プロローグ
「#自殺志願者集まれ」
そのハッシュタグを見つけたのは、いつも通り無為な夜だった。意味のない時間が流れ、ひたすらにスマートフォンの画面を眺めているだけの日々。自分が何をしているのか、何のために生きているのかもわからず、ただ息をしているだけ。目の前に広がるのは、無数の投稿や通知、それらが時々流れてはまた新しいものに置き換わる無機質な世界。何もかもが他人事のように感じ、無関心に過ごしていた。
だが、その日、ある投稿に目が止まった。それは、普段見逃しているような一瞬の閃光のような存在だった。ちょうど無意味なスワイプで流れていく途中、目の端に映った。「#自殺志願者集まれ」という言葉が、意味もなく心に引っかかった。
最初はただの悪ふざけだろうと感じた。SNS上には常に様々なハッシュタグが溢れていて、そのほとんどが自己顕示欲の塊のようなものであることを知っていたからだ。「誰かが自分の死を宣言することで、注目を集めようとしているのだろう」と、軽い気持ちでその投稿をスクロールしようとした。
だが、目の前に表示された数々のコメントや返信が彼を引き止めた。「自分を消したい」「こんな世界に意味はない」「お前と一緒に死にたい」—その言葉たちはまるで、彼自身が感じていた空虚感を代弁しているようで、胸に重くのしかかってきた。無意識のうちに、彼はその投稿をタップし、リンクをクリックしていた。
その先に広がっていたのは、他の自殺志願者たちの声だった。匿名で綴られた、恐ろしいまでに赤裸々な言葉の数々。死を望む理由や痛み、絶望的な思いが投稿されていた。画面に映る言葉のひとつひとつが、彼の心に深く突き刺さる。
「死にたい」と感じる人々は、ただ自分一人ではないことを知りたかったのだろうか?それとも、仲間を求めているのだろうか?彼の指は、何度も画面に触れるのをためらった。怖いとは思わなかった。ただ、今まで感じたことのない強い引力を感じた。
そのとき、突然、彼のスマートフォンの画面に通知が届いた。それは、ひとつのメッセージだった。
「選ばれた者たちだけが参加できる、死に向かう実験がある。」
その文字を目にしたとき、彼は思わず息を呑んだ。頭の中で何かが一気に変わった感覚がした。「死に向かう実験」という言葉が、あまりにも異常で、そしてあまりにも自分を引き寄せる力を持っていた。彼の心が震えたのは、その言葉が何かを真実に感じさせたからだろう。
実験?死に向かう実験とは、一体何を意味するのか?そのメッセージは、さらなる詳細は何も伝えていなかった。ただ一つだけ、「あなたも参加するか?」という問いかけが表示された。彼は数秒間、動けなかった。
指が、無意識にキーボードに向かって動いた。何かに導かれるように、彼はその問いに返事をする決意をした。「参加します」と。
画面を見つめながら、その瞬間だけは自分が何かを掴んだような気がした。自分がこの世界にいる意味が、ほんの少しだけでも見つかったような気がした。しかし、その思いはすぐに消えた。まだ何もわかっていない。
「準備が整い次第、集合場所を通知する。」
そのメッセージが送られた後、画面は切り替わり、再び何もない暗い空間が広がった。彼はそのまま何も考えずにスマートフォンを置き、ベッドに横たわった。目を閉じると、やはりどこかで期待と不安が入り混じっていた。これが現実なのか、それとも夢なのか。
その夜、彼はほとんど眠れなかった。目を閉じても、画面に映し出されたメッセージが頭の中に浮かび上がるだけだった。それから数日が過ぎ、彼は何もすることなく、無意味に過ごしていた。
そして、ついに通知が届いた。次のメッセージには、詳細な集合場所が記されていた。それは、山奥にある誰も住んでいない廃村だった。
何のためらいもなく、彼はその場所へ向かう決心をした。そこで何が待っているのか、まったく分からない。しかし、その場所には、彼と同じように何かを求めて集まった者たちがいるのだろう。彼はその予感を感じながら、準備を整え、外に出た。
そこには、もう戻れないことを感じる、確かな予感があった。
そして、彼が到着したのは、文字通り時間に取り残されたような廃村だった。周囲には、ただ風が吹き抜けるだけで、音のない世界が広がっている。彼は無意識にその場所を歩きながら、心の中で繰り返していた。「もう後戻りはできない」と。
やがて、彼と同じように集められてきた者たちが次々と姿を現す。年齢も性別も、背景も様々な人々が揃っていた。だが、誰もがその目に悲しみと絶望を宿しているように見えた。
その時、一人の女性が主人公に近づいてきた。彼女の目には、深い影が漂い、ほんのり微笑んでいた。
「君も来たのか?」
彼女の声は、どこか柔らかく、そして優しさが感じられた。彼はその微笑みを受け止めながら、やっとのことで答えた。
「ええ、そうだよ。」
その言葉を交わした瞬間、彼の中に何かが芽生えるのを感じた。それは、まるで死に向かう道を共に歩む者として、心の中に芽生えた、言葉にできない共感のようなものだった。
その後、しばらくして、スクリーンが村の広場に現れ、緑色の文字で一言だけ表示された。
「ようこそ。選ばれた者たちへ。」
そのメッセージが表示された瞬間、ゲームが始まるのを彼は直感的に理解した。