登校時に買い求めた台湾式おにぎりの飯糰
1枚目の挿絵の画像は、みこと様より頂きました。
2枚目以降の挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。
身支度を済ますと、私こと王珠竜は急いで家を飛び出したの。
「じゃ、お先に!」
駆け足だから先に出ていたお姉ちゃんを追い越しちゃったよ。
「珠竜ったら…そう急がなくても良いのに。」
お姉ちゃんはそう言うけど、私にも事情があるの。
今日は同級生の菊池須磨子ちゃんと一緒に、朝御飯を取りながら通学する予定だからね。
通学路途中の繁華街へ到着した私は、友達とも無事に合流出来たの。
「ここだよ、菊池さん!」
「早かったね、珠竜ちゃん!」
菊池さんも元気そうで何よりだね。
後は早餐店へ行くだけだよ。
中学にも早餐店はあるけど、この台南市屈指の繁華街である中西区の方が選択肢は多いからね。
私達が頼んだ飯糰も、店毎に千差万別だよ。
「うん、肉鬆の甘味がよく効いてる!」
「ここの飯糰は肉鬆大盛だからね、菊池さん!」
だけど複数の具を餅米で豪快に握った飯糰の美味しさに関しては、何処の店も譲らないんだよね。
そうして空腹を満たして登校した私は、同級生に思わぬ事を指摘されちゃったの。
「珠竜ちゃんのお姉さんの進学先って、日本の堺県立大学だよね?台湾と日本は食文化が違うけど大丈夫かな?」
「あっ…」
曹林杏さんの指摘は、私も薄々気にはなっていたの。
お姉ちゃんの進路が決まったのは嬉しいけど、食文化の差は大きいもん。
「そうだね、林杏さん。さっき私と珠竜ちゃんが食べた飯糰も、日本にはあまりないと思うよ。」
お父さんから日本人の血を継いだ菊池さんが言うと、一層重みがあるね。
日本にも「おにぎり」という飯糰に近い食べ物はあるけど、サイズは小振りで餅米じゃないから似て非なる物なんだよなぁ…
帰ったらお姉ちゃんに聞いてみよっと。
だけど私の質問は、お姉ちゃんに一笑されてしまったの。
「やだなぁ、珠竜ったら。そんなの百も承知だよ。」
「お、お姉ちゃん?」
拍子抜けする私とは対照的に、お姉ちゃんは至って落ち着いていたの。
「食文化を始めとする日本の日常を実体験するのも勉強だよ。仮に台湾が恋しくなっても、飯糰や茶葉蛋位なら自分で作れるし。」
随分腹が据わってるね。
此位の心構えがないと留学なんて出来ないのかもなぁ。
そう感心していたんだけど…
「珠竜も心配性だね。そう言うのを日本では『老婆心』って言うんだよ。」
こう言われちゃうんだもの。
「酷いなぁ、妹を捕まえて『老婆心』だなんて…」
留学生活の食生活を心配したら、逆に日本語でやり込められちゃうなんて。
お姉ちゃんには敵わないよ。