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初期機体は初心者にあらず!  作者: バショウ科バショウ属
エクスプレス
41/75

ロマンに犠牲はつきもの!

 全高10mの巨人が放つ照明の下、重装備に身を包んだ人影が生体兵器の残骸を検分していた。

 頭部の接合部を破砕され、絶命した巨大な節足動物。

 呼称はタイプα4、タジマ粒子の加速器を頭部に備える危険な個体である。


「隊長!」


 隊長と呼ばれた全身サイボーグの男が振り返る。


 アンダーセントラルのブロック66にて、セントラル・ガードの指揮を執る男──殴り屋ブライアンだ。


「何か見つかったか?」


 歩み寄ってきた巨躯の隊長に、隊員はタイプα4の外皮を指し示す。

 格子状のフレームの奥で緑の眼光が瞬く。


「これは…」

「二月傘の個体識別番号、みたいだな」


 隊長より先に解答を述べるのは、壮年の男だった。

 ヘルメットのバイザーを上げ、外皮に刻まれた数字の羅列を撫でる。


「事件の首謀者は二月傘……じゃないよな、こりゃ」

「ああ」


 副官を務める男の言葉に、ブライアンは重々しく頷いた。

 二月傘は特殊な愛好家の集団だが、セントラルを襲撃するほど狂ってはいない。

 そして、証拠を残すほど愚かでもない。


「ご苦労、調査を続けてくれ」

「了解!」


 隊員を労い、場を後にする。

 ブライアンと副官は照明の下より出て、外壁に開いた大穴を見上げる。


「輸送列車から強奪された()()で間違いないな」

「ああ、二月傘も被害者だ」


 各都市の自治組織と繋がりを持つセントラル・ガードは、輸送列車の襲撃事件について認知していた。

 詳細までは把握していなかったが。


「何者かがセントラルに混乱を呼び込もうとしている」

「呼び込んだとして……目的はなんだ?」


 隊長であり相方を横目に、壮年の男は闇を鋭く睨む。


「おそらく、混乱は手段だ」

「ストーリーイベントの妨害か? 命知らずが過ぎるぞ」


 一般的なプレイヤー、大多数はストーリーイベントの開催を心待ちにしていた。

 しかし、世界には歓迎しないプレイヤーも当然、存在する。

 得てして少数派のため、大した影響力は持たない。

 本来は。


「二月傘のペットに手を出せば、地の果てまで追ってくるぜ」


 そう言って副官は肩を竦める。

 生体兵器の愛好家集団であり、勢力の拡大に余念がない野心的な実力者集団。

 彼らとの敵対は、自殺行為だった。


「敵対中の上位クラン、逆叉座の残党、アリーナの無法者、あとは……」


 それを恐れない者たちをブライアンは淡々と列挙していく。


「企業か」


 最後の一言が闇に響き渡り、副官は顔を顰める。

 ティタン・フロントラインの()()()に目をつけた企業が暗躍しているという都市伝説。

 それを一蹴することは容易いが、隊長は真面目に検討していた。

 沈黙が両者の間に流れる。


「なぁ、ブライアン」


 闇を見据えたまま、壮年の男は砕けた口調で問いかけた。


「どうした?」


 それに対し、両腕を組んだブライアンが静かに応じる。


「なんで俺たちはゲームの中で仕事してるんだ?」

「やめろ……虚しくなる」



「お前には失望したぞ」

「ヘイズ、なぜ分かってくれないのですか!」


 師匠、助けてください。

 セーフハウスで局地紛争が勃発しています。


「HEKIUNはロマンです! ゾエの求めるものです!」

「大艦巨砲主義で財政を傾ける馬鹿がどこにいる!」


 メカメカしい狐の面を取ったヘイズは、珍しく怒ってらっしゃる。

 美人が怒ると凄みがあるね。

 いつも無表情なだけに威力が違うぜ。


「む……むぅ…!」


 すっかり怖気づいたゾエが俺の背中に避難してきた。

 涙目で見上げ、ヘルプを求めている。

 やめよう、こんな悲しいことはない!


「落ち着こうぜ、ヘイズ」

「お前も何を見逃している…?」


 やべぇ、俺も怒られるパターンだ!

 いや、仕方ないじゃん。

 そこにロマンがあって、手が届くだけのクレジットがあったらさ?


 買っちゃうよね──言ったら、間違いなく眉間に風穴開くな。


 思考を回転させろ、俺!


「ヘイズも見ただろ、ゾエの射撃……あれを生かすなら、最大射程の長いHEKIUNが──」

「クローバーラインの方が射程は長い」


 マジかよ。

 やっぱり付け焼刃の知識でヘイズに勝てないのか?

 いや、諦めるな!


「弾数が多いから狙撃の回数が増える…!」

「そ、そうです! 魔弾の射手としての活動時間が伸びます!」


 ゾエも並んで、とにかくヘイズに有用性をアピールする。

 玩具を買ってもらうための交渉だ、これ。

 木製の椅子に腰かけるヘイズは、ゆっくりと額を押さえた。


「……言い分は分かった」


 これは、俺たちの心が通じたパターンだ!


「じゃあ!」

「生きるための金だ……ほどほどに嗜め、そう言ったはずだぞ」


 つい先日、聞いたばかりですね。

 買うなとヘイズは言わなかった。

 ただ、ゾエが1人でも生きていけるように備蓄も大切という話。

 そんなことにならないよう努力するつもりだが、絶対はないのだ。


「クレジットの残額は?」

「え、えっと……0です」


 2人して正座の姿勢で、恐る恐るヘイズを見上げる。


「口座は、しばらく預かる」

「そんな…」


 無慈悲な採決が下り、ゾエは小さく肩を落とす。

 ゾエの口座はヘイズが持っていた口座の一つ、預かるというより戻ったが正しい。


「ガレージと修理費は見てやるが、いずれは自給自足できるようになれ」

「…はい」


 厳しいようで、実は心配で仕方ないんだよな。

 ゾエも分かってるから、そこは素直に聞く。


「はぁ…買ってしまったものは仕方ない」


 面を被って、端末を手に取ったヘイズが手招きする。

 ゾエと一緒に覗き込むと、フランベの機体情報が表示されていた。


「HEKIUNを搭載するが、問題ないな?」

「はい!」


 ぱっと表情を輝かせ、ゾエはヘイズの肩に引っ付く。

 まるで親子みたいだぜ。

 やはり、ママなのか──


「なら、クローバーラインは下ろすぞ」

「え…?」


 この世の終わりを見たような、絶望の声がゾエの口から漏れた。

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