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初期機体は初心者にあらず!  作者: バショウ科バショウ属
ラボラトリー
21/75

内部を調査してください

 ビルの壁面を蹴り、視界にドーム状の建築を捉える。

 ペダルを蹴ってスラスターを噴射。

 至近に迫ったミサイルを振り切って、一気に研究施設までの距離を縮める。


≪そのまま真っすぐ飛べ≫

「おう!」


 ヘリポートで砲火が瞬き、背後を追尾していた攻撃ヘリコプターが吹き飛ぶ。

 かなり際どい射線だったけど、さすがヘイズだ。

 スラスターをカット、重力と慣性に従ってヘリポートへ落下する。


≪任せたとは言ったが…≫


 水没したヘリポートへ着地、飛び散る水飛沫が相棒を濡らす。

 海水じゃないことを祈るぜ。


≪ここまで早いとはな≫

「どんなもんじゃい!」


 俺は有言実行する男なのさ。

 若干、不完全燃焼なところはあるが、それはそれ。

 ヘイズと師匠、それぞれの損傷を確認する。


≪やはり、私の見込みに間違いはなかったな≫


 腕組みして頷いてそうな師匠のティタンが、今のところ損傷が一番大きい。

 それでも問題なく動けるところを見るに、PV機体はタフだ。


≪よし…施設内へ進入するぞ≫


 そう言ってヘイズは、右腕のスナイパーライフルを投棄。

 熱を帯びた砲身が水中に没し、白い蒸気を立ち上らせる。

 ヘイズの視線を追った先には、ぎりぎりティタンが潜れる天井高の入口。

 搬入口にしちゃ大きいな。


「無人兵器はどうする?」


 まともな飛び道具がない今、研究所の中で迎え撃つか?

 研究施設ごと爆撃されたら嫌だなぁ。


≪理由は不明だが、ここを連中は攻撃できないらしい≫

「言われてみれば、攻撃が止んだな」


 ひっきりなしに鳴ってたロックオン警報が沈黙している。

 レーダーは赤点だらけだが、攻撃の兆候はない。


≪ふむ…内部には何があったものかな≫

≪無人兵器が誤爆を恐れる代物……兵器工廠の類か?≫

「とりあえず入ってみようぜ」


 入口へ相棒を進め、闇の中へ脚を踏み入れる。

 罠があろうと正面から踏破するだけだ。

 それよりECMの有効時間が切れる前に終わらせないとな。


≪そうだな≫

≪虎穴に入らずんば虎子を得ず、か≫


 俺、ヘイズ、師匠の順でダンジョンもとい研究所内部へ突入。

 内部は光源がないため、暗視モードに切り替える。


「研究施設ってことは、何かの研究をしてたんだよな」


 水没している上、道幅が狭い。

 まず回避機動は取れないな。


≪そう呼ばれていたから、暫定的に呼んでいるが、詳細は分からん≫

≪彼女の膝元であれば、無人兵器関連と見るべきだが…≫


 隔壁が閉じたり、迎撃システムが襲ってきたり、というハプニングも起きない。

 巨人が脚を進める度、水音が反響する。


「無人兵器の研究……AIとか?」

≪だとすれば、ここは始まりの場所なのかもしれんな≫


 人類の殲滅を目的とする兵器が産声を上げた場所。

 なら、フラグシップが防衛しているのも納得か。


≪まだ、稼働している可能性がある≫


 ヘイズの言いたいことは分かる。

 水没しているが、放棄された施設とは思えないほど()()()()()


「排水した方が施設には良いと──お?」

≪警戒しろ≫


 狭い通路から開けた場所へと出る。

 おそらく、ドームの中央に当たる部分。

 カタコンベ(地下墓所)という言葉が脳裏を過る静かな場所だった。


≪研究施設というより電算施設だな、これは≫


 周囲を見渡す師匠の視線を追えば、ちかちかと点滅する無数の箱。

 水気厳禁では?

 アナクロなコンピュータから伸びるコードは中央へ──


「中央に何か、あるな…?」


 唯一照明が注がれている場所。

 水没していない円形の小島に、ぽつんと椅子が置かれていた。


≪人か?≫


 カメラの倍率を変え、拡大していく。

 そこに座っていたのは、一人の少女。


 俺の語彙力では、美少女としか表現できない──ちょっとアルビナ先生に似てる?


 髪の色は、銀と黒で正反対だけど。


「まるで眠り姫だな」


 すやすや眠ってるだけで、特に危険は感じない。

 また、ゲームジャンルが迷子になってるぜ。


 罠か、それとも──悩んでも仕方ないな。


 コードを切らないよう慎重に相棒を進め、小島へ近づく。


≪おい、不用意に──≫

「危なくなったら頼むぜ」


 膝立ちの姿勢にしてから、戦闘モードを落とす。

 狭いコクピットへ視界が切り替わる。

 空気の抜ける音、それから頭上のハッチが開く。


「よっと」


 コクピットから出て、肉眼で見渡す世界は闇。

 周囲の箱が放つ光だけが星のように瞬く。


「お?」


 自動で相棒の武骨な手が、コックピットまで寄せられる。

 男の子なら誰もが夢見る、愛機の手に乗る!

 それを堪能しながら小島へ上陸。

 気分は月面着陸だ。


≪…何も起こらんな≫


 特に何も起こらない。

 相棒の背後に控えるヘイズと師匠に手を振ってから、椅子に座る少女へ近づく。


「この子が調査の対象なのかな?」


 呼吸が確認できるから、ホログラムじゃない。

 長い黒髪に白い肌、着てるのは病衣か?

 それをヘルメット被った厳ついパイロットスーツ姿の俺が見下ろす。

 絵面が良くない。


≪時間がない以上、少女を起こす他あるまい≫

「どうやって起こします? 目覚めのき──」


 背後からパイルバンカーの弓が杭を番える音が響く。

 落ち着け、ヘイズ。

 ステイクールだ。


≪生体反応を感知しました。緊急起動措置を実行します≫

「うん?」


 唐突に機械音声を発する椅子。

 それを聞いた瞬間、ヘイズと師匠の機体が姿勢を落とす。


 小島の周囲を波紋が駆け──少女の目は、開かれる。


 おいおい、目覚めちゃったよ。

 ゆっくりと起き上がった少女は、スカイブルーの瞳を俺に向けた。


「あなたは、誰ですか?」


 じっと見つめられ、俺の脳内を数多の選択肢が駆け巡る。

 高校デビュー以来の緊張感だ。

 俺が取るべき選択は──


「あ、お邪魔してます…俺はVって言います」


 常識的対応!

 寝所に土足で踏み込んだ申し訳なさが勝っちまったぜ。


 寝起きの少女の反応は──目を瞬かせ、処理の真最中。


 人間離れした造形、人形みたいな子だな。

 これファーストコンタクトに失敗したら、どうなるんだろ?


「V、ティタン……あ!」


 思考の末、何かに思い至った様子。

 きらきらと目を輝かせ、胸元で両手を合わせる少女。

 かわいい。


「オープニングを倒したVですね!」


 まさかの爆弾発言!


≪何…?≫

≪ほぅ…≫

「なんで知って──」

≪こちらムリヤ! 無人兵器が研究施設へ集結し始めたんよ!≫


 質問を口にする前に、ムリヤさんの通信が飛び込む。

 もしかしなくても起床がトリガーだよね、これ。


≪ECMは機能しているはずだが……次から次へと、よく起こるものだ≫

≪退屈しなくていいじゃないか≫

≪はぁ…そうだな≫


 状況は悪いが、ヘイズも師匠も気にした様子はない。

 頼もしい限りだ。


≪回収地点まで3分ほどなんよ!≫

≪分かった。急いで脱出する≫


 剣道の試合時間と同じか。

 短いようで長いんだよな、3分。


≪状況は聞いたな?≫

「聞こえてた。先に行ってくれ」


 いますぐ脱出行に移りたいところだが、俺にはやるべきことがあった。

 状況が分からず、首を傾げる少女に向き直って問いかける。


「君の名前は?」

「ゾエです!」


 打てば響く回答ありがとう。


「俺たちはお暇させてもらうけど、ゾエはどうしたい?」


 キーキャラクター云々を置いておいて、ここへ残していくのは気が引ける。

 箱と喋る椅子以外に何もないし、ひとりぼっちだし。

 ただ、本人の意志は尊重したい。


「連れて行ってくれるのですか?」


 当然、頷いてみせる。

 すると、ぱぁっと顔を輝かせて、椅子を立つゾエちゃん。

 不純物のない、いい笑顔だ。


「行きたいです!」

「よし、分かった」


 そうと決まれば、長居は無用。

 差し出した手を小さな手が握る。


≪まぁ、及第点か…先に行って退路を確保する≫


 理解ある友人を持って俺は嬉しいぜ。

 ゆっくりと純白の巨人が後退し、水の波紋が広がる。


 右胸部の装甲がスライドし、迫り出すハンドガン──リボルバーだ。


 それを右手で掴み、ヘイズの機体はスラスターを噴射して入口へ向かう。


≪少年、安全運転だぞ≫

「うっす」


 その後ろに追従する師匠を見送り、俺も相棒の下へ急ぐ。

 ゾエちゃんの手を引いて。


「すごいです、今、ティタンの手に乗ってます!」


 巨人の手に飛び乗るだけで、ゾエちゃんは歓声を上げる。

 その気持ち、分かるぜ。

 俺も愛機の手に乗るシチュエーション、大好きなんだ。


「ちょっと狭いけど…」


 コクピットに滑り込み、シートベルトで体を固定。

 それから覗き込むゾエちゃんに手招きする。


「我慢してくれ」

「問題ありませんっ」


 ぽすん、と俺の膝上に着地するゾエちゃん。

 見た目よりも軽い。


「おお、これがコクピット」


 はしゃぐ姿を微笑ましく思いながら、戦闘モードを起動。

 ハッチが閉じられ、モニターに光が灯る。


≪戦闘モード起動≫

「おお!」


 ちかりと視界が瞬き、コクピットから相棒の眼に切り替わる。

 ノイズの走るレーダーには、接近中の赤点。

 上等だ。 


「ちゃんと掴まった?」 

「はい!」 


 俺の首に手を回し、膝の上に座るゾエちゃんはシートベルトができない。 

 ゆっくりと機体を立たせ、入口へ振り向く。 

 さぁ、脱出するぜ。 

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