68・これからも、自分のために頑張ります!
アリア修道院の鐘楼に下がる鐘が、人生の門出に立つ子達を祝福するように、7度、鳴った。
増改築され、以前より大きくなったアリア修道院には、たくさんの人が集まり可愛らしい子供たちが手に持った籠から花びらを、撒いている。 そこに、騎士団の方からも祝福の声と共にたくさんの花びらが投げ込まれ、まるで春の嵐のようになっていた。
そんな和やかで賑やかな教会のエントランスに、先ほど結婚式を終えたばかりの若い男女が現れると、より一層歓声があがった。
街の中とは違った意味の騒がしい、穏やかな春の日。
私が慈しんだかわいい子達が、旅立っていくのを本当に、嬉しく思う。
ところどころに用意されていたガーデンベンチに座った私は、少し遠くからその様子を見ていた。
花吹雪を浴び、真っ白なヴェールを被った黒髪の花嫁は、金褐色の髪の青年の隣で、今まで見た中で一番いい笑顔を浮かべて歩いている。
(あの子の花嫁姿が見られて、私は幸せね。)
心からそう思い、拍手をしながら2人が教会の門のところにある、可愛らしい新しい夫婦のための馬車の前に向かうのを見ていた時だった。
ぱちっ。
花嫁と目が合った。
すると、それまで以上に破顔した花嫁は、それまでのおしとやかな雰囲気から一変、ブーケを花婿に預け、ドレスのスカート部分をしっかりと抱えると、花婿が制する声を振り切ってこちらに向かって走って来た。
「おばさまぁっ!」
(あぁ、なんて愛おしい。)
春の日差しに光り、目に眩しいくらいの真っ白のウエディングドレスのスカートを抱えた花嫁は、花にも負けない綺麗な笑顔で私の方へ走ってくる。
椅子から立った私に、その子は招待客の注目を浴びながら足を速める。
「ミーシャおば様!」
とん、と、地面を蹴った。
長手袋をつけた細い両手が伸び、キラキラと輝く紺碧の瞳を輝かせた花嫁は、私の胸に飛び込んできた。
「あらあら! まぁまぁ。」
驚きながらも彼女を抱き留めると、思ったより花嫁衣装のお陰で超重量級だったのと、その勢いに、流石に後ろにこけそうになったのだが、背中に触れている温かく大きな手が、花嫁諸共支えてくれた。
「お忙しいのに来てくださってありがとうございます!」
花嫁はぎゅうぎゅうと手に力を入れ、私に抱き着く。
ベールやドレスが皺にならないかしらと気にしながらも、されるがままにしている私と花嫁の傍に、背の高い花婿が、ペリドットグリーンの瞳を苦笑いで細めながらやってきた。
「こら、主役が飛び出したら他のお客様が困るだろう?」
「まぁほんと、皆、こちらを見ているわ。」
くすくすと笑い、青年の方を見る。
「結婚おめでとう。」
「ありがとうございます、ミーシャおばさま。 来てくださってありがとうございます。」
「ほらね! 来てくださったでしょう! 私の言った通りね!」
「それはそうだけど、嬉しいからって、ウエディングドレスで全力疾走するのは、淑女的にどうなんだい?」
私の肩に埋めていた顔を上げて花婿の方を向き、にっこりと笑った花嫁の額をこつんと指先でこついた花婿。
そんな2人の姿が、小さかった頃の2人の姿と重なる。
あぁ、なんて私は幸せだろうと胸が温かくなり、痴話げんかを始めた2人を両の手で抱き寄せた。
「えぇ、えぇ。 あなた達のためなら、私はいつでもどこでも、何処からだって駆けつけるわ。 だから2人とも、こんな嬉しい日に喧嘩をしないで頂戴。 本当に、結婚おめでとう。 どうか幸せになって頂戴ね。」
手を離し、2人の顔を交互に見て笑う。
「ダリル。 エリ。 2人とも、心から愛しているわ。」
「僕もです、おばさま!」
「私も! 私もおばさまの事、大好き!」
「えぇ、知っているわ。 幸せになってね。」
私の言葉に、お互い見つめ合い、それから力強く「はい」と笑顔で頷いたふたりの頬に、私は口づけを落とした。
花嫁たちが馬車で披露宴が行われる会場の方に出発し、参列客も各々の馬車に乗ってその後を追うために移動し始めた。
「ミーシャ!」
「まぁ、マミ。 久しぶりね。 元気だった?」
私も、馬車の方へ向かおうとしたところで、白いものが混じりだしても綺麗な黒い髪をきっちりと結い上げたマミの驚いたような声にそちらを向き、微笑むと、彼女は先ほどの花嫁の様に足を速め、私のことを抱き締めた。
「ミーシャこそ……元気だったの!? いままでどこにいっていたの! とても、とっても寂しかったのよ!? もう! もう!」
「ふふ、ちょっと会わない間に、お互い年を取ったわね。」
目元の皺を見、からかうように言えば、マミは頬を膨らませた。
「本当よっ! あぁ、でもミーシャは金髪だから、白髪が目立たないのね、ものすごく羨ましいわ。 見て、私の白髪! 黒髪だからすっごく目立つの。 悔しいから、白髪染めっていうの? 完璧な染色技術を今開発してもらってるの!」
ほら此処よ、と、生え際を見せながら笑ったマミは、少し年を取ったけど、笑顔は全然変わらない。
「マミ、そろそろ披露宴会場に……ミーシャ!?」
そんな私たちに気付き、足早に駆けてきたのはマーガレッタだ。
「いったいこの5年間何処にいたの!? あぁ、良かった、結婚式の知らせ、貴方に届いたのね。 ミーシャ。」
「もちろんよ。 可愛い2人の結婚式だもの、何があっても来るに決まっているじゃない。 けれど、花婿と花嫁の母親がこんなところにいてもいいの? 向こうでお客様をお迎えするのではないの?」
「少しならいいのよ。 夫は先に行かせたもの。」
くすくすと笑いながら言うマミに、マーガレッタ様も笑って頷いたあと、「それよりも!」と、マミとマーガレッタはお互いの顔を見て頷き、其れから私に詰め寄って来た。
「メグの言う通りよ! ミーシャ! 貴女、5年の間、どこに行っていたの!? 今日の結婚式だって、どうやって知らせればいいのか本当に困って、あの子達、帝国にいらっしゃる侯爵様はもちろん、陛下にまで『おばさまがどこにいるか知りませんか』ってお手紙を書いたのよっ!?」
「そうよ、ミーシャ。 そもそも急に『ちょっと旅に出て来るわ!』なんて言って、その日のうちに国を飛び出すものだから、本当に吃驚したのよ? それにその姿はどうしたの? いったいいつの間に修道女になったの?」
そう叫んで私の方を指さしたマミに、追撃をしてくるマーガレッタ。 そんな2人の自然なやり取りに、私がいなかった5年間も、仲良くやっていたのだとよくわかって、やはり嬉しくなる。
「もう、ミーシャ! なに笑ってるの!? 私たちは怒ってるのよ! 真剣に聞いているの!?」
「えぇ、えぇ。 聞いているわ、心配かけてごめんなさいね。」
「で、いつの間に修道女になったの!?」
怒っている二人に、私は笑う。
2人が言うとおり、この華やかな場所に、私は修道女の姿で立っている。
柔らかな若草色のドレスのマミ、落ち着いたベージュピンクのドレスを着たマーガレッタと違い、私の服は黒一色。 お飾りもシンボルのついたペンダントだけのシンプルな装いだ。
「いつの間に、ね。 そうね、正式に修道女になったのは、2年前かしら。」
少し考えてそう言うと、マミは目をまん丸くした。
「2年も!? ってことは、この国を出てすぐに修道院に入ったって事なの!? 貴女ねぇ! 行先も告げずに飛び出して、5年の間、一切便りも寄越さないと思ったらそういう事だったの!? そもそもそんな事になるのなら、連絡先くらい教えておきなさいよ! それに……」
私を見てぷりぷりと怒っていたマミが、はたっと言葉を止め、私の背後に目をやった。
「……ミーシャ、その方は、誰?」
「あぁ、そうだったわ。 失礼いたしました。」
思い出した私は、自分の後ろに立つ、漆黒の外套を身に着けた人に謝ると、2人に紹介した。
「今日付けで、フィルフォルニア王国大教会の司祭様になられるアルフォルド様よ。 ほら、私達の財団を、立ち上げ当初にお話を聞いてくださって、教会に働きかけて支援をしてくださった方よ。 教会本部からこちらに移られるための一団に、私も同行させていただいたの。」
「「まぁ!」」
その言葉に、マミとマーガレッタは丁寧にカーテシーをした。
「司祭様の前で、大変失礼を致しました。」
先ほどとは打って変わり、しっかりと丁寧に謝った二人に、彼は私を見ると、困ったように笑った。
「そのように頭を下げないでください。 まだ着任式を終えておりませんし、ここへはシスター・ミーシャをお連れしただけです。 しかし結婚式の最中であったとは……善き日に立ち会えてよかった。 今日はお二方の大切な子、神の愛し子の晴れの善き日に共にあれたことに感謝を。 ここに集う皆に、神の祝福がありますように。」
「「司祭様には、心より感謝申し上げます。」」
きっちりしっかり丁寧に、頭を下げた二人が、ゆっくりと頭を上げる。
「あら、みんな集まっていたのね。」
教会から出て来た院長先生が、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
「アルフォルド司祭様、ようこそおいでくださいました。 シスター・ミーシャをお連れ頂き、ありがとうございます。」
「いいえ、私もシスターミーシャも、同じ日にこの国へ赴任することになりました。 これまでも何度かお会いしたことはありましたが、長く話したのはこの旅が初めてでした。 旅の中でもいろいろな話をさせていただきましたが、実に興味深かった。 これから先の、良き友を得た気になりましたよ。」
「光栄でございますわ。」
そんな、私と院長先生と司祭様の会話に、横にいたマミとマーガレッタが首を傾げた。
「赴任……って?」
呆然とする2人の様子を見ていた院長先生が、まさか、と、呆れたような顔で私を見た。
「まぁ! もしかしてミーシャ……貴方、2人に黙っていたの!?」
「驚かせたくて。」
うふふと笑った私は、目をまん丸くしている二人に丁寧にお辞儀をした。
「トルスガルフェ侯爵夫人、ガラン伯爵夫人。 本日付で、アリア修道院の副院長になります、シスター・ミーシャですわ。 『黒髪の乙女財団』とは、これからも共に、健やかに母子が過ごしていけるように協力をしていきたいと思っておりますので、解らぬことも多いかと思いますが、よろしくお願いしますね。」
顔を上げると、きょとん、とした顔の二人が、私、院長先生、アルフォルド司祭様、そしてお互いの顔を見合わせてから、目をまん丸くして、今日何度目かの驚きの声を上げた。
「「……えぇぇぇぇぇぇっ!?」」
20年前のあの日。
お茶会からお泊り会になり、たくさんたくさん話をした私たちには、本当にいろいろあった。
まずは、トルスガルフェ侯爵家とガラン伯爵家の、繊維加工・織布の共同事業の立ち上げ。 そこにはザナスリー公爵家が資金提供者として名乗りを上げ、出来上がった商品は、ガラン伯爵家の商会と、ザナスリー公爵家(と帝国のアイザックの商会の支社)での独占販売とした。
もちろん、商品の宣伝のために社交界へも復帰した。
しかしそこは私たち。
元聖女に傷物令嬢が2人。
復帰して初めての夜会は注目の的だった。 もちろん、悪い意味で。
公爵、侯爵、伯爵の令嬢とあって、面と向かって文句を言える強い心臓の相手は余りいなかったけれど、あちらこちらから、聞かせるような声で、いろいろ言われたものだ。
けれどそんなもの、マミの考えたカラフルなつけ毛や温めた筒で髪を巻く道具を使った斬新で美しい髪型や、指先を彩るネイルアートにマニキュア、発色の良く肌にも優しい化粧品、宝石ラメの入った糸を使った布地の新デザインのドレスや、便利で丈夫な育児用品など、3家の商会が繰り広げる商品ブランドを前に、あっという間にきえてなくなり、嘲笑・侮蔑の視線は、羨望と憧れのそれに変わった。
即位して一年、隣国の王女と結婚したウルティオ様――フィルフォルニア国王陛下が率先してそれを身に着け、さりげなく広報してくださった事も大きかった。
さらには奥様のウエディングドレスにティアラ、翌年に出来た第一王子殿下の育児小物や衣類など、全て私たちの商会の品物を使ってくださったために、一時は予約すら取れないほど流行した。
一度、お礼と共に、依怙贔屓しなくてもいいんですよ? と言ったところ。
『そこまで身内びいきじゃないよ。 王妃がね、とても気に入っているんだ。』
と、言われた。 そんな風に名前を出された王妃殿下にはご迷惑をおかけしているのか思ったが、お世辞でも何でもなく本当に気に入ってくださっていたようで、お茶会にしょっちゅう招待され、新製品の話を聞かせて頂戴と言われ、最終的に『王妃御用達』の証をいただき、さらに箔がついた。
そんなわけで、私達の商会は右肩上がりの天井知らず。 毎月売り上げの5%と決めて貯めていた財団費用も予定額に達し、私達の想定よりもずっと早い、お泊り会から3年後の日に、『黒髪の乙女財団』と命名した、母子を保護するための団体を立ち上げることが出来た。
あの日に書きつけた、保育園、託児所、助産院、緊急母子保護施設なども、次々と国の認可の元に立ち上げた。
誹謗、中傷はあった。 特に加害男性側からの妨害行為もひどかったが、そこはきっちり法的制裁を取って黙らせた。
もちろん、女側にもそういう者はいて、嘘をついて利だけ取ろうとした者や、自分の有責を相手に押し付けるために利用しようとした者には、きっちり言い聞かせておいた。
紆余曲折しながらも、『黒髪の乙女財団』は国内に名を広め、行動は国外にも広まり、教会からの社会福祉貢献の証として勲章も頂いた。
わたし達3人は、女性初の勲章受章者となった。
もちろん、私的な面も、いろいろあった。
商会が立ち上がったころから、事業の手伝いとして来ていた、トルスガルフェ侯爵の甥である伯爵家の次男が、マミに一目惚れをし、もう恋愛しないって決めたんですと言っていたマミに、あくまでも紳士的に彼女を支え、さりげない贈り物を続け、3年後、財団の立ち上げを機に結婚するに至った。
後継者のいなかったトルスガルフェ侯爵はマミの結婚を大変に喜び、あくまで我が娘はマミだとの意思表示から、彼を婿養子という形でならと結婚を許し、現侯爵邸での同居をゆるした。 が、これ。 マミとエリを溺愛していた侯爵が2人と離れたくなかった、というのが本音らしい。 幸せで何よりだ。
その後マミは、旦那様との間に長男ソウエン 次女ミズレッタ(やだ、ちょっと恥ずかしいじゃない)をもうけ、トルスガルフェ侯爵と旦那様、2人に支えられて、財団と商会の代表としての仕事も精力的に行っている。 その姿は『働く女性』として、若い令嬢達に尊敬され、社交界でも注目を浴びているようだ。
マーガレッタは旦那様との間に2女をもうけた。 長女マーシャ、次女のミーミ(やだ、本当に二人共、恥ずかしいったらないわ!)を設け、旦那様を立てつつ、社交界では、淑女の鑑、社交の花として、商会と財団の広告塔の役を担っている。 彼女が出席するお茶会は、参加希望者が後を絶たないという。
ちなみに、先日長男ダルリッド・ガロンが、エリ・イトザワ・トルスガルフェ侯爵令嬢をお嫁さんにもらった事は記憶に新しい。 商会絡みの政略結婚と言われているようだが、そんなことはない。 ダルリッドが物心ついたころからエリを溺愛し、その思いを成就させただけだ。
トルスガルフェ侯爵だけが反対していたようだが、孫の泣き落としに負けたそうだ。
そんな、幸せいっぱいで、社交界でも引っ張りだこの2人が、ソファーに突っ伏して「お茶会なんてただ疲れるから行きたくない。 社交界出たくない……。」と漏らしているなんて、誰が信じるだろうか。
そんな2人の幸せを微笑ましく思いながら、私はなぜかウルティオ様――フィルフォルニア国王陛下に外交官として起用されてしまい、仕方がないので、フィルフォルニア王国を中心に各国を行き来し、財団の仕事を広めるついでに外交もした。
1/3は国から離れていたため、国にいるときは財団と商会の仕事、そして慰問に集中した。 お茶会などはマミとマーガレッタの3人でやるので情報も入るから十分! と、すべてお断りし、夜会も仕事で必要な時のみに絞っていた。
「ミーシャがお茶会に出るとなったら大騒ぎでしょうね……一度開催してみない?」とマミとマーガレッタに言われた。 どうやら社交界では『高潔の薔薇女帝』と言われて注目されているらしい。 そんなネーミングセンスのなさにがっかりしつつ、暇がないから、と断固お断りした。
なので、そんな私が一度、王妃殿下のお茶会に参加したときは、それはもう大変で面倒だった。
挨拶には、何処にそんな貴公子が? とか、そんな傑物いたかしら? と首をかしげるくらい、各家から殿方の話を聞かされ、最後は女の幸せは……と言ってくる。 そのたびに拳を握るのにも飽きたころ、国王陛下が『仕事だよ』と呼んでくれて解放された。
遠くでその様子を見ていたらしい。
『あんなことしても無駄なのにね。 一度籠から飛び出した鳥は、一つの場所ではじっとしていられないのだから。 ならば、こちらに出来ることは、帰る場所だけ作る事。 そうすれば定期的には帰ってきてくれるからね。』
と、私を慰め? てくれた。
国王陛下は、私をよくわかっていたのだと思う。 15年以上、王家によって囚われ続けた私が、こうして自由を手に入れた時点で、一つの場所ではとどまれないだろう、と。
だから『外交官』として籠を開け、止り木や寝床だけ用意してくれたのだ。
えぇ、おかげで十分楽しんだわ! しかも安全に(過保護ね、陛下もお父様も。)
外交、視察、慰問。 そんな活動を通して、法王猊下に再びお会いすることも出来た。
皆に助けられながら、いろんな国、いろんな人、いろんな世界を見て、聞いて、感じて。
その中で、心から敬愛する殿方にも出会えた。
毎日がとても充実していた。
3人での定例お茶会も、子供が増え、にぎやかになり、とても楽しかった。
そうして自由に頑張って頑張って。
そんな生活が15年たった時、我がザナスリー公爵家に可愛い男の子がやって来た。
アレンハイドという名前の、金髪に水色の瞳の12歳の甥っ子は、帝国で侯爵になり、公爵令嬢と結婚したアイザックの次男で、次期ザナスリー公爵家の当主となる者として、我が家にきてくれたのだ。
陛下からの婚約の申し込みを断ってから15年間、手を変え品を変えではないけれど、いろんな結婚を、最後は泣きながら勧めてきたお父様も、とうとう私を結婚させることを諦め、自身の後継を決めた。
アイザックによく似た、利発でかわいい私の甥っ子。
この子が来た時、私は最後の旅に出ることを決意した。
「後はよろしくね!」
と、今回はちゃんといろんな引継ぎや後始末をしてから出て行ったので、正直再会した時、マミとマーガレッタにあそこまで言われると思っていなかったから、やっぱり行先は告げるべきだったかもしれない。
あの時は、自分が決めた道を止められるのが嫌だったのだと思う。
(きっと、ちゃんと話せばわかってくれる人たちばかりだけど……止める言葉を聞きたくなかったのよね。)
きゅっきゅっ、と、窓を拭く。
20年前のあの日と同じく、小さな鞄たった一つをもって、導かれるままに教会の門を潜り、再び3年の見習いと、さらに2年の修道女としての修業を終えたわたしは、ここに戻って来た。
マミとマーガレッタ2人の子育てを間近で見守りながら、我が子を抱けなかった聖女ハツネ様の思いを知り、その腕の代わりになった2人の養母の愛を知り、父母から無条件に愛された存在だった自分を思い出していた。
ただそれが、当たり前のようでそうではないことも、たくさん知った。
無条件に父母の腕に抱かれることを知っている子供たちがいる一方で、大人自体が怖いもの、恐ろしいものとしか感じられない子、大人の腕の優しさ、暖かさを知らない子が多くいる事。
抱き締めようと手をのばせば、恐怖に顔を歪め、頭を抱えて震えたり、叩き払って逃げる子が多かったのだ。
そして、この活動の中で、私の中に芽生えた感情。
その腕をもたない子を抱き締める者になりたい、と。
財団の仕事が区切りがついたところで、私は修道院の門を潜った。
それから5年の月日を経て、ようやく私の原点であるここに戻ってきた。
院長先生にだけは事前に連絡していたから、両手を広げて待っていてくれた。
可愛い私の子供たちの門出に立ち会うことも出来た。
そして、奇しくも時を同じくして、初めてお会いした時から私が心から敬愛していたアルフォルド司祭様が、我が国の大司祭になられた事も、神と結婚することを選んだ私へのご褒美だと思っている。
(最高の始まりだわ、まるで神様のお導きね。)
そんなことを考えながら掃除を終えた私は、掃除道具を片付けると、朝ご飯を食べ、それから、養育室の扉を開けた。
「おはよう、皆。」
視界に飛び込んでくる、小さな小さな私の可愛い子供たちを、一人ずつだきしめ、頬にキスをした。
王太子殿下から婚約破棄されて、修道院へ(自発的に)送られた私は、これからも自分(と大切な人たちの幸せ)のために頑張ります!
Fin
★これにて完結となります。ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました!
★最後に。断罪のページを番外として残しておきます。 刑に関しては作中に出て来たとおり『奇跡をその身をもって立証する事』です。
残酷描写を含みますので、閲覧は個人の判断にて、お願いします。無理して読まないでください。
当作品に関しまして、作者の都合で一度削除した件に関しまして、読者様にご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした。強く!なりたい!ですね!
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。また別の作品で、お会いできれば幸いです。
猫石
この先は作者のだらだら言い訳後書きです。
閲覧は個人の責任でお願いします。
断罪をお読みにならない方もいらっしゃると思いますので、中途半端なところですが、作者の心残りの点だけ補足していきます。
ミーシャは推し活エンドではないです~
結婚より仕事が楽しかった。 ミーシャにも嫁ぐ選択肢……を考えましたが、なんとなく「???」と書く手が迷子になり、この終わり方になりました。
アニー
→避難先であったトルスガルフェ侯爵領にて、屋敷の管理人をしていた夫婦の娘になりました。
シンシア
→避難先から帰ってきた後、実の祖父である他国の侯爵に引き取られました。 公爵の娘は護衛騎士と駆け落ちしましたが、双方慣れない庶民生活の中、捨てられてた彼女は教会で子を産んだようです。
ジェシカと息子
→あの日から1年後、マミに猫なで声で近づいてきた侯爵夫人の連れている子がジェシカに似てる?と思ったマミが、しっかり裏を調べ上げてから侯爵夫人に近づき、虐待の証拠をつかみ、慰謝料迷惑料親権をがっちり勝ち取りました。 子爵家に関しては、取引一切禁止!にしたら勝手に潰れました。 ジェシカは現在もマミの相談役として一緒にいてくれています。
皇帝陛下と皇妃殿下、ミーシャママ→出番もその力の発揮も出来なかったので、残念です……もう少しちゃんと生かしたかった。
アイザック→もっとちゃんと暗躍&商会活躍してるところが書きたかった。
聖王猊下&赤の司祭様→聖王猊下が裁判官としてたつのは私の趣味です。高潔な方、というイメージなので……。ちなみに、赤の司祭様とアルフォルド司祭は別人です。
マミを返さなかったのはなんで? →安全な返し方が見つからない(実験先にあの王とか言ったら迷惑ですし)ことと、エリがいたからです。
★不適切表現について→おぼろ豆腐メンタルなので、今だ引きずっていますが……考え方も、感じ方も、十人十色なのでしょう……反省しつつ、難しいなと思いつつ、時に迷いながらでした。答えも出ませんしね。
創作に当たっては、もっとあっさり書きたいんですよ! ここまで心理戦みたいに、細かくしたくないんです! この話、半分くらいで書けると思うんですよ! もっとお上手な方ならね!
煮詰めちゃうんですよ……第一稿で、3000~4000文字で書き終えているんです。
そこから、読み返し、読み返し、誤字脱字修正もして、さて、公開しようかな? と思ったら6000文字をさらっと超えたりするんです、詰め込みすぎぃ! 煮詰めすぎぃ!
……要修行です……
とまぁ、作者的にはいろいろ考えていますが、どう読むか、感じてくださるかは、皆様次第だと思っております。
ここまで、読んでくださった皆様には、貴重なお時間を使っていただき、私の作品(と、頭の中のもやもやまで)お読みいただいて、本当にありがとうございました。
朝晩寒くなって参りましたね。 春と秋はどこ行った!? って感じですが、皆様ご自愛くださいませ。
心からの感謝をこめて




