星空の下夜道を歩く
「おーい、そこのお嬢ちゃん早くどかないと邪魔になっちゃうよー」
という男の声で「は!」と我に帰り(このパターン多い気がする)「すみません!」と謝りながらそこをどく、道の脇によけた後、状況を整理する。まず先程まで自分が立っていた場所を見る、そこにはチュートリアルを終わらせる時に使った「ポータルゲート」と同じような物があった。そこから時々人が光に包まれて出てくる。おそらく、ポータルゲートの出口のような物だろうと納得して、状況の確認を続ける。時刻は夜10時半過ぎ、もうとっくに夜だ、目の前の通りは沢山の人で賑わっている。現在地は『ロレントの街』と言うらしい、道は真ん中部分だけ石畳みが敷いてあり、他の部分は地面がむきだしになっている。街並みは西洋風のレンガ造りや、日本風の木造建築など色々混ざっている。行き交う人々も個性的で、ローブにトンガリ帽子の、いかにも魔法使いですというような格好をした集団が急ぎ足で歩いていたり、全身金属の鎧に包まれた男と、大きな「斧?」ような物を担いだ剣闘士風の男と談笑しながら歩いていたり、勇者パーティーぽい集団がいたり、メイドがいたり、武士がいたり、、、混沌した空間が広がっていた。私の銀髪なんて個性にもなっていないんじゃないかな?そんな中にも地味な人もチラホラ歩いている。おそらくNPCだろう。
ふと、メッセージが届いているのに気づきメッセージを見る。
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「チュートリアル」をクリアしました。
報酬
木の矢 ×30
1500G
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「へー、チュートリアルで報酬が貰えるのか」と思いながら、メッセージを閉じる。そんな事よりこれからどうするか考えよう。私が考えている事は2つで、1つはこの街の探索をすることで、もう1つは早く武器を振ってみたいので街の外に出ることだ。正直2つ目は暗くて戦闘は出来ないかもしれない。でも冒険っぽい事を早くしてみたい気持ちがかなりあるので、少し悩んだ末に街の外に出ることに決めた。まずは街から出るために出口がどこにあるかを、すぐ近くを通りかかった、いかにも冒険者っぽい男の人に聞いてみようと声をかけた。
「あの、ちょといいですか?」
「え、俺の事?」
「はい、ちょっと道を訪ねたくて、この街の出口が何処にあるか教えてください」
「あ、それなら…」
そこまで言って、冒険者っぽい男の人は言葉を切り私のことを見つめてきた。まず顔、次に視線を下にして体をジロジロと見ていく。私はその行動を不思議に思いながら、男の人の顔を見つめていると、男の人が視線を上げてまた私の顔を見てくる。その時、男の人と視線が合い見つめあっていると、いきなり男の人の顔が赤く染まり視線を逸らされた。不思議に思って、少し小首をかしげながら、
「どうしたんですか?」
と聞くと
「なんでも無い」
と返された。そして男が「そんなことより」と仕切り直しす。
「君もしかして、初心者?」
「はい、そうですけど」
「だったら『フィールド』に出るのはやめた方がいいよ」
「なんでですか?」
「夜だと初心者にはちょっとキツイモンスターが出るからだよ。一応場所を教えておくと、この大通りを『ポータルゲート』の反対方向にまっすぐ進むと『南門』があってそこから、外に出ることができるよ」
と街から出る方法が分かったので「わかりました、気をつけます。ありがとうございます」とお礼を言い早速、「南門」に向かおうとする。正直冒険をしたくてうずうずしている。
「君本当に外に出るんなら、せめて松明位持って行った方がいいよ」
と心配そうな表情で言われた。私はぺこりとお辞儀をしながら「わかりましたそうします。色々教えてくれてありがとうございます」と言い残し、大通りに出る。
とりあえず、さっきの男の人の言うことを聞いて松明を買うことにした。大通りに面している沢山の店の中で、「雑貨屋」と書かれた看板が掛けてある店に入る。カウンターに立っている店員(地味なのでおそらくNPC)に松明はあるか聞いてみると、
「いやーごめんね、もうとっくに売り切れちゃってるよ、悪いけど明日の朝には届くからそれまで待ってもらえるかい?」
どうやら松明は売り切れているらしいので、他を探してみようと店を出る。すると
「ちょっとそこのお嬢さん、もしかして松明をお探しではないですか?」
と、人の良さそうなお兄さんに声をかけられた。
「はいそうですけど、何か?」
「いや、少し教えてあげようと思って、おそらく何処の店も松明は売り切れだと思いますよ。何故なら夜道を歩くために沢山のプレイヤーが買って行くからです」
「なるほど」と思いながら、どうするかを考えていると、
「そこで提案です、実は私これから狩りに行く予定だったのですが、急に一緒に行くはずだった友人が来れなくなり、あらかじめ購入してあった松明がいらなくなったので、よかったらお嬢さんに売ろうと思うのですが、どうですか?」
と聞かれたので、「いいんですか?」と聞くと「おまけしますよ」と言われ私はその提案乗った。そして、慣れない手つきで「松明×2」と「900G」をトレードした。(彼の話によると松明1つは、1000Gもするらしい)そして彼にお礼を言いその場を後にする。
「南門」に着くとそこは、大通りに比べるとかなり暗く静だった。私は少し緊張しながら、ショートソードを腰から下げて、スキルがセットしてあるか確認して、門番の人に頼んで中央の大きな門ではなく、脇の小さい門から外に出た。
そこには「闇」が広がっていた。現実の世界では全く経験した事がない程の暗い夜だった。前方には平原が広がっている事が辛うじてわかる位で、その他の事は殆ど見る事ができない。そんな呑まれる様な闇の中を私は硬く握りしめられた松明で足下を照らしながら、興奮と恐怖の入り混じった思いで突き進んで行く。
南門の灯りが小さくなるほど歩いたところで、少女は立ち止まり、ふと空を見上げる。そこには、真っ黒な夜空に宝石のように輝く星々が、無数に散りばめられて空を覆っている。すると少女は何を思ったのか、足下を照らしていた松明の火を消し、その場に座り込むと「リアルより綺麗って本当だね」などと呟きながら、だらしなく口を半開きにし、優しく闇に包まれて夜空を眺めていた。
夜風を頬に受けながら夜空を堪能していると、遠くから「ハッ、ハッ、ハッ」と妙な音が聞こえてきた。耳を凝らして探っていると、その音が近づいてきていることに気づき、背筋に緊張が走る、すぐさま立ち上がり、音のする方に目を凝らしてみると、一対の光物が上下に揺れながら近づいてくることが分かった。私は緊張で身を硬くしてそれを見つめていると、それが獣の目であるかとが分かった。恐怖で動けないでいると、それはどんどん近くにやってきた。そして後数メートルの所まで来た時、それが狼であることがわかった。その瞬間私は体を反転させて、全力で南門へ向けて走り出した。
人の良さそうなお兄さん…あ(察し)