョイ、と目玉焼きの置かれた皿を持つと、フォークをグサリと刺して一口で食べてしまった。私がどうだったかを目で訴えていると、「うまい!合格だ」と言われたのでひとまず胸を撫で下ろした。
「じゃあお嬢ちゃん少しの間よろしくな!自己紹介が遅れたが俺はここ『木漏れ日の喫茶店』の料理人でガバンってんだ、よろしくな!」
「私はトウカと言います。よろしくお願いします」
「おう、よろしく! 奥に俺の妻のジュリアがいるが、話した様に腰を痛めていてな、今は療養中だ挨拶出来なくてすまねー」
「無理しなくても大丈夫です。お大事にと伝えておいてください」
「おう、心配してくれてありがとな」
一通り自己紹介を終えた後、ガバンさんが「これからよろしくんな!」と手を前に突き出したので、私も「よろしくお願いします」と言ってその手を握った。
トウカちゃんの戦闘はまだまださきなようです。