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【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!  作者: 猫石


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66/69

66・決断と、再会と、始まり。

 用意された新しいワンピースに身を包み、来た時と同じ、鞄一つに机の中やクローゼットに入れていた細々した品物と一緒に、3年間の思い出を詰め込んだ私は、自分が過ごした部屋を見渡した。


 初めて見た時には簡素過ぎてびっくりして、ベッドが固すぎてびっくりしてと、いろいろ大変だったけれど、離れるとなると心苦しく、寂しいと感じる。


 掃除が終わり、私の物が一つもなくなった部屋に向かって深く頭を下げた私は、院長室へ向かった。


「3年間、本当にお世話になりました。」


「えぇ。 ここにいる3年間の貴女の努力と成長は誇っても良い事です、えぇ、私が保証しますよ。 私の後を継いでもらえなかった事はとても残念だけれども、これも運命です。 ここからはばたく貴女のこれからの人生が、心から善きものとなる事を祈っています。 応援していますよ。 ミーシャ。 いいえ。」


 執務机に座った院長先生に頭を下げると、先生はそう言った後、椅子から立ち上がると私の事を抱き締めてくれた。


「ミズリーシャ・ザナスリー公爵令嬢。」


「今までいただいた中で、一番嬉しい誉め言葉ですわ。 ありがとうございます。」


 先生の背中に手を回し、抱きしめあって、それから離れる。


「貴女も。」


 院長先生は私の斜め後ろに立つマミの事を抱き締めた。


「院長先生。 たくさんたくさん助けてくださって、いろんなことを教えてくださって、それから、家族になってくださって……本当にありがとうございました。」


「幸せにおなりなさい。 貴女にはその権利があるの。 あの家は比較的自由な家風だから大丈夫だとは思っているけれど、もしも辛くなったら、私はここにいるのだからいつでもおいでなさい。 ここも、貴方の実家なのですからね。」


「はい、はい! 先生。 いいえ、お母様。 わたし、頑張ります!」


 マミから離れた院長先生は、シスター・サリアの抱くエリを抱き上げる。


「エリ。 可愛い子。 貴女も幸せになりなさいね。 お祖母ちゃまに会いに来てね。 私も会いに行くわ。」


「う、あ~♪」


 にこにこと笑うエリに、母の様に慈愛深く微笑んだ院長先生は、頬を摺り寄せると、エリをマミに渡した。


「3人とも、幸せにね。」


「「はい。」」








 修道院の皆に見送られ、修道院と聖堂を遮っていた門を潜り、聖堂を経て外に出た私とマミは、迎えに来ていたザナスリー公爵家(わがや)の馬車に乗り込んだ。


 私の隣には少々緊張した面持ちでエリを抱いたマミが、私の正面には腕を組んだお父様が、すました顔で座っている。


 馬車の中はちょっと緊張した空気が流れていた。


(いえ、決してお父さまが威嚇しているわけではないのだけど……マミものすごく緊張してしまっているわね。 もう、お父様ったら何を考えて……。 あら? 我が家とも、マミの家とも道が違うわ? どこに向かっているのかしら?)


 お父様の表情を探りながら、私は声をかけた。


「あの、お父様。」


「うん?」


「今、お話してもよろしいですか?」


「あぁ、かまわないよ。 どうかしたのかい?」


 私が問いかけると、お父様はふふっと笑って応じてくれた。


「今走っている道は、我が家とも、マミの家とも方角が違うのですが、今はどちらに向かっているのですか?」


「あぁ、そうだった、言ってなかったな。 いつもの商会に向かっている。 うちの使用人をそこで待たせているから、到着次第3人は正装に着替えてほしい。 王宮に向かう。」


「お……王宮……で、すか?」


 まん丸く目を見開いたマミの言葉に頷いたお父さまに、でも、と、私は尋ねた。


「お父様。 ウルティオ様――フィルフォルニア新国王陛下は、つい先日、教会から国の譲渡式と即位式を終えられたのばかりでしょう? まだいろいろと、陛下も王宮内も何かとお忙しいのではないのですか?」


 式典などの前後は、王宮内は蜂の巣をつついたような状態になるのは知っている。 そんなところに行ってもいいのだろうかと心配になった私に、お父様はやれやれ、と肩を竦めた。


「お前の言うとおり、1週間ほど前に行われたな。 そのお陰で、王宮の中は先日『見届け人』でおられた『国賓』の皆様が王宮に滞在されていたり、式典の準備をしたりと、本当に忙しくして大変だった。 陛下も間を惜しんで執務を行っておられたらしい。 言っておくが、我々も休む暇がないほど本当に忙しかったのだぞ? だから落ち着いてからにしてはどうかと進言申し上げたのだがな。 どうやら陛下は今日という日を心待ちにしていたそうで、無理やり半日ほど時間を作らせたそうだ。 この私に修道院を出た二人を連れて登城せよと命じられたのだぞ? 二人に大切な話がある、とな。

 あぁ、王宮についたら私は宮廷内の外務執務室に向かう。 帰る時に侍女に声をかけて私を呼ぶようにな。 ……まぁ、急ぐことはない。 ゆっくり話をしてくるといい。 お前はもう、決めたのだろう?」


 眉間に皺を刻みながら難しい顔をしたお父様に、私は静かに微笑んだ。


「えぇ、お父様。」


「まぁ、後悔のないように、話をしなさい。」


 私の答えが解っているのかそう言ったお父様は、肩を竦めた。


 ほどなくして、予約を入れていた商会の前に馬車が止まった。 馬車を降り、中に入ると、私とマミ、そしてエリはすぐに使用人たちによっててきぱきと磨かれ、用意されていたドレスに着替えさせられ、化粧をされ、お飾りをつけられ、髪もきっちり整えられてから、再び馬車に押し込められた。


 3年ぶりに見る、太陽の下、人々の行きかう王都の街並みを懐かしく眺めながら、ほどなく王宮の外門を潜った馬車は、騎士に誘導されて王宮内の馬車置き場に止まった。


 マミは従者に、私はお父さまに手を借りて馬車を降りると、待ち構えていた執務補佐官に捕まってしまったお父様は引きずられるように連れていかれてしまった。


 私とマミ、そしてマミに抱かれたエリは、こちらも待ってくれていた女官に先導され、王の私的空間であるはずの奥宮殿のさらに奥にある小さな離宮の中の、綺麗に整えられた庭の見えるサロンへと通された。


「陛下、失礼いたします。 ザナスリー公爵令嬢、トルスガルフェ侯爵令嬢が登城されました。」


「入れ。」


 通されたサロンの入り口で、一歩前に出た私はカーテシーを、一歩下がったマミは、エリを抱っこしているためゆっくりと頭を下げた。


「春を迎えたフィルフォルニア国の、新たなる光、国王陛下にご挨拶申し上げます。 ザナスリー公爵家ミズリーシャ、お召しにより参上いたしました。」


「か、輝かしき新たな国王陛下へご挨拶もうしあげます。 トルスガルフェ侯爵家、マミ・イトザワ。 娘、エリ・イトザワと共に、お召しにより参上いたしまっしたっ。」


 慣れない挨拶を噛んでしまって慌てるマミと私の耳に、明るい笑い声が聞こえた


「大丈夫、ちょっと噛んでしまったけど、そうしているとマミはすっかり一人前の令嬢だね。 さ、どうぞ。 堅苦しい挨拶は終わりにしよう。 二人とも顔を上げて。 一昨日までお客様がいらっしゃっていたからね、珍しいお菓子があるんだ。 お茶と、それからエリのためにベッドも用意してあるよ。」


「お心遣い、感謝いたします。 さ、マミ。」


「はい。」


 笑顔で迎えてくださったウルティオ様――フィルフォルニア新国王陛下に促されソファに座ると、わたしとマミの前には食べきれないほどたくさんの、珍しいお菓子が並べられ、お茶が出された。


「さ、どうぞ。 遠慮なく食べていいよ。 どれがいいかな? 私がとってあげよう。」


「そんな、陛下自ら……。」


「いいんだ、君たちは大切な戦友だからね。」


 私達が気兼ねないようにと人払いをしてくださったウルティオ様は、穏やかに笑い、自ら菓子を取り分けてくれた。


「さ。 人払いも済んでいるから、マナーなんか気にせず、気にしないでゆっくり好きなだけ食べていいよ。 マミ、エリは私が抱っこするからゆっくりお食べ。 さぁ、エリ、伯父上のところにおいで。 うん、少し見ない間に随分大きく可愛くなったね。」


 遠慮していたマミの腕からするりとエリを慣れた手つきで抱っこしたウルティオ様は、にこにこと笑いながらエリに話しかけ、そうしてちらりとマミを見、解りやすく溜息をついた。


「エリは本当に可愛いな。 あぁ、マミがトルスガルフェ侯爵家の養女ではなく、私の妹として王宮に入ってくれれば、エリに毎日会えたし、癒されたのに。」


 あからさまにとてもがっかりしている! という表情でそう言いながらエリをあやすウルティオ様に、お茶を飲んでいたマミは、ティーカップを置いて困ったように笑った。


「エリを可愛がってくださってありがとうございます、ウルティオ様。 そして、過ぎたお心づかいも、本当にうれしく思います。 そのお申し出は大変吃驚しましたし、本当に嬉しかったのですが……自業自得とはいえ、王宮にはいい思い出がありませんし、それに、異世界人で、こちらの常識もわからない私が王家の人間になるというのは荷が重すぎます。 正直、侯爵令嬢っていうだけでも本当に気が重いんです。 けれど、お母様とお義父様が、こちらで暮らしていくのに頼っていいのだと言ってくださって。 それに、ミーシャ……とお友達としてお付き合いするのには、やっぱり貴族の身分があった方がいいからと言われて……それで、お受けすることにしたんです。」


「そのために、とっても勉強したのよね。」


「だって、引き取ってくださるお義父様にご迷惑をかけるわけにはいかないから……。」


「うん、叔父上にちゃんと聞いたし、そのために君が努力したのは聞いているよ。 今日会ってわかったよ。 頑張ったね。 マミ。」


「ありがとうございます。 褒めていただいてちょっとだけ自信が持てました。」


 嬉しそうに笑ったマミを微笑ましく見ながら、ウルティオ様は頷いた。


「それに、事業の事もいろいろと叔父上から聞いているよ。 帝国にいるアイザックがこちらに支店を開くのに、マミは商品開発の協力をするんだろう? 子供用品と美容品だったかな? トルスガルフェ侯爵領の特産物を使って爪先を飾ったり、化粧品を作ったりするなんて画期的だって、アイザックが手紙でもわかるくらい興奮していたよ。」


 ふにゃっと、泣き出しそうになったエリのためにソファから立ち上がり、ゆらゆらと体を揺らしながら、ウルティオ様が真っ赤になっているマミにそう言うと、はい、と彼女は頷いた。


「勉強している時に、トルスガルフェ侯爵領にある鉱山に屑の宝石がたくさん出ると書いてあったので、ミーシャとお母様にそれがどういうモノかを聞いて……それと、空気に触れると固まる樹液がある事もわかったので、マニキュアやペティギュア……爪に綺麗に飾れないかと、今、考えてるんです。 他にも、薬草やお花もいっぱいあるし、お化粧に使用するブラシがこっちではすごく数も種類も少ないそうなので、こちらで作れないかなって考え中です。」


「それもお母様に聞いたよ。 うまくいくといいね。」


「はい。」


 嬉しそうに笑ったマミを、妹を見つめるように見守るウルティオ様。


 そんな二人の姿に安堵しながら、私は紅茶をいただきながら、お菓子を味わった。


 その後しばらく、新商品や新事業、先日行われた即位式の話などしたのだが、途中からウルティオ様に抱かれていたエリが、うにゃうにゃと泣き始めてしまった。


 そのため。マミは話を切り上げソファから立ち上がると、ウルティオ様からエリを受け取り、おむつを替え、ミルクを上げてた。


 その後も、何故だかご機嫌斜めなエリを抱っこしたまま、マミはウルティオ様に頭を下げた。


「ウルティオ様、申し訳ありません。 少しお庭に出てもいいですか? エリが泣き止まないので、少し気分転換をしたいのですが。」


「あぁ、かまわないよ。 でも少し日差しが強いからね。 侍女を連れて行った方がいいな。」


 手元にあったベルを鳴らし、やってきた侍従にその旨を告げると、大きな日傘を持った侍女がやってきて、マミと共に庭へ出て行った。


「どうぞ、ゆっくりお話ししてくださいね。」


 とだけ、私たちに伝えて。




「マミに気を遣わせてしまったかな……?」


「そうかもしれませんね。」


 綺麗に手入れされた花の咲く庭を、こちらを見ることなくゆっくりと歩くマミの姿を見ながら、私はウルティオ様と向かい合い。お茶を傾けていた。


 とても穏やかだと感じる時間。


 ティーカップを置き、先に口を開いたのは私だった。


「ウルティオ様。」


「何だい、ミズリーシャ嬢。」


「長くお時間をいただいてしまいましたが、先日のお返事をさせていただいてもよろしいですか?」


「あぁ、是非。 出来れば、いい返事だと嬉しいのだけれど……。」


 私の顔を見、ふっと柔らかく笑ったウルティオ様。


 きっと答えに気付いている彼に、私は目を伏せ、深く頭を下げた。


「私には、ウルティオ様のお気持ちには、お応えすることが出来ません。 申し訳ございません。」


 少しの間の後、下げている私の頭の上で、小さく息を吐く音が聞こえた。


「頭を上げてください、ミズリーシャ嬢。 ……理由を伺っても?」


「もちろんですわ。」


 顔を上げた私は、静かにウルティオ様を見た。


「誤解なきように先に言わせていただきますが、王家の血が入っている、聖女の血が入っている、お顔が似ている……そのような事が理由ではありません。 それだけは、解っていただきたいのです。」


「えぇ、貴女はそのような理由で断るような方ではないと理解っています。」


「ありがとうございます。」


 静かに目を伏せた私は、一つ、二つ。 深呼吸をしてから、しっかりを顔を上げ、ウルティオ様の翡翠の瞳を見た。


「理由はたくさんありますが、一番大きな理由は自分の思う道を進みたいという、私の我儘です。」


 静かに伝える。


「ウルティオ様は素敵な方です。 穏やかで、聡明で、努力家で、先入観なく人を見、寄り添い、気持ちを汲もうとする優しさ、それだけではなく、必要であれば、肉親をも切り捨てる冷徹さも持ち合わせていらっしゃる。」


 ぴくり、と、眉をわずかにあげられたウルティオ様に、私は微笑む。


「知っていた、か。」


 ため息交じりにそう言われたウルティオ様に、頷く。


「はっきり知っているわけではございませんが、これでも公爵家の一員です。 国の行く末を決める大事な局面では、綺麗事だけでは済まない事は知っております。 もちろん、この事はマミには話していません。 勘違いなさらないでくださいね? 『マミには汚いものを見せたくない、知らせたくない』というわけではないのです。 マミは侯爵令嬢となったわけですから、これからはそのようなモノも見、強くなる必要があります。 けれど()()()に関しては、彼女の心情と、エリの将来を考えて、知らせる必要性を感じないと思いました。」


「なるほど。」


 納得したように頷かれたウルティオ様に、私は続ける。 


「ウルティオ様の申し出は吃驚しましたわ。 そして、きっと3年前の私でしたら、お話をいただいた時に、お受けしますと言っていたと思います。 あの頃の私は、幼い頃から王子妃、王太子妃、そして国母になる者として、全ての教育を終わらせ、外交にも出ておりました。 ですから、少なからず、自分に自信を持っていました。

 ですが、元王太子殿下に邪険に扱われるたび、別の女性との不適切な関係を見せつけられ、愛情などはなく、気にしていたつもりはありませんでしたが、それでも自尊心は傷つけられ、そんな人間のために、私は自分を犠牲にしなくてはいけないのかと、絶望もしていました。

 ですから、王太子殿下に婚約破棄を突き付けられた時、結婚しなくて済むことにただ歓喜し、後始末を他人にすべて放り投げて、自分だけ安全な場所に逃げるような人間だったのです。 今から振り返ると、可愛げのない、鼻持ちならない傲慢な女でしたわ。 王太子殿下にも常に人の上に立つ人間としての振る舞いを求めていましたし、私の事を厭い、マミに安らぎを求められたのも、それが正しいかは別としても、今はなんとなくですが理解できます。」


 庭の方から入ってきた風を頬に受けながら、私は続ける。


「そんな私は、ありがたいことに、生まれ変わる機会を得ました。 3年の間、アリア修道院で、子供と触れ合い、他人と触れ合い、泣いて、怒って、笑って……そうしてようやく、理解りました。 今までの私がどれだけ人よりも恵まれていて、其れゆえにどれだけ傲慢な考えをもって他者に接していたか。

 自分に甘く、他者に厳しかったか。 悲しみと苦しみで途方に暮れて私に助けを求めた人を突き放し、助けの求め方も知らずにいた人を見下し、無意識にそれを当たり前だと思っていたのです。 最低でしょう? 私には国母になる資格はないのです。」


「それに気づかれたのなら、貴方は成長し、その座につく資格を得たのだとは思わないのですか?」


「残念ながら、まったく。」


 首を振って、まっすぐウルティオ様を見る。


「院長先生にお聞きになられたかもしれませんが、アリア修道院を継ぐという選択肢も頂いておりました。 ドルディット国を出て、ローザリア帝国で侯爵令嬢として母と弟の補佐をすることも考えました。 ですがドルディット国はなくなり、お父様はこちらで官職を陛下に命じられてしまいましたから、お父様のお傍で補佐しながら、弟の商会の支店も支え、その上で、3年間の経験を忘れないように、王都内の孤児院や養護院、愛児院の慰問を行い、環境改善をしたいと思いましたの。」


「なるほど。 しかしそれは、国母になった方がやりやすいのでは?」


 ウルティオ様の問いかけに、私は頷く。


「おっしゃる通りです。 ……ですから考えましたわ。 国母として、公爵令嬢として、どちらがより、助けを必要とする人の声を近くに聞き、手助けできるか。

 そうして考えた結果が、答えです。 私は出来る限りその現場で、しっかりと女性と子供を守るために働きたいのです。 そのために慈善団体を作り、大変な環境にある女性が逃げる先を用意し、自立できるまで安心して生活できる基盤を作れるように支援し、子供たちには痛い思いも、寒い思いも、ひもじい思いもさせることなく、安心して生活でき、教育を受けられる環境を用意してあげたいのです。

 それには身軽に動ける方が都合がいいのですわ。 勿論、支援者を探すために、これからは社交界にも復帰して、新たな人脈造りも始めるつもりです。 ですので、ウルティオ様からのお話は、私はお受けすることは出来ません。」


「……なるほど。 よくわかりました。」


 一つ、溜息をついたウルティオ様は、私を見て微笑まれた。


「そういわれてしまったら、諦めるしかなさそうです。 しかし、その事業については後日、しっかりと草案をまとめ、父君を通じて国へ提出していただけませんか? 私も、同じ気持ちですから。」


「ありがとうございます。 陛下のお力添えをいただけるなら、百人力ですわ。」


 ふふっと笑って頭を下げた私とウルティオ様の様子を遠くから見ていたマミは、話が終わったことに気が付いたのか、庭から戻ってきた。


「申し訳なかったね、マミ。」


「いいえ、私は散歩に行っていただけですので。」


 ――よかったね。


 眠ってしまったエリをベッドに横にし、ウルティオ様の手を借りてソファに座ったマミは、こっそりと私の耳元で言い、私も小さく頷いた。


 それからは、他愛ない話をした後、お土産のお菓子をたくさんいただいた私たちは、お父様と共に王宮を後にし、マミとエリはトルスガルフェ侯爵邸へ、私は生まれ育ったザナスリー公爵家へと、帰路についたのだった。

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