フェイカーは語りたい!
メインストリートを大きく外れた路地、その片隅にある階段を下りた先に、目的のショップはあった。
巨人の腕や脚が安置され、まるでカタコンベだ。
「なるほど、積載重量の高い脚部をお求めなのですね」
「まぁ、今回は選定だから購入しないけどな…」
きりっとした表情で隣を歩くトリガーハッピー姉さんは相槌を打つ。
当然のようにショップまで付いてきた。
もう何も言わねぇよ?
「戦車型の脚部であれば、何か助言できるかもしれません」
「アルは戦車型を使用しているのですか?」
アルと名乗ったトリガーハッピー姉さんの発言にゾエが反応する。
「はい。マシンカノンにマルチプルミサイル、大容量マガジンを搭載できる脚部は限られますので」
単語を聞くだけでも、火力偏重って分かるぜ。
戦車というより砲台だよ、それ。
「戦車型と言ってもメーカーによって特性が違い、個人製造の場合は特殊な機構を有している場合もあります」
「へぇ…重装甲と積載重量だけが売りじゃないのか」
先入観で判断するのは良くないな。
経験者には聞いてみるもんだ。
「特殊な機能…可変ですね!」
そんなに強襲機が好きになったのか、ゾエちゃん。
「私の知る限りでは、ハードキル型の防護システムが多いでしょうか」
「そうですか…」
「諦めてはいけません。私も知らない可変機構を有するものがあるかもしれません」
気落ちするゾエへ真面目な表情でアルは語りかける。
冗談を言ってるようには見えない。
ちょっと、見直したぜ。
「最終手段はオーダーメイドです」
「オーダーメイド…!」
ティタン・フロントラインって熱意さえあれば大概のロマンは形にできるんじゃ?
今、横に展示されてた四脚とかパイルバンカー装備してたもん。
わくわくしちまうよ、あんなの。
「あ、J・Bのアパラチアです!」
ゾエの視線の先、ショップの中央で展示中の機体は、PV機体ことアパラチアだ。
「やっぱりレールガンは良いな…」
レールガンを構えた状態の展示ってのが分かってる。
その勇姿を眺めつつ、ゴーグルを付けた作業服姿の兄ちゃんとすれ違う──
「お、おい!」
呼び止められた。
来やがったな、今日の厄介事第2弾!
「お、お前、アドマイヤで…!」
俺を指差して、声を震わす兄ちゃん。
師匠と運命的な邂逅を果たし、フラッシュバンを炸裂させて迷惑をかけたアドマイヤがなんだって?
「どちら様で?」
「お前っ…ラリアットを叩き込んだ相手くらい覚えとけよ!」
そんな野蛮なことをするわけ──いや、待てよ。
記憶の片隅に、師匠とラリアットを叩き込んだ野郎がいた気がするぜ。
まさか、あの時のそっくりさんなのか?
「そんな格好してたっけ?」
「格好!? あ、確かに分からねぇか……いや、そんなことはどうでもいいんだよ!」
どうでもいいわけねぇだろ、アイデンティティだぞ!
鏡を見ろって?
なんのこったよ。
「お前のせいで当局に捕まるわ、V狩りに巻き込まれるわ、さんざんな目にあったんだよ!」
「え、自業自得じゃん」
「うっ…うるせぇ!」
一瞬、目を逸らしてから強がったところを見るに、そこまで落ちてないな。
俺を騙った悪事はやめたみたいだし、汝の罪を許そう。
レールガンを産廃と言った罪は許さないけどな。
「まぁ、怒るなって。それよりフレイムロックは買えた?」
「ああ、ちゃんと稼いで買った…って馴れ馴れしいな!?」
面白いな、この兄ちゃん。
少し見直したぜ。
あれから真面目にティタン・フロントラインをプレイしてるらしい。
「この人は誰ですか?」
珍獣を見るような眼差しのゾエは、じっと兄ちゃんの背格好を観察する。
俺たちの関係性は複雑、それでいて浅い。
表現が難しいところだな。
「ふむ……俺のファン、かな」
「誰がファンだ、おい!」
鋭い反応だ。
この兄ちゃん、結構できるな。
感心する俺の前に、音もなく現れる美人の後ろ姿。
「ファンでなければ集りですね。しかし、そうはさせませんよ」
「アルさん…!」
トリガーハッピー赤字姉さん!
さすがフリーの傭兵、荒事ならお任せだぜ。
「この人は、私の金づ──命の恩人です」
「正体を現しやがったな」
少しは隠す努力をしろよ。
兄ちゃんも困惑を通り越して、引いてるじゃん!
「なんなんだよ、そいつ…?」
「俺が聞きたいよ。引き取ってくれない?」
「嫌に決まってんだろ」
そりゃそうだ、俺も断るわ。
とりあえず、躍りかかろうとするアルを羽交い締めにして止める。
「しかし、よく俺って分かったな」
「いや、レールガンを口にするニュービーとか限られんだろ…」
まさかの判別方法だった。
おいおい、俺以外にもレールガンに魅入られた初心者がいるかもしれないぞ?
抗議の視線を受けて、兄ちゃんは溜息を吐く。
「はぁ……怒ってんの馬鹿らしくなってきた」
「ふっ…私に恐れをなしましたか」
「こいつはなんなんだ?」
俺は首を横に振るしかない。
なんなんだろうね。
この勝ち誇ってる人、これでも腕利きらしいんですよ。
「ふむ……2人は仲が良いのですね!」
そう言ってゾエは小さく相槌を打つ。
実は俺もそんな気がしてたところなんだ。
大人しくなったアルを離し、兄ちゃんと向き合う。
「どこを見たら、そうなる──」
「まぁまぁ、ここで会ったのも何かの縁だ」
条件反射で反応するところを遮り、俺は端末を取り出す。
「連絡先、交換しないか?」
「は?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔って、今みたいな顔を言うんだろうな。
「な、何を企んでやがる!」
一歩後退り、身構える兄ちゃん。
おいおい、ティタン乗りなら分かってんだろ?
「何って……そりゃ、一緒にミッションへ行くためだろ?」
「いやいや、待てよ! 後ろから撃たれるとか思うだろ、普通!?」
俺の経験上、わざわざ言うような人は間違いなくやらないよ。
「その時はレールガンを産廃呼ばわりしたこと含めて、ぶち殺してやるから」
「ま、まだ根に持ってたのかよ…!」
「当たり前じゃん」
俺は聖人君子じゃないから、反撃するし、報復もするぞ。
安心して撃ってこい!
俺は端末を持ったまま、無言の圧力をかける。
「……分かった、分かったよ!」
渋々と言った様子で兄ちゃんは端末を取り出す。
やったぜ。
隣から端末を覗き込むアルのおかげで、俺は一つの交渉術を学んだ。
「あ、私も連絡先を交換してもよろしいですか?」
「ゾエも交換したいです!」
本日の成果──揉め事を起こさず、1人の傭兵を拾い、1人のフレンドを得た。
残念ながら、ゾエの要望を満たす脚部は見つからなかった。
そういう日もあるさ。




