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元警部の事件一覧

双子 問題編

作者: 尚文産商堂

私の手違いで、短編として投稿してしまいました。

解答編は後日掲載する予定です。

お詫びいたします。

もう、10年以上昔のことになる。

私が警部に昇格したころ、一つの事件を追っていた。

ある双子の兄妹の、兄が誘拐されたというものだ。

3日後に犯人は捕まり、無事に終わったと思っていた。

だが、それからしばらくして、兄は再び行方知れずとなった。

遺書が見つかったため家出とされ、捜査は行われることはなかった。


その人たちから手紙が来たとき、私は久しぶりにその名前を聞いた。

娘が結婚するから、結婚式に来てほしいというものだった。

私は妻にそのことを伝えた。

「でも、その日は、高校の同窓会があって……」

妻は残念そうに、カレンダーを見ていた。

「じゃあ、私ひとりで行ってくるよ」

「よろしく伝えておいてね」

妻が最後にそう言ってから、お風呂へ向かった。


手紙の日付まで1週間あった。

その間に、服を整え、荷物を整理し、なにをもっていこうかを考えていた。

場所的には日帰りも可能だが、念のために1泊することを決めた。

近くのホテルを予約し、準備は整った。


出発の日、妻を駅へ送っていくその足で、新幹線を使い、結婚式の会場へ向かった。

ここからは約4時間の旅の予定になる。

順調にいけばの話になるので、どうなるかはわからない。


新幹線の中は、比較的すいている。

夏休みは始まっているが、お盆休みまではまだ時間があったために、すいているのだろう。

「あの、ここ、空いてますか」

女性の声が聞こえる。

私がその方向を向くと、見覚えがある顔だった。

「あ、あの時の警部さんですよね」

「桂川伊予さんですね」

私が確認すると、一回だけ確かにうなづいた。

窓際のほうへ寄り、彼女が座れるように席を空ける。

「お久しぶりです。お元気でしたか」

「ええ、おかげさまで」

双子の母親の伊予は、あの時、40前だったはずだ。

だから、今は50前ぐらいになるはず。

しかし30前後のように見える。

「このたびは、娘さんがご結婚なされると聞いてやってきました」

「ええ、無事に娘も独り立ちですよ」

だが、その顔にはいまだに陰りが見える。

「ところで、双子のお兄さん、確か名前を広樹と言いましたね」

「ええ、まだ見つかっていません。そんなことよりも、これいかがですか。先ほどの駅で買った駅弁ですよ」

私の分を買ったわけではないだろうが、ビニル袋には同じ弁当が2つはいっていた。

「ありがたく、いただかせてもらいます」

新幹線は、そんな私たちを式場へと連れて行った。


「ありがとうございます。私は娘のところへ行かないといけないので……」

伊予はタクシー代を割り勘で払ってから、すぐに式場の建物の中へ消えていった。

「さて、わたしもそろそろ……」

伊予が建物に完全に入ったのを見届けてから、私も式場へと入った。


受付で鮑結びの金封熨斗付きで包んだ3万円を女性の受付の人に渡す。

「おめでとうございます」

「ありがとうございます」

にっこりとほほえんで、金封を受け取る。

そして、席次表を私に渡してくる。

それを見て座るようにとのことだったので、少しトイレに行ってから席に向かうことにした。

トイレでは、個室の一つに誰かが入っていた。

誰かと電話でもしているようで、ときどき声が聞こえてくる。

内容までは、聞き取ることはできなかったが。


トイレをすますと、残り30分ほど残っていた。

私は、席次表に書かれていた場所へ座ると、持ってきていた文庫本をポケットから取り出して、読んでいた。

半月ほど前から読みだしたのだが、読むのが遅いためにまだ半分にも達していなかった。

「あの……」

振り向くと、私と同じぐらいの背丈をしている人が立っていた。

「ああ、桂川さん」

伊予の夫である、桂川神戸(かつらがわかんべ)が私を見つけて微笑みかけていた。

本についている紐のしおりをページに挟み、本をテーブルの上に置いた。

私は神戸さんに向かい合うように椅子から立ち上がった。

「10年ぶりですね。あのときはお世話になりました」

「いえ、警察として当然のことをしたまでです」

私はそう言って、ゆっくりとお辞儀をした。

「本日はご夫妻で来られると思っておりましたが……」

「妻がすこし具合が悪くて、家にいると言ったので。すみません」

「いえ、しかたないですね。お大事になさってください」

「妻に伝えておきます」

にこやかに神戸さんに伝える。

向こうの方から、わずかながら争う声が聞こえたのは、そんな時だった。

とっさにそっちの方に神経を集中させる。

「どうされましたか?」

その争い声はすぐに消え、気のせいだろうと片付けた。

「いえ、なんでもありません」

しかし、昔のくせで、腕時計をちらっと見た。


神戸さんとの話が終わると、私は再び本を読み進めることにした。

しかし、3ページ読み進めた時、披露宴が始まったため、再びしおりをはさみ、本はポケットの中に入れた。

「それでは、ただいまより桂川家、福山家の結婚披露宴を始めたいと思います」

同時に音楽が鳴り始め、ピンスポットで扉が照らされる。

「新郎新婦の入場です。みなさま、大きな拍手でお迎えください」

普通の結婚披露宴のはずだった。

アレが見つかるまでは。


お色直しの際、新郎新婦とともに、それぞれの両親も部屋へ戻り、そのままなぜか戻ってこなかった。

誰もそのことに対して気にしなかった。

なにか用があって、中途退席したのだろうということだろうと思っていた。


悲鳴が遠くから聞こえてきたとき、ちょうどケーキカットをしていた。

一気にざわめきが津波のように部屋の中を駆け巡る。

「どうしたんでしょう」

近くにいた人にそっと聞いてみる。

「さあ、何かが起きたのでしょうが……」

ガヤガヤと賑やかしくなっていく場内だったが、扉が勢いよく開かれると水を打ったかのように静まり返った。

背広を着た人がそこには立っており、腕には"警備"と腕章をつけていた。

ツカツカと司会がいる脇へと近づき、彼に耳打ちする。

顔がみるみる間に堅く重苦しい表情へと変わっていくのが、遠く私の席からでも見てとれた。

「えーこのまま続けさせていただきたいところですが、建物の中で、殺人が起こったとの情報が入ってまいりました。皆様、落ち着いて行動してください。この部屋から出ないようにお願いします。もし、この中にお医者様か警察関係に勤めていらっしゃる方がおりましたら、警備の方へ申し出てください。お手伝いして頂きたいことがございます」

すぐに私は立ち上がり、かばんや荷物を持って警備の人へ話しかけた。

「元警部ですが、お役に立てますか」

「ええ、十二分です。どうかこちらへ」

警備の人に言われるままに、私は外へと出た。


親族控室の一つに人だかりができて、私と警備の人、それにもう一人が一緒にその部屋へ入った。

フローリングの床のちょうど真ん中に、テーブルをひっくり返した傍らに人が倒れている。

床にはガラス片が散乱しているが、彼に近づくことができる程度にまとまった範囲になっていた。

鏡台が壁際に一つ置いてあり、その上にはブランデーの小瓶が2本置いてある。

1本はすでに空だ。

「刺殺ですね」

背中を天井に向け一人の男性が倒れている。

「私は検視医ではないのでここで断定することはできませんが、他に傷がないということからみて、このナイフによる一突きで死亡したと考えるのが妥当でしょう」

普通の文化包丁が背広を着ている彼の背中、ちょうど心臓に突立つするような感じで突き刺さっている。

背中から垂れてくる血で腹部は染まり、床の一部にも血だまりができていた。

「全館を封鎖してください。体が温かいことからみて、犯人はもしかしたらこの建物の中にいる恐れがあります」

医者といった人は、すぐに首筋に手を当て脈を診た。

「脈なし」

それは、死亡宣告と同意だった。

警備はすぐにフロントへ連絡を入れ、警察関係者を除いて出入りさせないようにした。

「私ができるのはそれだけですね。犯人はおそらく、力が強い人で決断力がある。それに彼と面識があるでしょう」

「そこまでわかるのですか」

「ええ、まず、包丁で一突きというところから、躊躇なく刺したということがわかります。とってまでめり込まんとする勢いであるから、力が強くないとここまで刺さらないでしょう。彼と面識があると判断したのは、床に散らばっているガラスです。おそらく、彼は犯人と何らかのものを飲もうとしていたのでしょう。こんな晴れの日にそのようなことができる相手といえば、親戚か友人など、彼と親しい間柄であった人たちだけでしょうから」

「なるほど……」

警備は私の言葉で納得したようだ。

「さて…ここからは検視官が来るのを待つしかないですね」

私自身はすでに正規の警官ではないため、捜査に加わることはできない。

例外もあるが、そういうことになっている。

医者が遺体の傍らから立ち上がり、警備に言った。

「このままこの状態を保存してください。私たちもこれで部屋から出ましょう」

促されつつ、私は大体の状況を記憶していた。


私たちが部屋の外へ出ると時を同じくして、本職の警察が到着した。

私を見るなり、先頭に立っていたスーツ姿の男性が言った。

「あなた、見覚えが……」

「10年前、この地域で発生した誘拐事件に関して捜査をしたことがあります」

「では、元警官…」

「元警部でした。今日ここに来たのは、ある人から結婚式をするという旨の手紙が届いたためで……」

「詳しい話は、後で聞かせてもらいます」

サクッと話を切られ、一瞬で臨戦態勢を整えた。

「それで、第1発見者は」

「自分です」

警備が私たちの一番前に歩み出す。

「どうゆう経緯で?」

「この部屋の中に倒れていられるのは、本日、御結婚の披露宴をされていた新婦の父親に当たる人です。1回目のお色直しが終わると、御両親は新郎新婦に渡す予定になっていたサプライズプレゼントの用意に会場から出て行くことになっていました。その時、何か重要なものを忘れたといって、部屋へお戻りになられました。それが自分が彼を見た最後です。それから30分経過し、あまりにも遅いので心配し部屋をのぞいてみたら……」

「ああなっていた、と」

「その通りです」

毅然とした態度で、警官に話す。

「分かりました。それで、一時式を中止するということにしたのは?」

「今回の場合、他に披露宴や結婚式がなかったこと、行っていた方のご親族だったことなどを考慮した結果です」

「ふむふむ」

私も昔持っていた警察手帳にメモを取っていく。

「部屋に入ったのは」

「第1発見者である自分と、式に来ていた医師、それに先ほどの元警部の3名だけです。他は入っていません」

メモを取る手がピタリと止まり、右眉を見せつけるように引き上げる。

「そう言い切れる根拠は」

「当社のスタッフが、自分が連絡すると同時にこの場へ来て、誰も入らさないようにしたからです。もちろん、部屋から出た者もおりません」

「分かりました。後ほど詳しくお聞かせ願えますか」

「いつでも」

警備は一言だけ言うと警官達のために道を開けた。

「で、ここが現場ですか」

「見ての通り、3人以外は入っていません」

「遺体に触った方は」

「脈を診るために」

医者が物おじせずに堂々といった。

「そうですか。では、死亡したと断定したのは脈を診た結果ということで」

「頸動脈を診ました。間違いなく死亡していたと断定できます」

医者は自らの首筋に人差し指と中指を当て、頸動脈の場所を示した。

だが、警官はスンと鼻を鳴らして無視を決め込んだ。

「さて、問題はいつ死んだかだが…」

検死官と思われる人が銀色の様々な器具を入れた箱と供に現れた。

「さて、遺体はどこかな」

さりげなく楽しそうな感じでやってきた。

「この部屋の中です。死亡確認は今から31分20秒前」

「あいあい」

血溜りを避けて箱を置くと、中からいろいろな器具をとりだした。

「そいれはサクッと始めるよ」

メスではなく、針を取り出していた。

「肝臓温度は38度。死後1時間経ってないだろうね」

「死因は…」

「この現場を見る限り、ナイフでサクッとやっちまったんだろうな。他に外傷も見あたらないし、血痕が部屋の外へ通っていないことを考えると、ここで殺された。まあそのぐらいかな」

検死官は部屋の外へと箱と共に出てきて、私たちを見つけた。

「第1発見者達だね」

「いえ、第1発見者は警備のみで、残りは死んでいるかどうかを調べるだけの要員です」

「そうかそうか」

なにか納得しながらも、私が聴いたこともないような曲を口ずさみながら、同じ道を通って帰って行った。

「残りは署でする。運んでくれ」

検死官が去ったあとの死体はすぐさまストレッチャーに載せられて、検死解剖室へと運ばれる。

そこで精確な死因を突き止めるのだ。

このことは今も昔も変わっていないらしく、私自身ホッとした。

「さて、鑑識を入れてやってくれ」

私たちと最初に対峙した警官はどうやらこのチームのリーダーらしい。

次々と指示を飛ばしていく中で、部屋の中は検死官の代わりに鑑識チームが入った。

私が部屋の外からその光景を除いていると、リーダーが私に話しかけてきた。

「どう思います」

「部外者である私に聞いてもかまわないのですか。今の時点では被疑者でもあるはずでしょう」

「…そうでしたね」

私に指摘されるまで気づかなかったようなそぶりで、リーダーは私の傍から離れた。


「とりあえず、監視カメラの映像、部屋の保存、遺体の確認、それからこの建物の中にいる人たちの証言を」

会議室に集められた警察のチームにいろいろと指示を飛ばしている。

私は真っ先に彼らにいろいろと聞かれ、事情聴取が終わるころには私はこの件には全く関与していないということが証明されたということで、そのままこちらにおかれることになったのだ。

「では、解散」

パイプいすのきしむ音が、会議室中に響く。

数分もすれば、事務要員とリーダーと私だけが、この部屋に残っていた。

「川島さん、今回の事件をどうみますか」

「どうでしょうね。単純な殺人のような気がしますが……証拠がでそろってきてから詳しいことはわかるでしょう」

私はそう言って、言葉を濁した。

何も分かっていない状態で、そもそも考えることはあまりしたくはなかったということもある。

その時、監視カメラの映像を見ていた捜査員から連絡が入った。

見せたいものがあるという。

私とともにリーダーもそこへ向かった。


監視カメラの映像が全部集まってくる中央監視室では、3名の捜査員がそれぞれ別々の画像を連続してみていた。

その中の一人が、リーダーの顔をみつけて手招きした。

「一つ聞きたいんですが、同じ人が別の場所に同じ時間にいることって可能でしょうか」

「小説じゃあるまいし、そんなことは無理だろう」

あきれてものも言えないといった感じの表情をリーダーが浮かべている。

「ですよね、でも、この画像を見てください」

真面目な顔つきにすぐに戻ると、捜査員が指さした先を見た。

「これは……」

白いウエディングドレスを身にまとった、花嫁がそこにはいた。

「ちょっと待てよ、じゃあ花嫁は二人いたということか?」

「それだけじゃないんです」

静止画像を巻き戻し、部屋がある廊下の監視カメラ映像を映した。

上側へ逃げて行くところから背中向きに部屋へと吸い込まれる。

同じ方向へと後ろ向きで歩いていった時、再び捜査員は静止画へ戻した。

「顔がはっきりと映っているんで、高解像度にしたんです。そしたらもう一つ驚きが」

「あの子だ」

今日の花嫁が、そこにいた。


再び捜査本部を置いている会議室へ戻った私たちは、今の状況を軽く確認した。

「今のところ分かってるのは、犯人らしき人物は、花嫁ということぐらいでしょうか」

リーダーに、私がメモをした手帳を確認しながら言った。

「新しくわかっているのは、ナイフの柄には犯人らしき人物の血痕が付いており現在調査中ということ。指紋は検出されたが裁判で使えるようなものではなかったこと。第1容疑者である花嫁自身は犯行時刻には結婚式に出ていたため犯行は不可能であること。ほかの親族の方々や式場の関係者などは全員、監視カメラや同僚達からアリバイがとれていること。花嫁の双子の兄がいるということは分かっているが、すでに死んでいるだろうということだな」

「家庭裁判所からの失踪宣告ですか?」

「それだよ。警察としては"死んでいる可能性がある"として処理されているが、どうも嘘みたいだな……」

リーダーと私は意見の一致をみた。

だが、その直後寄せられた情報に、私たちは再び困惑することになった。

その情報とは、ナイフの柄から出てきた血液のDNA情報だった。

それが、花嫁とピタリと一致したというのであった。

「おい、これは本当なのか?」

「ええ、向こうもダブルチェックをしたといってます。花嫁のDNA情報は、今回任意提出してもらった口内粘膜です」

「ということは、あれは本当に花嫁…」

「別のところに同一人物がいたっていうのか?」

謎は再び闇の中へ入っていった。

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