「雨のち、本。」
俺は天野透、高校三年生。 病気で入院している叔父がやっている秋田県の田舎の古本屋を営っている。 こんな田舎だとお客は殆ど来ないので殆どがこの店にある、本を読んで時間を潰している。 今は春なので進学や就職が決まっている人がいるし俺も将来も考えて動かないといけない時期になっていて、叔父が此処をどうしても残したいと言うので高卒で此処に就職することも考えたが、叔父にそれを相談すると大学は出ときなさいと言われて、それまで此処は俺が守るからそれからでも答えを出すのは早くないと言われた。 叔父は心臓病でもう八十になるし、先は長くないと感じながらそんな人間にとって四年と言う時間は長いものだろうに、叔父は俺のことをいつも優先で考えてくれる優しい叔父だ、だからこそ叔父が残したいと思うこの店を守りたいと思っている。 俺は来年東京の大学に進学することが決まったのでこの一年は、店に専念できる。 俺は部活に入ってないし、今までだって学校が終われば直ぐに店に来てずっと店番をしていた。 此処には常連のおじさんやおばさんが来るが、最近ここ一か月程毎日店に来る女子高生がいる。俺と同じ制服だしここら辺に高校は一校しかないので同じ学校だが面識はないが眼鏡をしていて今時の女の子と言った可愛らしさを持った顔をしていた。 そして、毎日古びた小説を見て数分から多い時は一時間程本を見ている。 此処は古本屋なので中身を見て買わなくても別に構わないと言われてるし、元々叔父がずっと開きたいと思っていてずっと溜めてた貯金を使っているので、叔父も定年退職するまではバリバリに働いていて五年前までは再雇用制度で働いていて、此処を開いたのは五年前なのでまだまだお金には困ってないのでこう言うお客さんがいても実際あんまり困らない。 俺は定期的にはたきでパタパタさせる、そして少しこの女子高生が気になったので人列前の本棚の隙間から見るとたまたま女子高生と目が合ってしまった。そうすると女子高生は本を目線まで持って来て顔を隠してしまった。 なんかまずいことをしてしまったかと思いながらパタパタさせていると、女子高生は帰ってしまった。 そうして今日も学校を行くが友達はいないので誰とも話さずに帰る。 「おや、今日は早いのね」 「あ、雨宮のおばさん。いらっしゃい」 「うん、この本を頂こうと思ってね」 「これね、はい千五百円です」 「はいはい」 お金を頂いてお客さんに必ず言う言葉がある。 「良い出会いになりますように」 「はい、ありがとう」 「うん、いつもありがとうね」 「いやいや、此処は良い本が揃っているからね」 「最近は俺が入荷とか色々しちゃってるから叔父さんとはテイストが違うけど大丈夫かな?」 「大丈夫よ、叔父さんは大丈夫かね?」 「うん、体調は変わらずだけどこの前お見舞いに行ったら顔色は良かったよ」 「それは良かった、私達はいつでも待ってるって伝えておくれ」 「うん、じゃあ」 「はい、あそうだ」 振り返って俺に何かを言いだす。 「私の孫が最近小説家を目指してるって聞いてんだけど、此処に来てるかい?」 「此処にですか?」 「うん、本屋さんは此処らへんで此処しかないくて最近帰るのが遅いんのよね」 「んー、幾つくらいの子?」 「十七歳の高校二年生なんだけど、あの子は両親が海外に住んでるから高校は家から行ける所にって任されたんだけどねー、会話はしてるけど時々何を考えてるか分からないんだよね」 「まあ色々ある年ごろだからね、大変なんだよきっと」 「そうね、あの子の夢を聞いたのも最近だし色々心配なんだけどそれを聞くのも野暮かなとも思ってるんだよね」 「でもその子だったら最近此処に本見に来てる子だと思うけど」 「そうなのかい?」 「うん、多分同じ高校だと思うけど面識はないから詳しくは分からないな」 「そうかい、じゃあ何か話す機会があれば気にかけてやってほしいな」 「うん、分かった」 「じゃあまたね」 「はい、まいど」 そう言って雨宮のおばちゃんは店を出た。 いつもは夕方、十七時くらいに女子高生はお店に来るのでそろそろ来るかなと思いながら小説を読んでいた。 カラッン、 この音は店の扉が開いた音だ、そうして入り口の方を見ると女子高生がいつものように来ていた。 そうしていつもの本を手に取って読んでいる。 俺はレジに座りながら様子を見ていると本に夢中だった。 はたきでパタパタさせながら隣に来ても気付かない程に集中していた。 「買わないの?」 「え?!」 「いや、最近いつもその本見てるし」 「あ、これですか?」 「うん、その本有名な小説で初回限定盤だからレアだよね」 「そうです!!だからどうしても欲しくって」 「でも高いしね」 「そうなんです、私この小説が大好きでバイトの日数増やしてそれで買おうと思ってたです」 「そうなんだ」 「はい、明後日給料日なので明後日買いに来ます!!」 なんだか元気な子だなって思いった。 「じゃあ明後日までその本予約として取っとくよ」 「え、良いんですか?」 「うん、まあこの店は俺の好きなようにしていいって言われてるし。そのくらいは良いよ」 「本当ですか?」 「うん、多分一年経っても買う人は居ないと思うし」 「予約取ってもらえなければ絶対買えないですよ」 「まあ、都会の古本屋とかならそうかもしれないけど、此処は秋田の田舎だよ。余程の本好き以外はお客さんは来ないから」 「確かにお客さん見たことないです」 「本を買いに行く人は秋田駅周辺の本屋に行くからね」 「えっと、すいません」 「いや、本当のことだし」 「そうなんですね」 「うん、じゃあ明後日待ってるよ」 「はい、ありがとうございます」 女子高生は一礼して店を出て行った。 その後もお客さんは来ないし、学校での生活も変わることはなく翌日。 今日は土曜日だが休みもやることはなく、朝早くに店を開けた。 俺はこの空間で読む時間が幸せだった。 好きな本に囲まれて、それに叔父から引き継いでからももうそろそろ一年なので入荷も多くはないが好きな本があれば入荷しているので、売れなければ俺が買い取るだけだし一列だけでも俺の好きな本だらけだった。 こんな空間で本を読んで余生を全うしたいなと思っているとドアが開いた。 「すいません」 「あら、昨日の」 「はい、実は昨日給料振り込まれてまして」 「そっか、土日だから給料は昨日だったか」 「はい、なのでこんな時間にすいません」 「いやいや、こちらこそ朝からお客さんが来てくれるのは嬉しいよ」 「今、八時ですけど普段からこの時間にお店開けてるんですか?」 「気分で時間は決めてるから」 「そうなんですね」 「うん、あ、そうだ本だったよね」 「はい」 そう言って女子高生は本を取り出して、レジに置く。 「い、五千円です」 「はい、五千円丁度です」 「まいど、じゃあ良い出会いになりますように」 「え?」 「ああ、口癖なんだ」 「そうなんですね」 「うん、じゃあね」 「えっと、はい」 何やら女子高生はよそよそし始めた。 「どうかした?」 「えっと、その」 「ん?」 「取材させてもらえませんか?」 「え?」 「私、小説家を目指してまして。前からこのお店を物語に出したいと思ってまして」 「あー、やっぱり」 「え?」 「もしかしてだけど、君の苗字って雨宮さん?」 「え?何で知ってるんですか?」 「多分、此処の常連さんが君のおばあちゃんなんだと思う」 「なるほど、あ、名前言ってなかったですね、私は雨宮 詩です」 「雨宮っていつもおばあちゃんに言ってるから詩ちゃんでいい?」 「はい、年も一つ下だし」 「何で知ってるの?」 「前に此処に来てから学校でお見かけして、先輩だって分かったんです」 「それなら声かけてくれれば良いのに」 「私にはそんな勇気はないので」 「そうなの?」 「はい、私いつもいじめられてて学校にはあんまり行かないけどたまたま見ただけですし」 「そうなんだ」 「はい、勉強もして良い大学に入ってそれで夢も追いかけながら、出版社に入ってそれで頑張ろうって決めたんです」 「良い夢持ってるじゃん」 「え?」 「今いじめられても、それにくじけなで大学も目指して勉強して入りたい会社も決めてて、夢も持って。君は十分かっこいいよ」 「あ、ありがとうございます」 「うん、まあそんな将来有望な子に取材させてもらえるなんて光栄だよ」 「そんな私なんて」 「まあこんな田舎の古本屋を自分が書く、小説に出したいと思う子がいるなんて叔父さんが知ったら嬉し涙すると思うよ」 「そうなんですか?」 「うん、聞きたいことは何でも聞いて」 「じゃあ、先ずは先輩はなんでこのお店を?」 「実は叔父さんがずっと古本屋を開きたいって夢を持っててね、定年退職をしても再雇用制度を使って知り合いの社長の所で七十歳まで働いて、それで自分が死んでもお店残せるくらいに貯金してそれで老後で余生を楽しもうと思ってたみたいなんだけど、一年前に心臓病で入院してね、それから俺が店番をしてるの」 「先輩は立派なお孫さんなんですね」 「そうでもないよ、親も仕事で大変だからいつも叔母さんと叔父さんに世話になったしそれに何と言っても本に関われる仕事が出来るのなら俺も嬉しいし」 「お祖母ちゃんっ子だったんですね」 「そうだね、親は学校行事には全部出てくれたし感謝してるけど、やっぱり子供の時からずっと面倒見てくれたから生きてる内に孝行するって決めてたし」 「それだけで話が膨らみます!!」 なんか興奮してるし、小説家さんはこう言う話だけでも話が思いつくなんて凄いなと思いながら取材を受ける。 「なるほど、それでお客さんが来ない時はなにしてるんですか?」 「うーん、好きな小説読んでるだけだけど」 「漫画とかは?」 「ああ、アニメも漫画も読んでるよ。最近話題なものも把握してるかな」 「なるほど、じゃあ先輩にとって本とは?」 「え?急にそんなこと言われてもな~」 「いきなり過ぎましたかね?」 「うーん、そうだな、叔父さんから言われたことでずっと大切にしていることならあるけど」 「じゃあそれで!!」 「今、外雨降ってるでしょ?」 「はい」 「本って、雨が降って湿気でしわしわになってしまって雨に濡れると、紙が破れてしまうそして最終的には読めなくなってしまうこれって何かに似てない?」 「えっと、なんですか?」 「人間の心だよ」 「心ですか?」 「うん、人間の心にも雨が降ることがあるでしょ?」 「はい」 「だから人間の心も雨が降ると気分が沈んで元気が出なくなってそれが止まなければどんどん暗くなってしまう、そうなると雨が止むまで心は蝕まれてしまうんだ。だから人間の心も本と同じで繊細なんだ、でも溜まった心の雨は本を読んめば自然と心から瞳に雨が登ってそして心の雨は止んで体から出て行く、雨が上ったように次は心に太陽が昇るんだよって俺はおじさんから教わってから本を読んで大切にしているんだ」 「深いですね」 「まあこれは子供の頃からずっと聞かされてた、ことだから頭に残ってるんだよね」 「そうなんですね」 「うん、だから俺が話せるのはこのくらいかな」 「ありがとうございます、これ絶対生かします」 「このくらいで良いなら良かったよ」 「はい、なんか話聞いてるだけで、どんどん色々思いついたので帰ります」 「うん、気を付けてね」 「はい、本ありがとうございました」 「うん、それじゃあ」 それから八年後…。 俺は大学を卒業して地元に戻り、在宅のライターとして働き古本屋を営んでいる。 叔父さんは俺が高校を卒業したタイミングで手術が成功して、東京に行く時には店も復帰も出来たが、俺が大学を卒業する手前で亡くなった。 俺は大学を卒業して直ぐに店に戻った。 夏休みや冬休みなど長期休みがある度に顔は出していたが、叔父は亡くなるまで元気だったのでその時はショックが大きかった。 そして俺は店を引き継いでいる訳だが、詩はと言うと大学在学中に作家としてデビューして今や出す本は飛ぶように売れるし映画化やドラマ化などもされていて、すっかり遠い存在になってしまった。 カラッン。 「いらっしゃい」 「あ、お久しぶりです、先輩」 「おー、詩ちゃんじゃん」 「八年ぶりです」 詩は一礼した。 八年にもなるとすっかり大人びて、眼鏡もコンタクトに変わっていた。 「随分と垢ぬけてな、別嬪さんになったね~」 「いえいえ、そんなお世辞は良いですよ」 「なんか親戚の叔父さんみたいになっちゃったね」 「そうですね」 「聞いたよ、大学在学中に小説家になったんだって?」 「はい、お陰様で」 「出版社にも就職できたんだろ?」 「良く知ってますね」 「だって詩の本は全部買ってるし、もうすっかりファンになっちゃたよ」 「ありがとうございます、先輩は私の最初のファンってことですね」 「そんな大層な」 「いえいえ、先輩は最初に私を見つけてくれた人ですし」 「本当かね~」 「はい、それで今日はお礼を言いに来たんです」 「お礼?」 「はい、実は最初に出して小説には先輩とその叔父さんのことを書いてまして、それで映像化もされてあの台詞も好きだって言ってくれる人が多くて、もう全部先輩と叔父さんのお陰なんです」 「それは違うよ」 「え?」 「詩の力で掴み取ったものだから、俺は関係ないよ」 「そんなことないですよ」 「そう?」 「はい!!」 「あ、そうだもし来たら渡そうと思ってた物があったんだ」 「渡したい物?」 「うん、俺に叔父さんに詩のことを話したら嬉しそうにしてたよ。それにあの後お店に復帰して暫く頑張ってたんだけど亡くなるまで、詩の本をずっと大切に読んでたんだよ」 「それはご愁傷様です」 「うん、それで詩に感謝しててそれで亡くなる前に手紙を書いてたの」 「手紙ですか?」 「うん、それを預かってたの。渡せる確証はないよって言ったんだけどね。此処にいればいつかは会えるからって、それで持ってたんだ」 「そうなんですね」 「そう、それがえっと確かここら辺にっと」 後ろに積んでいる本の上にずっと置いてあった手紙を渡した。 「はい、これ」 「ありがとうございます」 「うん、まあ暇な時に読んでくれたら幸いだよ」 「はい、もしかして中見ました?」 「いやいや、そんなことしてないよ」 「そうですか、じゃあ読みますね」 「え、今?」 「はい」 「ああ、じゃあ椅子あるからそこで座って、あとお茶とかそんなものしかないけどそれでいいなら」 「お構いなく~」 それから数十分経って、手紙を読み終わって涙ぐんでいてどんな内容なのか気になった。 「じゃあ私そろそろ行きますね」 「うん、また来てね」 「はい、あ、そうだ先輩」 「なに?」 「連絡先教えてください」 「良いよ」 そうして、詩が立ち上がった時だった。 カラッン…。 「いらっしゃい」 店に入って来たのは俺と詩の母校の制服を着ている、常連さんだった。 「え、あのもしかして雨宮先生ですか?」 「はい」 「ファンです、握手してください!!」 それから写真やサインをもらって嬉しそうな女子高生を和やかに見ていた。 「この子がこんなに元気なのは初めて見たよ」 「なんかすいません、舞い上がちゃって」 「私でそんなにテンション上げてくれる人は珍しいよ」 「雨宮先生は私を救ってくれた恩人です」 「そうんなんだ」 「この子、詩ちゃんの小説を読んで学校に行けるくらい元気になったんだって」 「そうなんですか」 「はい」 「そう言えば今日は詩ちゃんの新作の発売日だったね」 「はい、これお願いします」 「はい、八百円です」 「はい」 「丁度だね、では良い出会いになりますように」




