彼女は配信者!
妹曰く配信者という職業は、いまだ小学生に人気の職業として上位に君臨しているらしい。
ヘルパーさんことアルビナさんも、なんと配信者!
びっくりだよ。
≪ハエ叩きの火力は低いけど、連続で受けると初期機体でも危険だから気をつけてね≫
俺はゲリラ配信なるものに同行していた。
というか、出演者だ。
アルビナさんの駆るコバルトブルーのティタンに、雛の如く付いていく!
「はい、先生!」
そう言ってハエ叩きこと対空自走砲をライフルでぶち抜く。
赤茶けた砂に覆われた放棄都市に、また一つ黒煙が立ち上る。
配信の締めに初心者向けの金策ミッションに連れてきてもらった俺、4両目を撃破。
ちょろいもんだぜ。
≪Vさんは射撃が安定してるね≫
Vさん、つまり俺。
勝二だからヴィクトリー、その頭文字をとってV。
好きなソシャゲのキャラクターを真似したのは秘密だ!
「そうですか?」
≪私がフォローしなくても戦闘は問題なさそうかな≫
ヘルパーの名に違わず、初心者向けの配信や世界観の説明動画を挙げているというアルビナ先生。
右も左も分からぬ俺を見かね、指南役を買って出てくれた。
代わりに、その様子を配信させてほしいと──もう快諾したね。
無料で指南を受けられるなら、お行儀よく生徒役に徹するぜ。
初心者に擬態する作戦も同時遂行できる、完璧な作戦だ。
≪うんうん…確かにエネルギー管理に細かく気を配れてるよね≫
アルビナ先生は配信中のため、たまに視聴者のコメントに反応する。
このゲリラ配信を通じ、俺はティタンの基本的な知識を得た。
そして、実弾武器以外のパーツは、タジマ粒子なる近未来エネルギーで動いていると。
だから、スラスターもレーザーブレイドも同じエネルギーなんですね、先生!
≪初期機体に使われてるCR1038Aの回復速度は並だけど、NEP427の容量が小さいから間に合ってるのかな≫
俺の相棒はエネルギー容量が小さいから管理がシビアなんだって。
まずい、怪しまれてるぞ。
勘の鋭い視聴者さん、自重してくれ。
嘘をつけない俺は、すぐボロが出るんだ。
≪でも、左肩のRD-564Kが──≫
「あ、アルビナ先生!」
≪はいはい≫
これ以上はやらせるか!
「気になってたんですけど、ハエ叩きって命名は先生が?」
≪私じゃないよ。それはベータ版からの名残なの≫
強引な話題転換に成功、俺は胸を撫で下ろす。
そして、すかさず高架橋の下から出てきたハエ叩きにAP弾を叩き込む。
わざと数発を外しておく。
≪ベータ版の時はライフル並みの火力があって軽量級のティタンをばたばた墜としてたんだよ≫
「なるほど、だからハエ叩き」
≪うん。その時のイメージが残ってるから、このミッションは避けられやすいの≫
「そんな穴場、教えちゃっていいんですか?」
≪新規さんがスタートダッシュに利用できたらいいねってくらいのミッションだから大丈夫!≫
「つまり、他に穴場がある…?」
≪ふふっ秘密だよ≫
通信越しの声でも、あの小悪魔な表情を浮かべていると分かる。
可愛い。
それにしても豆知識や雑学も含め、すごい知識量。
さすが先生だ。
でも、話してる時の活き活きした感じ──純粋に、この世界が好きなんだろうな。
好きなものを語れる人って素敵だよね。
≪そろそろ、ターゲットが出るポイントだね。気を引き締めていこう!≫
ハエ叩きを叩いて三千里。
気が付けば、放棄都市の中央部が目前に迫っていた。
あとは野良ティタンを撃破してミッションクリアだ。
初心者に擬態したまま終わらせてもらうぜ!
「はい、先──」
≪残念、その予定はキャンセルだ≫
いや、誰だよ。
待ちに待ったロボットバトルに水を差すようなこと言う奴は。
レーダーに映る赤点4つ、12時方向、距離8204m──赤茶けたビルに堂々と姿を晒す4つの人影。
当然、人間なわけがない。
この荒廃した世界を支配する人型兵器、ティタンだ。
着ぶくれした太い奴が2機、鳥みたいな脚の奴が1機、骨みたいな奴が1機。
≪引率ご苦労! ここからは対人戦講座、始まるよ!≫
こっちを見下した嘲りの色を隠しもしない。
相棒がロックオンされたと警報を鳴らす。
胸を貸してくれる先輩ってわけではないらしい。
≪初心者のヘルパーとか……承認欲求強い配信者はこれだから困るわ≫
わざわざ嫌味を口に出す奴が、一番承認欲求が強いんだよな。
それを胸の奥にしまっておけないのか、と小一時間。
とりあえず、一番左にいる骨みたいなティタンは真っ先に潰そう。
≪世間の厳しさってのを教えてやるよ≫
ゲームで世間の厳しさとか語るか、普通?
本気になるのは結構だけど、健全な方向で本気になれよ。
「先生、あいつらがターゲットですか?」
連中の足下に転がるティタンが本当のターゲットだろうけど、一応聞いておこう。
そういうイベントかもしれないし。
機体に損傷なし、ライフルの残弾33発、ミサイルの残弾は6発。
一通り確認してからスティックを握り直す。
≪違うよ! あれは──≫
やっぱりイレギュラーか。
明らかに配信者、アルビナ先生を露骨に敵視している奴いたもんな。
僻み、よくない。
みっともない。
≪初心者狩りだ…!≫
アルビナ先生の憤りを滲ませる声に応じ、4機のティタンは一斉に散開する。
初心者狩りとは、けしからんな。
つまり、問答無用でスクラップにしていいと?
最高かよ。
プレイヤーの駆るティタンが相手か──燃えてきたぜ。