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さよなら。

作者: 万里

 風が砂埃を巻き上げた。

 グラウンドの上を白球が走る。

 グローブに収まり、そのままホームに送球される。


 ぼんやりと、それを眺めていた。

 校庭の隅の木にもたれて、ボールの行方を目で辿る。


 グラウンドの向こう側、声が上がる。

 誰もが手を合わせ願っていた。

 一人の青年を向ける大きな期待。


 四番バッターの青年の、険しい顔。


 ピッチャーの手から、ボールが飛び立つ。


 青空を見上げた。


 「走れ!」

 誰かが、叫ぶ。


 ホームに走りこむ、人と、球。


 歓喜の声が上がった。


 青年が、空に向かって叫んだ。





 それが、一年前のこと・・・。





 写真の中で、青年は笑っていた。


 「何で、死んだのよぉ!」

 母親の悲痛の叫び声が響く。

 その腕に、汚れたバットをしッかり握りしめている。


 青年は死んだ。

 飲酒運転で交通事故を起こしてしまった。


 誰もがその事実を信じることが出来ず、立ち尽くしていた。





 青年の葬式で、静かに泣く少女がいた。





 少女は、一年前まで青年の彼女だった。

 彼女は青年のことをすごく愛していた。

 なのに、手酷く捨てられてしまったという。


 昔、彼女に憧れていた時があった。


 けれど、今の彼女に昔の面影はない。

 「ストレスで、過食気味になっちゃった」

 そう言って、こけた頬を引きつらせて笑った。


 彼女の指にはまっている指輪。


 「諦めるのは簡単だから」

 声を震わせながら、呟いていた。


 夜の街を歩きながら、昔話を語り合った。


 「そんな事もあったね」

 彼女は、笑いながら泣いていた。


 『頑張れ』


 その言葉を飲み込む。


 さよなら、と笑いながら手を振った。





 少しずつ諦める事も上手くなった。





 我慢すれば、誰かのためになる。

 そう思っていた。


 記憶の片隅に押し込んでいた夢と涙が、叫ぶ。

 「望んだ様に生きられないなら、死んでんのと同じだ」

 ずっと押し殺していたホントの気持ち。


 そうだね、一緒にもう一度新しく生まれ変わろう。





 傷ついて笑うのは、やめよう。





 凍えそうな闇の中に一人、だから間違った。

 そんな人達ばかりだから、いらないのに無駄に強くなった。


 でも、それでも、間違いじゃないと信じたい。





 さよなら。





 校庭の隅。

 木にもたれて、グラウンドをぼんやり眺める。


 打ちあがった白球を辿って、空。

 無数の星、星、星・・・。


 未来を重ねる。


 あの時の、変わってしまったのかな。

 重く重くのしかかる、不安。





 ホームインした四番バッターが、はしゃいで笑っていた・・・。





 不安を抱えて、未来へ歩く。

 痛みが重過ぎて、今日に立ち尽くす。


 顔を覆う手の間から、涙がこぼれる。


 何で、何で、泣いているんだよ。


 思い出なんて消えろ・・・。





 どうせ明日があるんだから、いらない。





 それでも、涙は枯れることはないから・・・。





 さよなら、さよなら。





 笑いながら、泣いた。

amazarashi「少年少女」に魅了されて、書きました。

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