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白い女

作者: 不能犯

怖くなくても怖がりましょう


S君はその日の授業中とても眠たかった。始まってからまだ10分もたっていないのにうとうとする。

部屋が暑いからか? そんな意識からかふと窓のほうに視線を送った。

隣の棟はすべて空き教室のようだ。S君が授業を受けている二階と同じ階の空き教室の中が見渡せた。

その教室は、少し薄暗く。一番後ろの窓が半分開いている。風が、カーテンを揺らして空き教室を駆ける。


あの教室で昼寝したら、気持ちいいだろうな。


S君はそう思った。

それから1時間が過ぎた。最初のほうは何とか粘っていたのだが、どうやら寝てしまったらしい。

ぼんやりとする眼で黒板の方を見る。男性教師のT先生が指示棒をバンバンと黒板にたたきつけている。

黒板には赤いチョークで四角くマークされたところがあった。あわててS君はノートに板書する。

すると、冷たい風がさらりとS君の首元を撫ぜた。


誰かが、窓でも開けてくれたのだろうか。


窓の方を見る。窓は閉まっていた。だが、古い校舎なので隙間風くらいは当たり前だ。

きっとさっきの風もそうだろうとS君は思った。

じっと窓のあたりを見ていると、隣の棟の同じ階の空き教室が目に入った。

何かが、いる。

よく見ると女のようだ。薄暗い空き教室の一番後ろの席で、うつむいている。

時折、小さくだが体が動くのが見える。


あぁ、きっと空きコマだから勉強でもしてるんだろう。


S君はそのままじっとその女を見つめていた。耳にかけた長い髪が、時折顔にかかる。それを右手で耳にかけなおす。

ふと、女はS君の方を向いた。


こらS!! 今は授業中だ!! そんなに外に出たいなら出てくれ!!


T先生の怒号にS君はびくりと体を震わせ、教卓の方を向く。あわてて授業を受ける体勢になる。

ちらりと横目で隣の空き教室の方を見ると、一番後ろの半分開いた窓のところに、女が立っている。

白いワンピースのようなものを着た女はS君に向かって微笑んでいた。


授業も残り10分ほどとなり、教室内がざわつきだす。あれからわき目を振らず授業に集中していたS君はまた、窓の方を見た。

女はゆっくりと窓のすぐわきを通り空き教室を出ていく。そこから続く渡り廊下をゆっくりと歩いてこちらの棟に向かっている。

その先はこの教室の開いたドアからよく見える。S君は一番後ろの席に座ってはいたが、一番端の席だったのでこちらの棟の渡り廊下が交わる廊下を一望することができた。だが、おかしい。女はその廊下に出てこない。渡り廊下は一本道で他に行くところはない。


見落としたか?


とも思ったが、こんな見通しのいい場所で見落とすはずがない。不思議に思っていると、教室内で小さな悲鳴が上がった。声からして女の子だった。それを皮切りに、教室内は異様な空気に包まれた。ざわついてはいるのだが、授業からの解放感からのざわつきではない。何か不審なことが起こったかのようだ。それも全体がざわついているわけではなく、所々でざわついている。


気持ちが悪い。


S君は何となくそう思った。すると、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。教科書を片付けていると、何やら視線を感じる。顔を上げると何人かの学生がこちらの方を見ている。その顔は少しの恐怖と、不安を含んだ顔が多い。


何だ?なんで俺を見てるんだ?


わけを聞こうと話しかけようとした。途端に、S君を見ていた人たちは各々友人たちを引き連れて足早にいってしまった。

何が何だかわからなかったが、とりあえずS君は家に帰った。




その晩。

S君から友人のY君は電話をもらった。


話したいことがあるから、アパートまで来てほしい。それから他の友人も誘って麻雀でもしよう。


というものだった。Y君はS君のアパートに向かった。途中、スーパーによってつまみや酒なんかを買ったので、ついたのは電話をもらってから1時間ほどたっていた。アパートについたY君はノックをした。



S? いるのか?

おう、いるよ。上がってくれ。



Y君はドアを開け、中へ上がった。玄関口にはS君の靴と白いサンダルのような女物の靴がきちんとそろえて置いてあった。



ははぁ、Sのやつ彼女ができたんで俺に報告する気なのか。


Y君はそう思い、買ってきたものを冷蔵庫にしまいに行った。台所は玄関のすぐわきにあるのでS君たちがいる部屋は見えない。


おいY。早くこっちに来いよ。

わかった。すぐそっちに行くからちょっと待っててくれ。

早くしろよな。


Y君は冷蔵庫にしまいこむと、S君のいる部屋に向かった。S君は、首をつって死んでいた。大きく揺れるS君。Y君は無我夢中でS君をおろし、救急車を呼んだ。


警察などから事情を聴かれ、いろいろあったが何とか家に帰してもらえたY君はとぼとぼと、暗い小道を歩いていた。

S君の冷たい体の感触がまだ手に残っている。

思えば、おかしなことばかりだった。S君がかけてきた電話、恋人を紹介するような雰囲気ではなかった。

部屋に上がるとき、白い靴があったのに女の声はしなかった。

救急車が到着したとき、白い靴は玄関にはなかった。


そして、S君が死んだのはY君が電話をもらった直後だったのだ。

Y君がS君の部屋に行ったとき、S君は返事をしていた。

しかし、S君はその時死んでいたはずなのだ。Y君はぞっと背筋が凍りついた。


俺、Sになんていったっけ?


おいY。早くこっちに来いよ。

わかった。すぐそっちに行くからちょっと待っててくれ。

早くしろよな。


そうだ、来てくれって言われて、行くよって言っちまったんだ!それに、電話で他のやつも呼ぶって……


Y君は急いでS君と自分との共通の友人に片っ端から連絡した。


Sが死んだ。もしあいつから連絡があっても、用があるからいけないっていうんだ。


すべてが終わり、Y君は自宅の前まで帰ってきた。家の鍵を忘れたY君は電話をして中から開けてもらおうとした。電話をかけ、妹が階段を下りてくる音が聞こえる。戸口に妹の影が見えた。

しかし、Y君は家に入ることはできなかった。妹が鍵を開けた時、Y君が待っていた道路を暴走した車両が通ったのだ。Y君はその車の車体に挟まれ、家の塀と車体の間でぐちゃぐちゃになって死んでしまった。


S君とY君が死んで、すぐにある噂が立った。S君は死神に連れて行かれた。そしてY君も道づれで死んでしまったのだと。実はS君が死んだ日のあの教室で起こったざわめき。終わりまじかの教室に白いワンピースを着た女が、ぬうっと入ってきてS君の横にじっと立っていたそうだ。そして、S君と一緒に教室を出て行ったという。


どうでしょうか?

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― 新着の感想 ―
[一言] 改めて読み直すと怖かった。 行間もよくて読みやすかったです^^
2012/06/17 08:39 退会済み
管理
[良い点] 怖かったです! 短編なのもあるけれど、 何の違和感も感じずにサクッと読めました(^O^) 私も見習って読みやすい作品を書きたいです(*^o^*)
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