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【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!  作者: 猫石


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12・私の気持ちと、赤ちゃんの気持ち

「どうして先生たちの様にできないんでしょう……。」


 院長先生の腕の中のシンシアに、シスターサリアの腕の中のバビー、そして私の腕の中のアニー。


 みんな、2人が来てくれてたったの30分。


 先ほどまで火が付くように泣いていた3人の赤ちゃんは、今はそれまでの大騒ぎが嘘のように、一人ずつ大人の腕の中で愛らしい寝顔ですやすやと眠っている。


 消灯時間が過ぎてからもずっと眠らずぐずっていたシンシアは、院長先生に抱っこされて10分もすれば落ち着き、それからはあっという間に指しゃぶりを始めて眠ってしまった。


 つられて泣き始めたアニーもバビーも、よいしょと二人を抱っこしたシスター・サニアの腕の中ですぐにうとうとし始め、流石に疲れたわ、よろしくね、と渡されたアニーは、一度ぼんやりした顔で私をみたあと、そのまま腕の中で眠ってしまった。


 先ほどまでの騒ぎは何だったの?? と思ってしまうほどの変わり様で、私が嫌だったのか、と思いめぐらす。


「こんなことは、しょっちゅうあるから落ち込んでは駄目よ。」


 そう言って、椅子を3つ、並べて用意してくれたのはバビーを抱っこしたままのシスター・サリアだった。


 そうして、私を真ん中の椅子に座らせると、両端に座った2人は抱っこしている赤ちゃんを片腕と膝の上で支えると、空いたもう一方の手で、ポンポン、と真ん中に座る私の背中を二人でさすってくれる。


「大丈夫よ、大丈夫。 ミーシャはよく頑張っていたわよ。 おむつも見たり、ミルクの時間を考えたり、いろいろ考えたのでしょう?」


 こくん、と頷く私に、院長先生は頷いてくれる。


「ミーシャは、今日は、緊張していたのかもしれないわね。」


 緊張?


 首を傾げ、それから考える。


 みんなよく寝てくれるから大丈夫よ~っと言われていたからかなり安心して、また、皆を見れることをとても楽しみにしていたけど、緊張は……していたかしら? と、少し悩んでいると、今度はシスター・サニアが笑った。


「ミーシャの事は、ちゃんと聞いているわ。 王子妃教育、王太子妃教育の賜物だと思うのだけれど、ミーシャは、どんなことにも意欲的に取り組むし、吸収も早いわ。 それに、感情を隠そう隠そうとするのも上手ね。 いつも穏やかに笑っているわ。 でも、そうね……。」


 私の顔を見て、頭を撫でてくれる。


「赤ちゃんには、その貴族的な微笑みは通用しないの。 その代わりね、私たちが心の奥に隠している気持ちを感じ取ってしまうようなの。」


「……え?」


「不思議よね。 だからここで仕事をするうえで、感じたこと、不安は素直に言ってくれていいのよ?」


 顔を上げた私に、院長先生はシンシアを見、私を見て笑った。


「シンシア位の赤ちゃんの目はね、あんまり物がはっきり見えていないの。 そうね、抱っこしている私たちの顔の形がようやくぼんやり見えているくらいなのよ。 けれどそのかわり、私たちと同じように聞こえる耳で、周りにいる私達の声をしっかり聞いて、抱っこしてもらっている私達の手から、私達が顔では隠しているいろんな気持ちを感じているらしいのよ。」


「気持ち、ですか?」


 繰り返す私に、えぇ、そう、と先生は笑う。


「私を抱っこしてくれているこの人は、あぁ、今嬉しいんだろう、落ち着いているな、じゃあ安心して抱っこしてもらえるな、寝ても大丈夫だなぁって考えるそうなのよ。」


 そう言われて、私は考える。


 『赤ちゃんを独り占めできる夜当番を楽しみにしている』と言ったのは、本心だっただろうか。


 本当は、一人では不安で、ちゃんと面倒見れるか心配もあって、でもそれを、顔に、言葉にしちゃだめだと思っていた。 王子妃教育、王太子妃教育で、人の前では感情を出しては駄目だと厳しくしつけられたから。


 それに、皆も出来ているような事に弱音を口にしてしまったら、失望されてしまうかもしれないと怖かったから。


 皆さんが『ちゃんと寝てくれるから大丈夫よ』と言ってくれたし、ダリアと行った2回の練習の時も実際にそうだったから、大丈夫だ、楽しみだと思い込むようにしていた。


 本当は、小さな赤ちゃん3人を前に、大丈夫か、心配だったのかもしれない。


 でも、そこに、シンシアが寝てくれないことから、今までと違うと私も焦り始めた。


 こんなはずじゃない、こんなはずじゃなかった、どうしたらいいんだろう、皆はうまくやっているのに、なんで自分には上手にできないんだろう……そんな気持ちがグルグルし始めていた。


 シンシアは、そんな私の気持ちを察して、不安で眠れなくなり、それが、皆に連鎖していったのかもしれない。


「確かに……どうして寝てくれないんだろう、どうしてって思って、何度もおむつを見たりして焦っていたかもしれません……。 練習の時はうまくいったのにって。」


 そう言うと、シスター・サニアは背中を撫でてくれ、院長先生は頭を撫でてくれた。


「そうね、そうよね。 でも考えて頂戴? 私たちだって、眠れない日があったりするでしょう? 赤ちゃんにだって眠れない夜はきっとあるものよ。 シンシアは今日は眠たくない日だった、それは決して、貴女を困らせようと思っていたわけじゃないの。 ただ、貴女を独り占めしてずっと抱っこしてほしかっただけかもしれないし、もしかしたら怖くて抱っこしてほしかっただけかもしれないわ。 けれど赤ちゃんはそれを言葉に出来ない。 訴えようとしてぐずったのかもしれないわね。 なのに、貴女の手からは、不安と緊張が伝わってくるから、シンシアも不安になって、ますますあなたが不安になって、緊張して……の積み重ねに、アニーとバビーもついついつられちゃったのかもしれないわね。 私も最初の頃、皆が泣き止まなくて困ったことがよくあったわ。」


「私もですよ。 私の事が嫌いなの~!? って、泣きだしたことがありました。」


「ね。 私もサニアも、そんなものなのよ。 貴方はここにきてまだ2週間。 何にも出来なくて当然なの、助けてって言って当たり前なの。 少しずつ慣れればいいのよ。 ……子を産むお母さんたちだって、同じ思いをして育てているのだから。 さ、皆をベッドに戻しましょう? また大変になったら呼んで頂戴ね。」


「……はい。」


 私は大きく頷いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 赤ちゃんあるある。オムツでもご飯でも熱がある訳でもない…なんでこんなに泣くの? なんとなく。特に理由は無い。育児って難しいですよね…。子供に関わるすべての人を尊敬します。
[良い点] 最初から何でも出来る人なんかいない。沢山の失敗や挫折をして、他の人達から少しずつ教わって成長していく。そうやって一人前になる。 当たり前なことなのに忘れがちなことですね。主人公とリンクして…
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