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書け……ないんですけどー!!!

作者: 鈴乱
掲載日:2026/03/01


『ふん……。次はアタシの番……』


 順番に「自分の物語」を紡いだ兄さんたちは、「終わった終わった……」と次々と解散モードになっている。


『……ふん。アタシはもっと世間をビックリさせるような、大金をがっぽり稼げるような、そんな超大作を書くんだから……。ねぇ、(るい)!」


 眠っているアタシの半身に、勢い込んで呼び掛ける。


「ん~?? んー。そうだねぇ……」


 (るい)は眠ったまま、中途覚醒して、アタシの言葉に返事を返す。


 そういうところは、さすがアタシの半身だけはある。


「ぐー」


 返事だけして、(るい)はまた眠りの海に潜った。


『さすが……! アタシのことなど眼中にもない。眼中どころか、人生にもないようなこの態度。うん、推せる……!』


「むにゃ……無理は……よくないよ~」


 一体、どんな夢を見ているんだろう、とか。

 なんで、人の家に来て即寝するんだ、だとか。

 どうして、アタシが無茶しようとすると分かるんだろう、など。


 この(るい)という生き物には、全く知的好奇心が尽きない。


 是非、骨の髄まで、体の隅々まで解剖して、どんな仕組みで動いているのか調査したい。


 正直、起きていると口やかましいので、寝ているくらいが丁度いい。


 というか、そもそも、(るい)にはアタシがテイのいい睡眠薬になっているのかもしれない。


『夜勤を終えて、寝ずに来るからや……』


 アタシの中の冷静沈着ボーイが言う。


『そうそう、やっぱり、寝ないと体力もたないからね』


 アタシの中の大人男子が言う。


『……で、どうする? 処す? 殺す? ヤる?』


 アタシの中の物騒ヤクザが言う。


「ん……殺さないで……」


 うん、どうにも、勘がいい。本当は3人目の言うことを聞いてみたい。


 テレビで見た何かのように、「天誅!」とか言ってみたい。


 アタシとの時間より、仕事とイチャイチャすることを選んだこの馬鹿に、きっついお仕置きをしてみたい。


「ふぅ」


 ひとつ息をつく。


「いけない、殺人犯になっちゃう」


 そんな前科がついたら、大変だ。

 アタシの女としての格が、メーター振り切って「世界最強」になってしまう。


「殺人犯ってセクシーよね?」


 踏み越えてはいけないラインを軽々越えていくそのセンス。

 相手の領域にズカズカ立ち入っていくその胆力。

 何より、見た目で人を釣っては安心させて犯行を可能にするその魅力。


『うん、セクシーだわ』


 アタシの中の女が言う。


「だよね? 作り物の殺人犯って、イケメン俳優がやるって相場が決まってるもんね!」


『そうそう。最近の流行りの男優、調べてみる?』


 アタシの女が、アタシじゃなくて流行りの男に浮気しそう。


 許せない。


 誰であろうと浮気は倫理憲法に違反する。


「ふん。(るい)以上のイケメンに限る」


『……、それじゃあ、無理じゃない。それ以上のイケメンなんていないわよぉ、もう、やんなっちゃう』


 何故か、アタシの女が兄貴みたいな声で喋り出す。


「ん……。あの……、語弊……」


 (るい)が小さな声で文句を言う。


「……寝るか、起きて文句言うか、どっちかにしなさいよ」


「ぐー」


「……寝るんかい」


(るい)、寝た~?』


「寝たよー」


「それは良かった。なんか、俺、知らないうちに無茶させてたみたいで~」


「それは、兄貴が”そういうこと”するからじゃん?」


「いや、だって、仕事で……。余興やれって上司がうるさくて……」


 もうすでに画面の向こうの美女は、すっかり兄貴に戻ってしまった。


 アタシは暇なので、(るい)を足で転がしながら兄貴からのビデオ通話に応じる。


「似合うけど……、その……”オネェ様キャラ”でいくの? それとも、女だけど男的な、トランス脂肪酸?的な何かでいくの?」


「トランスジェンダーな。何だよ、トランス脂肪酸って。何読んだんだよ?」


「え? 医学書」


「……医学部行けよ、文学部じゃなくて」


「だって、面白いんだもん。一皮むけば、みんな臓器だから」


「……めったなこと言うなよ。BANされたらどうすんだよ」


「ええ~? テレビ電話だよ? 個人の通話を傍受して、誰が得するってわけ?」


「いや、まぁ、そうだけど。そうなんだけど、お前の語彙、物騒すぎんだよ、(きん)


 呆れたように笑うと、やっぱり兄貴だなぁ、と思う。

 見た目は、化粧と衣装で美女一択だが、話したり、不意の表情は、非常に兄貴だなぁと思う。


『……むかつく』


 その見た目で、素を出さないで欲しい。

 見た目と態度のギャップで風邪ひきそう。


 そろそろバイトしようかというアタシにそのやり口は卑怯だ。

 危険だ。非常にデンヂャラスだ。


「デンヂャラスな兄貴……。姉貴? えっと~……デンヂャラス美女って、商標あったっけ……?」


「……あのなぁ。兄貴を使って金儲けしようとすんなや。自分を使いなさい、自分を」


「だって、アタシがやると”優等生ヤンキー”みたいになるんだもん。需要ないよ」


「だからって、こんな……こんな破廉恥な俺を商標にするなんて……”ダメじゃなぁい?”」


 兄貴が急に女を出す。こんな時、アタシはどんな顔をしていいのか分からない。ふざけているのか、マジなのか、性的なアレなのか、とても判断に迷う。


 差別はいけないが、ある程度の区別がないと、混乱の元だ。


「な……、何とか言ってよ、(きん)。へ、へへへへ変だった!? な、なんかコンプライアンス違反になりそう? 投獄の憂き目、来そう!?」


「……」


 しばしの沈黙。


「会社指示なら、コンプライアンス違反ではないけれど……、それを衆目に晒した時、おそらく兄貴の平穏は終わるよ。一生の」


「えっ……」


 アタシが冷静に伝えると、兄貴が絶句した。そんなに大層なことは伝えていないのに。


『だって、兄貴、割と見た目いいじゃん。母ちゃん似じゃん。それがさらに化粧して衣装来たら、そりゃあ、男女ともに黙ってないでしょう』


 兄貴は理解していないが、おおよそ、ぶっちゃけ ” イロモノ ” の部類だ。 ” イロモノ ” 分野に昔から適性があった。女ヒーローのコスプレをさせたら、正直右に出る者はいないだろう。


”な、なんで俺なの~(泣)”


 と泣いている姿など、非常に可愛かった。今だから言えるが、ぶっちゃけ家に閉じ込めて、ずっと鑑賞したいレベルには芸術だった。

 女の子より、とても女の子だった。


「……。それって、 (きん)や皆に迷惑かけるかな……?」


 どうやら、兄貴は本気で真面目に悩んでいるらしい。


「俺さ、実はさ。周りに、やってみなよ、って言われててさ。でも、家族に迷惑が、と思って今までその提案蹴ってきたんだけどさ……。そろそろ、断るの厳しくて~!!!」


「……どう思いますか、(るい)将軍」


「……ヘタレ兄貴の……ば……か……。俺の……、負担……」


(るい)も、こう言ってるし、もうやっちゃえばいいんじゃない? あ、でも、他の兄貴たちと、一応……嫌だけど……親にも伝えておいた方が……。後からトラブルになっても困るし」


「……そ、そうだね! (るい)に結構、依頼いっちゃうよね? ごめん~、(るい)~! そこまで反響あるとか思ってなくて~……。って伝えといて。あと、兄貴たちには、”スズがおかしくなった” で通しといて。父さんと母さんには……、会社の出し物で、ってことで!」


『はぁ』


 心の内で、小さくため息をつく。


『ホント、この人、アタシを仲介させるんだから……』


「別にいいけど、アタシが言ったら、総勢で鈴兄ぃんとこ押しかけるよ?」


「……そ、そっかな? うーん……」


「事後……報告……」


『ダメじゃない?』


『ダメかも、それ……』


「俺が……」


(るい)!』


(るい)、天才!』


「う……、何……? 何にも……、して、な……。夕兄ぃ~! 何したのー!? ちょ、ちょちょちょちょちょっと待って! ちょと、待って! ででででデリカシーなっ! あ……。ごめんなさいごめんなさい。違うんです。そういうことじゃなくて……! そ、そそそそういうつもりじゃなくて。兄はそういうつもりは毛頭なくて……! はい、はい、はい! それはもう! よくよく言っておきますんで! 何卒! 何卒、穏便に~!!!」


『……』


『……』


(るい)……」


「夕飛、なんかやらかした……?」


「”だってぇ、アイツが悪いんじゃーん。僕はぁ、普通に悪いことしてるから注意しただけでぇ……。はぁ!? 何で!? 何で僕が悪いってことになっちゃうの!? ……これだから、汚い大人はさぁ”」


「あちゃ~」


「そういうことか……」


「鈴兄ぃ」


「了解」


「口の利き方~。まっじでなってない! 夕飛兄ぃ、それは、ダメ。友だちがイイって言っても、ダメ。それは、世間的に、ダメな奴なの……! 話、聞いて~!!!」




「「ユウヒ、捕獲作戦を開始する!」」




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