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水子をかどわかす

作者: 田中アネモネ

 かわいい景色だった。


 小川のはずれに小さな沢がある。

 ほこらのように、窪んだところに沈むような、しかしどこか明るい夜の水の上を、小さな光の玉たちがふわふわと舞っていた。


「こっちへ、いらっしゃい」


 私は貪欲な目を優しく輝かせて、その子たちに語りかけた。


「私の子どもに、してあげる」



 その子たちは、産まれず堕ろされたことに、恨みのひとつもなく、ただ無邪気にそこで遊んでいた。

 




 結婚して12年。


 41歳で子なしとなれば、妻は気が触れるものだろうか。


 夫が「いいよ」と微笑んでくれても、しゅうとが優しく接してしてくれても、私には不妊を罪と自覚することから解き放たれることはなかった。


 私の人生に、一度も子をもつことがないなんて──


 母の言っていた『お腹を痛めて産んだ子だもの』という言葉を、その意味を、私は知ることがない。


 だから水子をかどわかすのだ。


 私のお腹に入れてあげる。


 ペットショップに売られている子どもはいくらでもいるけれど──


 貰うのなら水子がいいと思った。


 産まれることのなかったこの子らを、私が産んであげる。



 おいで──


 こっちへおいで──


 こっちの水は甘いよ?



 ホタルのように──


 ひとつ、小さな玉がユラユラと、近づいてくると、私のてのひらに収まった。



 ひとつ──


 またひとつ──



 そこに舞っていた玉たちが、母を求めるように、すべて私の中に、押し寄せてきた。






 私は七十八つ子を、産んだ。








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― 新着の感想 ―
あらまあー。 七十八つ子ですか。 時間もかかるだろうし、出産費用も大変そう。 名前を付けるのも、一人一人の名前を覚えるのも大変そうですね。
どうしても子供が欲しい女性と、産まれる事の出来なかった水子。 この両者を結び付ける事が出来たならば、まさしくWin-Winの関係性ですね。
 素晴らしい!!  やっぱり、シイココさんはスゴいなぁ。  水子って、そうしてあげたら、良いんですね。  私でも、出来そう。  私の娘(犬)が、お花の中で眠ったら、私も……。  ホラーかなぁ、純…
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