結果を報告してください
ヘイズのセーフハウスは色んな物が置いてある。
ポストアポカリプスな世界では、貴重そうな木製の椅子とか。
その1つを借りて、俺は長椅子で眠るゾエちゃんを見守り中。
ヘイズは情報を売ってくれた人へ報告に、師匠は右腕を失った愛機の修理に、それぞれ出払っている。
エリア13からの離脱──俺たちは楽々と離脱できてしまった。
ムリヤさんの腕も当然あるが、一番の要因は間違いなくゾエちゃんだ。
大怪鳥ルンルンは離脱時だけ一切の攻撃を受けなかった。
「……レールガン…うゅ…」
当人は幸せそうな表情で、レールガンの登場する夢を見ている。
師匠とアパラチアの影響力、恐るべし。
右腕が吹っ飛んでた?
気のせいだよ。
「……何者なんだろうな」
呟きがセーフハウスに空しく響く。
目に映る全てのものに目を輝かせ、ティタンに興味津々な少女。
今は黒いロングコートを抱き締めて、すよすよと寝息を立てている。
なぜ、俺や師匠の機体について知っていたのか──アルビナ先生のゲーム実況とPVを見たから。
ゾエちゃんは純粋無垢な瞳で、そう言った。
つまり、この世界の外側の知識で形成されている。
さすがの俺でも異質さに気付く。
NPCでもプレイヤーでもない──謎の存在。
俺たちは当然、本人も名前以外知らない。
お手上げだった。
よって、この件は進展あるまで保留になっている。
ムリヤさんにも口外しないようお願いした。
「…ん……V?」
ゆっくりと開かれる寝ぼけ眼。
あの時と同じように、スカイブルーの瞳が俺を映す。
「おはよう、ゾエ」
ただ、今回は一瞬でスイッチが入り、むくりと起き上がるゾエちゃん。
「ゾエ、戦闘モードを起動しますっ」
影響されやすいな、ゾエちゃん。
なんとも微笑ましい。
頭を捻るのはヘイズたちと一緒でいい──今は、ただ目を離さないこと。
長年培われてきた兄の直感だ。
◆
≪ここ数日、燃料投下のペースが早い件≫
≪逆叉座残党と二月傘の死闘が昨日だっけ?≫
≪あれよりは弱いな。考察班が喜ぶだけだろ≫
五月事変とすら呼ばれ始めた事件は、いまだ収束していない。
それどころか界隈には新たな火種が投じられている。
その日、彼らが注目していたのは、1つの動画だった。
動画名は──【エリア13の水没地区に研究施設!?銀蓮の謎に迫る!】
サムネイルの主張が激しいだけの目新しくもない動画。
しかし、内容は衝撃的なものだった。
≪辿り着いたことに意味があるんだよなぁ≫
アルジェント・メディウムが守護するエリア13に、たった3機で挑み、これを突破したのだ。
フラグシップの強襲を受けながら。
≪水没地区って端の端だろ? 本隊よりは弱いじゃん≫
≪やってから言え定期≫
≪戦車型の俺には鬼門だわ。極超音速ミサイルのクロスファイアとか回避できねぇよ≫
≪被弾して硬直したが最後、一瞬で水底直行やぞ≫
≪ECM必須≫
泣く子も黙る赤外線誘導ミサイルの飽和攻撃。
極超音速ミサイルとスナイパーカノンの正確無比なクロスファイア。
そして、水没厳禁の重度に汚染された海。
実際に体験したプレイヤーたちは、その地獄を誇張なく語る。
≪建造物自体は発見されてたけど、研究施設とは新解釈だな≫
≪どこを見たら研究施設に見えるんだ、これ?≫
≪兵器工廠と違ってバンカーじゃないのな≫
≪ドーム状にする必要はなんだろ?≫
ティタン・フロントラインの世界を探求するプレイヤーたちは、別の点に注目していた。
今まで無人兵器に関連した施設は、兵器工廠しか発見されていない。
ゆえに、研究施設とは彼らの脳を酷使するに値した。
≪あの動画、加工の形跡があったらしいぞ≫
≪は?≫
≪フェイクかよ≫
≪はい、本日は解散です≫
加工の痕跡があるとなれば、白けた空気が漂うのも無理はない。
≪最後まで聞けって…動画の後半部分は見たか?≫
≪見たよ≫
≪どうして暗視モードで撮影していないんですかって聞きたい≫
動画の後半、肝心の施設内部は暗闇が支配し、照明の確認できた場所には小島が見えるだけだった。
≪小島が映ってるところ、あそこだけ不自然な処理があった≫
そのチャットが流れた後、一時的にチャットが途絶える。
≪つまり……何かを隠した?≫
≪その何かが重要なんだよなぁ≫
≪加工前は一体何が……≫
≪気になって8時間睡眠になっちまうよ!≫
≪安眠じゃねぇか≫
チャットが息を吹き返し、目まぐるしい速度で流れ出す。
≪これ、投稿者は誰?≫
≪ブン屋……嫌な奴がネタ握ってやがる≫
≪メインストーリーを恵んでくだされ…≫
≪探せよ、さらば見つからん(血涙)≫
≪新約聖書さん!?≫
ティタン・フロントラインの世界に深く浸りたい者、メインストーリーの鍵を探す者。
そんなプレイヤーたちの嘆きにも似た声が溢れる。
≪世に銀蓮の祝福と安寧を…こちら団員334号≫
そこへ異物が紛れ込む。
≪世に銀蓮の祝福と安寧を…報告を≫
≪うわ、出た≫
≪遅かったな、狂信者ども≫
エリア13の関連した話題で、今まで沈黙していたことが不思議だった狂信者たち。
誰も相手にするつもりはないが、混線を警戒し──
≪エリア13のタジマ粒子濃度が上昇……我らが銀蓮は目覚めた!≫
≪おお…世に銀蓮の祝福と安寧を!≫
≪は?≫
≪マジ?≫
≪おい、件の動画に映ってるの初期機体じゃね?≫
≪また、あいつか!≫
五月事変は終わらない。




