短編その1『進水式』
皆様方の艦魂小説を読んでいる間に、想ったままの事を書いてしまいました。
気軽に読み飛ばしていただければ、幸いです。
艦魂。それは「ふね」を愛するものたちの語り継ぐ伝説。
彼らは、彼らの愛する「ふね」に、命と心が宿ると信じた。
ゆえに、“それ”ではなく、“彼女”と呼んだ。
ゆえに、彼らは信じる。目に見えないだけ、耳に聞こえないだけ。
1パイの「ふね」には、必ず、1人の「彼女」が居る。
若く美しい乙女の姿をした、心優しき精霊。
依代となる「ふね」が水上に誕生するとともに宿り、
その依代が「ふね」としての生涯を終えるとその存在が消えるという、
その彼女たちを何が生み出してきたか。
もしも、それは「ふね」を愛するものたちの想いが生み出したのなら、
もしも「名」という「言霊」を受け継ぐときには、その命と心は受け継がれるのだろうか。
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命名書が読み上げられ、今日の「この」式典のために注文された、
儀礼用の銀の小斧が振り上げられて、檀上の紅白の飾り綱に振り下ろされた。
式台の目前の舳先に飾られていた薬玉が割れて開き、
紙吹雪が舞い散って鳩が飛翔する。
そして、命名された艦名を記した垂れ幕がぶら下がった。
「進水作業始め!」
軍楽隊によって高鳴る「軍艦マーチ」に負けまいとするかの様に号令が伝えられて、
やがて静々と船体が動き始めた。ドックの向こうの海へと………。
……。
…誰が見えていただろうか。
いつしか、甲板上に人影が集まっていた。
何故か帝国海軍の軍服姿の、若く美しい容姿の乙女たち。
それは「彼女」の戦友となる「フネ」を依代とする心と命が集まった姿だった。
そして、祝福する「彼女たち」の中央に光の粒子が集まって、
そして新たに生み出された乙女の姿を取った。
その間も「彼女」の依代と成った「フネ」は、海へと進み出ようとしていた。
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瀬戸内海西部、柱島停泊地。
内海の内側で更に幾つかの島々に囲まれた静かな水面。
「戦前」から太平洋戦争中期までの「当時」連合艦隊の集結地と成っていた。
「外海」に比較すれば波の穏やかな瀬戸内海は、出来立ての新造艦の試運転には都合が好い。
同時に「国内」である事は、秘密保持の上からも。
そのため、間近の呉海軍工廠以外の造船所で建造された艦艇でも、
試運転の時には柱島泊地へと回航されて来る事が、少なく無かった………。
……。
…同時に、それは出会いの時と場所でもあった。
多くの場合、艦船は同型の姉妹艦が建造される。
例えば、戦前の帝国海軍であれば、戦艦や巡洋艦は同級4艦で戦隊を組むのが原則だった。
一方で「インフラ」等の問題、例えば、戦艦や空母程の大型艦ともなれば、
同時に建造できるドックが1ヶ所の造船所で1つしか空いていない
という事が珍しくも無かっため、建造場所が国内各地に散らばってしまったりした。
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その時もまた、1隻の新造艦が進水後の艤装工事も終了して、
試運転のために柱島泊地へと回航されて来た。
その艦上に立つ1人の乙女。この艦の心と命である艦魂。
彼女を出迎えるのは、これから戦友とも成り、先輩にも当る現役の停泊艦たち。
そして「彼女」の「姉」たち。
彼女は、同型の姉妹艦4艦中の4番艦だった。
やがて、艦上に光の粒子と共に、出迎る艦魂たちが出現して彼女を祝福した。
その中央で「彼女」を歓迎する、何処かに面影のある「3人」の乙女。
今、姉妹の出会いの時が来ていた。
繰り返しになりますが、皆様方の艦魂小説を読んでいる間に、想ったままの事を書いてしまいました。
そんなオムニバスな短編を、ポツリポツリと投稿して行きたいとは思っていますので、
あまりヘコま無い様な温かい御意見、御感想を頂ければ幸いです。