可愛さ-30補正
朝の街。
ユウトとアリアは赤竜亭へ向かって歩いていた。
アリアは、もう何も言わなかった。
(もう……何を言っても無駄……)
彼女の目には諦めしかなかった。
その時、ユウトが立ち止まった。
「あ、そうだ」
「……なに?」
アリアは力なく聞いた。
「装備整えないとな」
「……装備?」
「うん。お前の装備、初期装備のままだし」
ユウトは無感情に言った。
アリアは首を傾げた。
「初期装備って……これ、私の装備よ?」
「でも、弱いじゃん」
「弱くない!」
アリアが反論する。
しかし、ユウトは無視した。
「道具屋行くぞ」
「待って──」
アリアの声は無視された。
道具屋「鉄の斧」。
大きな看板に斧の絵。店内には武器や防具が並んでいる。
「いらっしゃい」
カウンターの奥から、気さくな老人が声をかけた。
店主だ。
「装備見せて」
ユウトが言うと、店主は頷いた。
「どんなものをお探しで?」
「とりあえず全部」
「……全部?」
店主が首を傾げた。
ユウトの目の前に、半透明のウィンドウが浮かんだ。
【装備リスト】
武器、防具、アクセサリーが並んでいる。
「へー、便利じゃん」
ユウトは感心した。
店主は内心で呟いた。
(この人、装備をまるで商品カタログのように眺めてる……)
アリアは疲弊した表情で立っていた。
(また、何か変なことをするんだろうな……)
ユウトはリストをスクロールした。
「あ、これいいな」
ユウトが指差したのは──
【甘露のクッキー / 効果:好感度+5】
「これください」
「はい、10ゴールドです」
店主がクッキーを渡す。
ユウトは無感情にアリアに渡した。
「はい」
「え……?」
アリアは困惑した。
「なに、これ?」
「好感度調整に使えるアイテム」
「好感度……?」
アリアは首を傾げた。
ユウトは無感情に続けた。
「ゲームだと、パーティメンバーの好感度を上げると、特殊イベントが発生するんだよね」
「は?」
アリアの目が点になった。
「だから、好感度上げとけ」
「……」
アリアは呆れた。
「今どき、お菓子で釣られて喜ぶ女なんていないから」
彼女は冷たく言った。
しかし──
その瞬間、クッキーの甘い香りが鼻をくすぐった。
アリアの手が、無意識にクッキーを受け取っていた。
「……え?」
彼女は自分の手を見た。
そして──
【ピロン♪】
【アリアの好感度が+5上昇しました】
システムメッセージが浮かんだ。
「……え?」
アリアは固まった。
「ちがうから!」
彼女は慌てて叫んだ。
「ほ、ほら、不意打ちだったからよ、今のは!」
「でも、上がってるよ」
ユウトは無感情に言った。
「ダメージよ、ダメージ!好感度じゃない!」
アリアは必死に否定した。
しかし、システムメッセージは消えなかった。
店主は内心で困惑した。
(この二人……何をしているんだ……?)
(あんなに愛情のない渡し方なのに……好感度が……?)
(もしかして、奇妙なプレイを楽しんでいるのか……?)
店主は視線を逸らした。
ユウトはリストを眺め続けた。
「次は防具だな」
「ちょっと待って」
アリアが慌てて言った。
「私の意見は?」
「え、NPCに意見とかあるの?」
「ある!」
アリアが叫んだ。
しかし、ユウトは無視した。
「あ、これいいな」
ユウトが指差したのは──
【セクシーキャット衣装 / 防御力+10 / 素早さ+10 / 可愛さ+10】
説明文:ふわふわの耳カチューシャと魅惑的なしっぽがチャームポイント。露出度が高いが、動きやすさと魅力を両立した衣装。
「……は?」
アリアの目が点になった。
「これ、お前に装備させる」
「絶対嫌!」
アリアが即答した。
「え、なんで?」
「なんでって……!」
アリアは顔を真っ赤にした。
「見ればわかるでしょ!露出度高すぎるのよ!」
「でも、防御力と素早さが上がるよ」
「関係ない!」
「え、なんで?」
ユウトは心底不思議そうな顔をした。
「ステータスが上がるなら、装備した方がいいじゃん」
「そういう問題じゃない!」
アリアが叫んだ。
しかし──
ユウトは無視して【購入】を選択した。
【ピロン♪】
【セクシーキャット衣装を購入しました】
「ちょっと!」
アリアが叫んだ。
その瞬間──
【アリアに装備しますか?】
【はい】【いいえ】
ウィンドウが浮かんだ。
「待って──」
アリアが叫んだ。
しかし、ユウトは無視して【はい】を選択した。
その瞬間──
【ピロン♪】
光がアリアを包んだ。
「え……?」
アリアの装備が、一瞬で変わった。
ふわふわの猫耳カチューシャ。
揺れる魅惑的なしっぽ。
そして──
露出度の高い、黒と白の衣装。
「……」
アリアは固まった。
「……嘘でしょ」
彼女は自分の姿を見下ろした。
肌が、やたらと露出している。
「やめて……やめてよ……」
アリアの声が震えた。
しかし、システムメッセージは容赦なく続いた。
【ピロン♪ アリアの素早さ+10】
【ピロン♪ アリアの防御力+10】
【ピロン♪ アリアの可愛さ+10】
「ちょ……」
アリアは顔を真っ赤にした。
ユウトは満足そうに頷いた。
「おお、だいぶ盛れたね」
「盛れてない!」
アリアが叫んだ。
店主は目を逸らした。
(見ちゃいけない……見ちゃいけない……)
アリアは必死に体を隠そうとした。
しかし、衣装は変わらなかった。
「元に戻して!」
「え、なんで?」
「なんでって……!」
アリアは涙目になった。
「こんな格好で外に出られるわけないでしょ!」
「でも、ステータス上がってるし」
「関係ない!」
「え、マジで?」
ユウトは首を傾げた。
「数値が上がるのは良いことじゃん」
「良くない!」
アリアが叫んだ。
しかし、ユウトは無視して店を出た。
「じゃ、行くぞ」
「待って──」
アリアは慌てて追いかけた。
しかし──
店を出た瞬間、街の人々の視線が集中した。
「……え?」
「あの……」
「なに、あの格好……?」
ざわざわと囁き声が響く。
アリアは固まった。
「嘘でしょ……」
彼女は顔を真っ赤にした。
その時──
小さな子供が母親を引っ張った。
「ねー、お母さん、なんであのお姉ちゃん、はだかなの?」
「見ちゃいけません!」
母親が慌てて子供の目を隠した。
「……」
アリアの目から涙がこぼれそうになった。
(もう……嫌……)
その時──
【ピロン♪】
【ユウトパーティーの周知度+10上昇しました】
「うん、順調順調」
ユウトは満足そうに頷いた。
「順調じゃない!」
アリアが叫んだ。
しかし、ユウトは無視して歩き続けた。
数分後。
ユウトは再び道具屋に戻った。
「まだ買うの!?」
アリアが叫んだ。
「うん、武器買ってなかった」
「もういい!もう十分よ!」
「でも、武器弱いじゃん」
ユウトは無感情に言った。
店主は困惑した表情で迎えた。
(また来た……)
ユウトはリストを眺めた。
「あ、これいいな」
ユウトが指差したのは──
【破壊神の鉄槌デストロイハンマー / 攻撃力+150 / 防御力-5 / 素早さ-50 / 可愛さ-30】
説明文:破壊神の力を宿した巨大な鉄槌。一撃必殺の威力を誇るが、扱いには相当な腕力が必要。装備者の可愛らしさを大きく損なう。
「これ、お前に装備させる」
「……え?」
アリアは固まった。
「ちょっと待って、これ……」
彼女はステータスを確認した。
「可愛さ-30!?」
「うん、でも攻撃力+150だよ」
「攻撃力の問題じゃない!」
アリアが叫んだ。
「可愛さが-30って……!」
「え、気にするの?」
「当たり前でしょ!」
アリアの声が裏返った。
「女の子として下がっちゃいけないものが下がってるのよ!」
「でも、攻撃力は上がるよ」
「知らないわよ!」
しかし──
ユウトは無視して【購入】を選択した。
【ピロン♪】
【破壊神の鉄槌デストロイハンマーを購入しました】
「待って──」
アリアが叫んだ。
しかし──
【アリアに装備しますか?】
【はい】【いいえ】
ユウトは無視して【はい】を選択した。
【ピロン♪】
光がアリアを包んだ。
そして──
彼女の手に、巨大な鉄槌が現れた。
「……」
アリアは固まった。
鉄槌は、彼女の身長ほどもある巨大な武器だった。
重い。
とても重い。
「……嘘でしょ」
アリアは鉄槌を支えようとした。
しかし──
【ピロン♪ アリアの攻撃力+150】
【ピロン♪ アリアの防御力-5】
【ピロン♪ アリアの素早さ-50】
【ピロン♪ アリアの可愛さ-30】
「はぁぁぁ!?」
アリアの叫びが響いた。
「女の子として下がっちゃいけないもの下がってない!?」
「大丈夫、10回に1回当ててくれたらいいから。敵は吹き飛ぶよ」
ユウトは無感情に言った。
「……」
アリアは鉄槌を見た。
そして、ユウトを見た。
(いま、コイツの頭を吹き飛ばしたい……)
彼女の目に、静かな殺意が宿った。
店主は呆然と立ち尽くした。
(この二人……一体何なんだ……?)
街の中心部。
ユウトとアリアは歩いていた。
アリアは──
セクシーキャット衣装に、巨大な鉄槌を引きずっていた。
「……」
彼女はもう、何も言わなかった。
街の人々の視線が、突き刺さる。
「あの……」
「すごい格好……」
「武器、重そう……」
ざわざわと囁き声が響く。
アリアは顔を真っ赤にした。
(もう……嫌……)
(死にたい……)
しかし、システムは容赦なかった。
【ピロン♪】
【ユウトパーティーの周知度+20上昇しました】
「おお、周知度上がってるな」
ユウトは満足そうに頷いた。
「上がらなくていい!」
アリアが叫んだ。
しかし、ユウトは無視した。
「よし、次は魔法枠だな」
「……魔法枠?」
アリアは力なく聞いた。
「うん。パーティバランス的に魔法使いが必要だし」
「……そう」
アリアは深く息を吐いた。
(魔法使いも……この目に遭うんだ……)
彼女の目には、諦めと同情が混ざっていた。
ユウトは無邪気に続けた。
「じゃ、また赤竜亭行くか」
「……はい」
アリアは力なく頷いた。
巨大な鉄槌を引きずりながら、セクシーキャット衣装で街を歩く。
彼女の尊厳は、完全に破壊されていた。
(第4話 終)




