内部を調査してください
ビルの壁面を蹴り、視界にドーム状の建築を捉える。
ペダルを蹴ってスラスターを噴射。
至近に迫ったミサイルを振り切って、一気に研究施設までの距離を縮める。
≪そのまま真っすぐ飛べ≫
「おう!」
ヘリポートで砲火が瞬き、背後を追尾していた攻撃ヘリコプターが吹き飛ぶ。
かなり際どい射線だったけど、さすがヘイズだ。
スラスターをカット、重力と慣性に従ってヘリポートへ落下する。
≪任せたとは言ったが…≫
水没したヘリポートへ着地、飛び散る水飛沫が相棒を濡らす。
海水じゃないことを祈るぜ。
≪ここまで早いとはな≫
「どんなもんじゃい!」
俺は有言実行する男なのさ。
若干、不完全燃焼なところはあるが、それはそれ。
ヘイズと師匠、それぞれの損傷を確認する。
≪やはり、私の見込みに間違いはなかったな≫
腕組みして頷いてそうな師匠のティタンが、今のところ損傷が一番大きい。
それでも問題なく動けるところを見るに、PV機体はタフだ。
≪よし…施設内へ進入するぞ≫
そう言ってヘイズは、右腕のスナイパーライフルを投棄。
熱を帯びた砲身が水中に没し、白い蒸気を立ち上らせる。
ヘイズの視線を追った先には、ぎりぎりティタンが潜れる天井高の入口。
搬入口にしちゃ大きいな。
「無人兵器はどうする?」
まともな飛び道具がない今、研究所の中で迎え撃つか?
研究施設ごと爆撃されたら嫌だなぁ。
≪理由は不明だが、ここを連中は攻撃できないらしい≫
「言われてみれば、攻撃が止んだな」
ひっきりなしに鳴ってたロックオン警報が沈黙している。
レーダーは赤点だらけだが、攻撃の兆候はない。
≪ふむ…内部には何があったものかな≫
≪無人兵器が誤爆を恐れる代物……兵器工廠の類か?≫
「とりあえず入ってみようぜ」
入口へ相棒を進め、闇の中へ脚を踏み入れる。
罠があろうと正面から踏破するだけだ。
それよりECMの有効時間が切れる前に終わらせないとな。
≪そうだな≫
≪虎穴に入らずんば虎子を得ず、か≫
俺、ヘイズ、師匠の順でダンジョンもとい研究所内部へ突入。
内部は光源がないため、暗視モードに切り替える。
「研究施設ってことは、何かの研究をしてたんだよな」
水没している上、道幅が狭い。
まず回避機動は取れないな。
≪そう呼ばれていたから、暫定的に呼んでいるが、詳細は分からん≫
≪彼女の膝元であれば、無人兵器関連と見るべきだが…≫
隔壁が閉じたり、迎撃システムが襲ってきたり、というハプニングも起きない。
巨人が脚を進める度、水音が反響する。
「無人兵器の研究……AIとか?」
≪だとすれば、ここは始まりの場所なのかもしれんな≫
人類の殲滅を目的とする兵器が産声を上げた場所。
なら、フラグシップが防衛しているのも納得か。
≪まだ、稼働している可能性がある≫
ヘイズの言いたいことは分かる。
水没しているが、放棄された施設とは思えないほど状態が良い。
「排水した方が施設には良いと──お?」
≪警戒しろ≫
狭い通路から開けた場所へと出る。
おそらく、ドームの中央に当たる部分。
カタコンベという言葉が脳裏を過る静かな場所だった。
≪研究施設というより電算施設だな、これは≫
周囲を見渡す師匠の視線を追えば、ちかちかと点滅する無数の箱。
水気厳禁では?
アナクロなコンピュータから伸びるコードは中央へ──
「中央に何か、あるな…?」
唯一照明が注がれている場所。
水没していない円形の小島に、ぽつんと椅子が置かれていた。
≪人か?≫
カメラの倍率を変え、拡大していく。
そこに座っていたのは、一人の少女。
俺の語彙力では、美少女としか表現できない──ちょっとアルビナ先生に似てる?
髪の色は、銀と黒で正反対だけど。
「まるで眠り姫だな」
すやすや眠ってるだけで、特に危険は感じない。
また、ゲームジャンルが迷子になってるぜ。
罠か、それとも──悩んでも仕方ないな。
コードを切らないよう慎重に相棒を進め、小島へ近づく。
≪おい、不用意に──≫
「危なくなったら頼むぜ」
膝立ちの姿勢にしてから、戦闘モードを落とす。
狭いコクピットへ視界が切り替わる。
空気の抜ける音、それから頭上のハッチが開く。
「よっと」
コクピットから出て、肉眼で見渡す世界は闇。
周囲の箱が放つ光だけが星のように瞬く。
「お?」
自動で相棒の武骨な手が、コックピットまで寄せられる。
男の子なら誰もが夢見る、愛機の手に乗る!
それを堪能しながら小島へ上陸。
気分は月面着陸だ。
≪…何も起こらんな≫
特に何も起こらない。
相棒の背後に控えるヘイズと師匠に手を振ってから、椅子に座る少女へ近づく。
「この子が調査の対象なのかな?」
呼吸が確認できるから、ホログラムじゃない。
長い黒髪に白い肌、着てるのは病衣か?
それをヘルメット被った厳ついパイロットスーツ姿の俺が見下ろす。
絵面が良くない。
≪時間がない以上、少女を起こす他あるまい≫
「どうやって起こします? 目覚めのき──」
背後からパイルバンカーの弓が杭を番える音が響く。
落ち着け、ヘイズ。
ステイクールだ。
≪生体反応を感知しました。緊急起動措置を実行します≫
「うん?」
唐突に機械音声を発する椅子。
それを聞いた瞬間、ヘイズと師匠の機体が姿勢を落とす。
小島の周囲を波紋が駆け──少女の目は、開かれる。
おいおい、目覚めちゃったよ。
ゆっくりと起き上がった少女は、スカイブルーの瞳を俺に向けた。
「あなたは、誰ですか?」
じっと見つめられ、俺の脳内を数多の選択肢が駆け巡る。
高校デビュー以来の緊張感だ。
俺が取るべき選択は──
「あ、お邪魔してます…俺はVって言います」
常識的対応!
寝所に土足で踏み込んだ申し訳なさが勝っちまったぜ。
寝起きの少女の反応は──目を瞬かせ、処理の真最中。
人間離れした造形、人形みたいな子だな。
これファーストコンタクトに失敗したら、どうなるんだろ?
「V、ティタン……あ!」
思考の末、何かに思い至った様子。
きらきらと目を輝かせ、胸元で両手を合わせる少女。
かわいい。
「オープニングを倒したVですね!」
まさかの爆弾発言!
≪何…?≫
≪ほぅ…≫
「なんで知って──」
≪こちらムリヤ! 無人兵器が研究施設へ集結し始めたんよ!≫
質問を口にする前に、ムリヤさんの通信が飛び込む。
もしかしなくても起床がトリガーだよね、これ。
≪ECMは機能しているはずだが……次から次へと、よく起こるものだ≫
≪退屈しなくていいじゃないか≫
≪はぁ…そうだな≫
状況は悪いが、ヘイズも師匠も気にした様子はない。
頼もしい限りだ。
≪回収地点まで3分ほどなんよ!≫
≪分かった。急いで脱出する≫
剣道の試合時間と同じか。
短いようで長いんだよな、3分。
≪状況は聞いたな?≫
「聞こえてた。先に行ってくれ」
いますぐ脱出行に移りたいところだが、俺にはやるべきことがあった。
状況が分からず、首を傾げる少女に向き直って問いかける。
「君の名前は?」
「ゾエです!」
打てば響く回答ありがとう。
「俺たちはお暇させてもらうけど、ゾエはどうしたい?」
キーキャラクター云々を置いておいて、ここへ残していくのは気が引ける。
箱と喋る椅子以外に何もないし、ひとりぼっちだし。
ただ、本人の意志は尊重したい。
「連れて行ってくれるのですか?」
当然、頷いてみせる。
すると、ぱぁっと顔を輝かせて、椅子を立つゾエちゃん。
不純物のない、いい笑顔だ。
「行きたいです!」
「よし、分かった」
そうと決まれば、長居は無用。
差し出した手を小さな手が握る。
≪まぁ、及第点か…先に行って退路を確保する≫
理解ある友人を持って俺は嬉しいぜ。
ゆっくりと純白の巨人が後退し、水の波紋が広がる。
右胸部の装甲がスライドし、迫り出すハンドガン──リボルバーだ。
それを右手で掴み、ヘイズの機体はスラスターを噴射して入口へ向かう。
≪少年、安全運転だぞ≫
「うっす」
その後ろに追従する師匠を見送り、俺も相棒の下へ急ぐ。
ゾエちゃんの手を引いて。
「すごいです、今、ティタンの手に乗ってます!」
巨人の手に飛び乗るだけで、ゾエちゃんは歓声を上げる。
その気持ち、分かるぜ。
俺も愛機の手に乗るシチュエーション、大好きなんだ。
「ちょっと狭いけど…」
コクピットに滑り込み、シートベルトで体を固定。
それから覗き込むゾエちゃんに手招きする。
「我慢してくれ」
「問題ありませんっ」
ぽすん、と俺の膝上に着地するゾエちゃん。
見た目よりも軽い。
「おお、これがコクピット」
はしゃぐ姿を微笑ましく思いながら、戦闘モードを起動。
ハッチが閉じられ、モニターに光が灯る。
≪戦闘モード起動≫
「おお!」
ちかりと視界が瞬き、コクピットから相棒の眼に切り替わる。
ノイズの走るレーダーには、接近中の赤点。
上等だ。
「ちゃんと掴まった?」
「はい!」
俺の首に手を回し、膝の上に座るゾエちゃんはシートベルトができない。
ゆっくりと機体を立たせ、入口へ振り向く。
さぁ、脱出するぜ。




