小瓶で捕獲された魔法使い
朝の街。
ユウトとアリアは歩いていた。
アリアは──
セクシーキャット衣装に、巨大な鉄槌を引きずっていた。
「……」
彼女はもう、何も言わなかった。
街の人々の視線が突き刺さる。
しかし、アリアは無表情だった。
(もう……慣れた……)
彼女の心は、完全に折れていた。
その時、ユウトが立ち止まった。
「あ、ここだ」
「……ここ?」
アリアは力なく聞いた。
目の前には、小さな店があった。
看板には「星屑の杖」と書かれている。
魔法具の店だ。
「酒場のリストじゃ、イマイチだったからここで探すか」
ユウトは無感情に言った。
アリアは内心で叫んだ。
(魔法使いの人、逃げてー!)
ユウトは店に入った。
アリアは疲弊しながらついていった。
店内。
棚には杖、魔導書、魔法の道具が並んでいる。
カウンターの奥から、中年の男性が顔を出した。
魔法具店の店主だ。
「いらっしゃ──」
店主の声が止まった。
彼は、アリアの姿を見て固まった。
セクシーキャット衣装。巨大な鉄槌。
「……」
店主は視線を逸らした。
(見ちゃいけない……見ちゃいけない……)
アリアは深く息を吐いた。
(もう……いい……)
その時、店の奥から声が聞こえた。
「ですから、研究費が必要なんです」
冷たく、落ち着いた声。
ユウトは声の方を見た。
店の奥。
黒いローブを纏った女性が立っていた。
長い黒髪。凛とした表情。手には杖。
彼女は店主と話していた。
「研究費……ですか」
店主が困った顔をした。
「はい。50万ゴールド必要です」
「50万……それは……」
店主は首を振った。
「申し訳ありませんが、そこまでの融資は……」
女性は無表情のまま頷いた。
「……そうですか」
彼女は静かに店を出ようとした。
その時──
ユウトの目の前に、半透明のウィンドウが浮かんだ。
【冒険者リスト】
名前、職業、レベル、ステータスが並んでいる。
ユウトはスクロールした。
「あ、いた」
【名前:シエナ / 職業:魔法使い / Lv.18 / 魔力120 / 備考:研究費に困窮、借金500,000ゴールド】
「魔力120?強いじゃん」
ユウトは満足そうに頷いた。
そして──
ポケットから小瓶を取り出した。
ユウトは小瓶をシエナに向かって投げつけた。
ぽんっ。
「!?」
シエナは反応できなかった。
小瓶がシエナの足元で割れた──いや、違う。
煙が溢れ出した。
「なっ──」
シエナの体が煙に包まれた。
そして──
彼女の体が縮み始めた。
「ちょっと、何を──!?」
シエナの声が小さくなっていく。
煙が小瓶に吸い込まれていく。
数秒後──
小瓶の中に、小さなシエナが閉じ込められていた。
「……」
シエナは小瓶の中で立っていた。
表情は──無。
ユウトは小瓶を拾い上げた。
「はい、魔法使いゲットだね♪」
【ピロン♪】
【魔法使い:シエナが仲間になりました】
アリアは呆然と見ていた。
「……ひどすぎる……」
彼女は力なく呟いた。
店主も固まっていた。
(あの人……小瓶に……)
「こんなに小さくしてどーすんのよ!」
アリアが叫んだ。
「魔法使いにサイズは関係ないから」
ユウトは無感情に答えた。
「もってて」
ユウトは小瓶をアリアに渡した。
【ユウト→渡す→アリア:小瓶】
「えっ、ちょっと──」
アリアは慌てて小瓶を受け取った。
小瓶の中のシエナが──
じっと、アリアを見た。
「……」
無言。
しかし、その視線は何か言いたげだった。ジト目。
「わ、わたしのせいじゃないからね……!」
アリアは慌てて弁解した。
小瓶を横に回して、シエナの視線を逸らそうとする。
ぐるん。
(……これで……)
アリアは恐る恐る小瓶を見た。
「……」
シエナの視線が、真正面から突き刺さった。
(ひーっ!)
アリアは内心で悲鳴を上げた。
その時──
その時──
ユウトはシエナの荷物を確認していた。
【所持品確認】
半透明のウィンドウが浮かんだ。
【どうぐ】
【つかう】
薬草×10
しびれ草×10 ◀ぴっ
めざめ草×10
マンドラゴラ×10
セージ×10
ローズマリー×10
ユウトは黙ってカーソルを動かした。
スィドラ×10 ◀ぴっ
アスフォデルス×10 ◀ぴっ
くねくね草×10 ◀ぴっ
ぴっぴっぴっぴっぴっぴっぴっぴっぴっ……
リストが一つずつ流れていく。
ちからの草×10 ◀ぴっ
命の草×10 ◀ぴっ
しあわせの草×10 ◀ぴっ
くすりぐすり草×10 ◀ぴっ
ぴっぴっぴっぴっぴっぴっぴっぴっぴっ……
ほしぞら草×10 ◀ぴっ
あんしん草×10 ◀ぴっ
しんけい草×10 ◀ぴっ
ねむけ草×10 ◀ぴっ
「……」
ユウトは無言でカーソルを動かし続けた。
アリアはユウトの肩越しにウィンドウを覗き込んだ。
延々と続く薬草のリスト。
一つずつ、選択しなければスクロールできない。
「……」
ユウトは黙ってスクロールした。
アリアはユウトの肩越しにウィンドウを覗き込んだ。
「や、薬局……?」
彼女は呆然と呟いた。
小瓶の中のシエナが──
なぜか、得意げに微笑んだ。
「ふふふ」
声は聞こえないが、表情でわかる。
ユウトは冒険者リストを確認した。
「よし、パーティ完成だな」
【パーティメンバー:ユウト、アリア、シエナ】
「ん?」
ユウトは首を傾げた。
「あれ、装備バランス最悪だな」
「……装備?」
アリアは首を傾げた。
ユウトは装備リストを開いた。
【シエナの装備候補】
水流のはごろも
ほっこりベアー
「どっちにするかなー」
ユウトは無感情に呟いた。
アリアは装備の説明を覗き込んだ。
【水流のはごろも】
説明:見た目はまるで繊細なシルクを纏っているかのようで、素肌感を損なわずに極薄の透け感でまさに水、身体のシルエットをばっちり強調します。
「……」
アリアの顔が青ざめた。
【ほっこりベアー】
説明:見るものに威圧感を与えながら、毛並みは極上、抱きしめると太陽の匂いがする、くまの着ぐるみ。
「……!」
アリアは猛烈に叫んだ。
「こっちがいい!クマさんがかわいい!」
「……」
ユウトは首を傾げた。
「クマ最高!くーま!くーま!」
アリアは必死に主張した。
(痴女パーティになってしまう……!)
彼女は内心で叫んだ。
ユウトは数秒考えた。
「ま、クマでいいか」
【装備変更:シエナ→ほっこりベアー】
アリアは内心で安堵した。
(ほっ……)
その時──
ユウトは無感情に操作した。
【シエナ 魔法 >自宅へ帰る】
ぴっ。
小瓶の中のシエナが──
彼女は杖を掲げた。
「リターン」
その瞬間──
光がユウト、アリア、シエナを包んだ。
一瞬で──
街の入口に転移した。
「おお、便利じゃん」
ユウトは満足そうに頷いた。
「リターン確保っと。移動手段ゲット!」
シエナは無表情のまま内心で呟いた。
(私の魔力が、馬車の代わりだと……?)
アリアは疲弊した声で言った。
「あんた……最低ね……」
「え、なんで?」
ユウトは首を傾げた。
シエナは無言で頷いた。
(……同意する)
「よし、次は冒険だな」
「……冒険?」
シエナは首を傾げた。
「うん。レベル上げしないとな」
「……はぁ」
シエナは深く息を吐いた。
アリアも深く息を吐いた。
二人は無言で視線を交わした。
(この人、最低ね……)
(……同意する)
街の入口。
ユウト、アリア、シエナは立っていた。
シエナは──
ほっこりベアーの着ぐるみを着ていた。
もこもこの茶色いクマ。
「……」
シエナは無表情だった。
教会の前から、リリアが心配そうに見ていた。
「……また、増えてる……」
リリアは深く息を吐いた。
(神よ……あの方々を……どうかお守りください……)
彼女の祈りは、静かに響いた。
ユウトは無邪気に言った。
「よし、行くぞ」
「……はい」
アリアは力なく答えた。
「……わかった」
シエナも力なく答えた。
二人は疲弊しながらユウトについていった。
街の人々は、呆然と見送った。
「あの旅人……また仲間を……」
「可哀想に……」
「……クマ?」
「神のご加護を……」
囁き声が響く。
しかし、ユウトは気にしなかった。
「よし、次は経験値稼ぎだな」
「……」
アリアとシエナは無言で顔を見合わせた。
そして──
深く、深く息を吐いた。
彼女たちの絶望的な旅が、今始まろうとしていた。
(第5話 終)




