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短編その6『輪廻の“Stonewall” 』

高島智明です。

長らく、この短編集を放置したまま完結処置すら行わなかった事を

先ずは御詫びいたします。


残念ながら今回のサイト閉鎖に伴い、思い付いてはボツを繰り返していた

2次創作のアイデアらしきものを、とりあえずは放棄いたしました。

その上で勝手きわまる事は承知ながらも、少なくとも自分本人は1次創作の積もりでした

つたない短編集だけでも大切にしようと思い返す最近です。

そんな身勝手な思案から、とりあえずはPC記憶メディアより発掘して来たのが

今回の“この”短編です。

もしかしたら今回の短編の設定は以前に投稿させて頂いたものと

支離滅裂と受け取られるかも知れません。

その支離滅裂の責任は完全に、この短編集を長らく放置しながら其の間にも

何の脈列すら無い別の空想ないしは妄想を持て遊んだ作者当人に帰着します。

西暦1863年5月10日

アメリカ合衆国は内戦によって分断されていた。

そんな内戦の決戦として後年には伝説化される「ゲティスバーグ会戦」まで後2ヶ月。


内戦の当事者の片側には其の粘り強い戦いから

Stonewall(石の壁)とまで讃(たた)えられた名将が居た。

2ヶ月後、決戦に勝利出来なかった総司令官は「“彼”が居たならば」とまで嘆いた、

とも伝説は伝える。

その“Stonewall”ジャクソンが苦悶(くもん)していた。


直近の戦闘では指揮下の軍を勝利させながら、彼自身は重傷を負い

そして、その負傷から病床に倒れていた。

ドクトル=コッホが近代細菌学と言う学問自体を発明する以前の時代である。

当然、戦場での傷から感染した場合の救命マニュアルなどはアメリカ軍ですら無かった。

しかし、この雄将の苦悶は病状だけが原因でも無かったかも知れない。

結果ながら決戦まで後2ヶ月。

後年の事には成るが、総司令官は彼の不在を嘆いた、との伝説すら残った。

当然に彼は戦いたかった。せめて後ひと度だけでも。


だが、“Stonewall”と呼ばれた雄将は再び立ち上がること無く、意識を消失した………。


……。


…それから1年後の1864年6月21日 フランスはボルドーの造船所。


1隻の軍艦が進水した。

この時、命名された艦名は発注時の予定名から変更されていた。

あの名将をたたえるためにである。

進水に伴って名付けられた名は「Stonewall」だった。


……“彼女”は意識を取り戻した。


当初は戸惑(とまど)った。無理も無い。

彼(?)は“Stonewall”と呼ばれた軍人の筈だった。そして、あの内戦で倒れた筈だった。

だが何故、見覚えの無い造船所で進水したばかりの軍艦の上に居るのだ?

それに“今”の自分の“この”姿は?

彼女(?)の身体の周りには今なお光の粒子が集まり続け

そして美少女(!)としか想えない姿を形づくって行った。

艦魂。それは「ふね」を愛するものたちの語り継ぐ伝説。

彼らは、彼らの愛する「ふね」に、命と心が宿ると信じた。

ゆえに、“それ”ではなく、“彼女”と呼んだ。

ゆえに、彼らは信じる。目に見えないだけ、耳に聞こえないだけ。

1パイの「ふね」には、必ず、1人の「彼女」が居る。

若く美しい乙女の姿をした、心優しき精霊。


もしも、「ふね」を愛するものたちの想いが生み出したのなら、

もしも「名」という「言霊(ことだま)」を受け継ぐときには、その命と心は受け継がれるのだろうか。

だとしたら、あの「ふね」は…


欧米では、むしろ故人とかを讃える意味で、人名を使用して命名する場合が少なく無い。

その場合、その名前を呼ぶ方は、どんな言霊を込めているのだろうか。

身体に集まってくる光の粒子と共に“彼女”は自分が、どの様な存在なのかを知った。

艦魂。

かつて自分と同じ国家の軍人として戦ったその同じ国家の海軍が自分を讃えて

この艦を名付けた。

その結果、自分は今ここに存在している。この艦の命と心として。


「合“州”国」すなわち後には50にも成る小国家の連邦の中でも、

この時代のアメリカ南部はキリスト教国、それも清教徒としての純度が高い。

当然ながら“彼”も東洋の仏教徒などが唱える「輪廻転生」などと言った概念は

日曜日にも聞いた事は無かっただろう。

だが優秀な軍人とは現実家であり、目的のために手段を選ぶ。

そう「Stonewall」には目的が存在していた。

また、なつかしい戦友たちと同じ国家の軍に所属して戦う事が出来る。


だが発注した国家、すなわちアメリカ内戦の片方の当事者は

敗戦に伴って消失して仕舞った………。


……。


…慶応4年4月23日(和暦)横浜


旧名「Stonewall」この東洋の国の住民は何時しか「甲鉄」と呼ぶ様に成っていた

その軍艦が入校していた。

当初、所属する筈だった海軍が内戦の敗北によって消失して以来の紆余曲折の末、

日本国の幕府が買い受ける契約が成立していた。

しかし「甲鉄」が到着した時、幕府は崩壊していた。

新政府軍への江戸城引き渡しが日本のカレンダーでは、同月11日である。


どうして自分は、こんな運命ばかりに直面するのか?


「甲鉄」の心が其の名の由来と成った雄将と同じだったら、そう想ったかも知れない。


……同年8月。新政府軍は「旧」幕府軍との内戦に順次、勝利していった。


「甲鉄」が横浜に入港した時点で進行中だった内戦は、

会津藩若松城の攻囲戦で決着するかに見えていた。

しかし尚も自らの信念を信じるまま新政府に抵抗し続けようとする

そんな「サムライ」たちは未だ残っていた。

彼らには未だ、行くべき場所も戦うべき手段も残っていたのだった。

なぜなら日本列島は島国である。

地続きの本州ならば兎も角(ともかく)例えば津軽海峡をへだてた蝦夷地(北海道)ならば

海軍力次第で海峡を封鎖して、新政府の実効支配が届かない

彼らの「共和国」を建立する事も不可能では無かったのだ。


その事に気が付いたのは、この時に成っても江戸湾に残ったまま

新政府への引き渡しを拒否していた、旗艦「開陽」以下の「旧」幕府艦隊だった。

当時、アジア最強の軍艦と言われていた「開陽」ならば可能だった。

津軽海峡を封鎖し蝦夷地に彼らの共和国を建立出来る。

この事に気付いた「開陽」以下の艦隊は、ついに江戸湾を脱出して北へと向かい始めた。


見送る「甲鉄」には自らの御先祖を連想すら出来ただろう。

かつてヨーロッパを脱出して「新大陸」に自らが創り出す国家を求めた彼らの事を。

しかし、彼女自身は同行する以前に身の置き処すら定まっては居なかった。

今回の「内戦」に対して、回航当時の彼女の所有権者が中立を宣言したためである。

新政府側にも「旧」幕府側に対しても彼女の引き渡しを先送りしていた。


“この”中立宣言に対して新政府側は、自らの陣営への「甲鉄」の引き渡しが

あくまでも正当であると主張して、交渉を繰り返した。

もはや残る「内戦」の敵は「北海道共和国」ただ1つ。

そして“その”共和国は、極言すれば「開陽」ただ1隻が頼みだった。

「開陽」に立ち向かって勝てる軍艦が1隻あれば、新政府は天下を取れる。

それ理解していただけに、新政府側は交渉をあきらめなかった………。


……。


…新たに「甲鉄」が所属する海軍は、ついに決定した。


彼女は1人、決意していたかも知れない。


「開陽」提督…私は、貴女自信には何の遺恨も無い。だが…

内戦で戦ったアメリカ人同士にも無かったのだ。

そして戦う限り全力を尽くすのが、武人としての礼儀であり名誉だった…


……だが彼女が…「甲鉄」が「開陽」と決戦する事は無かった。


新政府軍の北海道侵攻を待たずして「北海道共和国」の希望だった筈の「開陽」は

海難によって失われていた………。


……。


…兵器という物は、何時かは新兵器によって乗り越えられる。


まして当時は商船であろうが軍艦であろうが、

木造帆船ないしは蒸気機関に補助された帆船から鋼鉄構造のエンジン船への

進化が続いている時代だった。

アメリカと日本、2つの国家の内戦が相次いだ時代の最新軍艦だった「Stonewall」こと「甲鉄」も

相次ぐ新時代の戦闘艦の陰で何時しか歴史の中に埋もれて行った。


……“Stonewall”と呼ばれた雄将の所属した軍は、敗戦によって消滅していた。


だが内戦の勝者側が残った後世でも、同じ国家に所属した名将として其の名は伝説に残った。

時代は下って20世紀後半。アメリカ海軍は当時の最新鋭艦に「Stonewall Jackson」

と命名して進水させた。

前書でも釈明させて頂いた通り、そんな何処までも勝手きわまる短編ですが、

それでも温かく見守ってくださるか、あるいは笑って御見逃しくださる寛容なる皆様方の

温かい御意見・御感想をお待ちしております。

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