戦いを終えて①
テルペリオンの頭に乗り、急いで森へと戻る。3人は前足で掴まれたまま荷物のように運ばれていた。アリシアが待っている場所へと向かい合いながら、この3人と何を話すべきなのか考えていた。無事に捕まえることが出来たのはいいが、何を話すべきなのか正直わからない。
「お待たせ」
「うん、上手く行ったみたいだね」
「まぁ、とりあえずね」
アリシアが隣に座るのを確認すると再び飛び立ってもらい、最初に着陸した空地に向かってもらうことにした。いつもなら会話が止まらなくなるような状況だったが何も言い出せない。
「大丈夫?」
声をかけられたので、隣を見てみるとアリシアが心配そうにしている。安心させたいと思ったが、それでも言葉が出てこない。この後の彼らの運命を考えると、どうしてもこうなってしまう。無理だろうが、仮にテルペリオンに協力してもらったとしても、自分にはどうすることもできない。あの3人を助けようとすれば、自分たちがこの世界で孤立してしまうのだから。2人で生きていくこと自体は問題ないだろうが、そんなこと認めてくれないだろうし、そうなりたくもない。
「やっぱり助けたいの?」
「助けたいっていうか、なんというか」
「何も知らないのにって思ってるんでしょ」
その通りなんだよな。俺も最初は何も知らなかったからな。
想像以上に納得できて驚いてしまった。それだけ図星なのだろう。聞くのが怖い気もするし、本当にそうするつもりはあまりないのだが、どうしても答えを聞いてみたくて1つの質問をしようと思った。
「もし、もしだけど、あいつらを助けるって言ったら、どうする?」
「それはね。トキヒサにとって大切な人なら、反対するわけないよ。でも」
途中で口ごもってしまっている。言いにくいことがあるのだろうか。ただ、途中まで聞いた内容はこれ以上ないほど嬉しい回答で、思わず目を逸らしてしまった。でも一向に続きを話したがらないでいる。
「でも、なに?」
「えっと、トキヒサの世界じゃ魔源樹を切り倒しちゃうのは当たり前なの?」
「それは」
恐る恐るという感じだったが、アリシアの言う通りで当たり前のわけがなかった。この世界に来たばかりで何も知らないのに、木を破壊したという理由で処刑されることを可哀そうに思っていた。でも、よくよく考えれば意味もなく木を破壊するのは意味が分からないし、仲がよかったわけでもないし、ましてや大切なわけでもない。俺にとって一番大切な人は、アリシアで間違いないのだから、もう余計な事は考えないようにしようと思う。
「俺の世界には魔源樹はないけど、切り倒すのは普通じゃないね」
「そう、なんだね」
そんなに不安そうな顔をしないで欲しいな。だってアリシアの事を一番大事にするにきまっているんだから。
また隣を見てみたが、まだ心配そうに見られていた。でも今度は決意が固まっていた。もう助けたいなんて考えるのは止めようと。
「アリシア、ありがとう。もう大丈夫だから」
「えっ?うん」
少し身を乗り出しながら手を伸ばし、頭をなでながら伝えるとアリシアは戸惑ったように答えている。でも嫌がられるわけでもなく、むしろなでられやすいように頭を傾けている。
「やれやれ、困ったものだ。たしか人間の言葉で愛妻家だったか?それともバカップルなのか」
調子に乗っていたが、テルペリオンに見られていることをすっかり忘れていた。どこでそんな言葉を覚えてきたのかわからないが、楽しい時間が終わってしまったことに変わりはなかった。
「なんだよ。いいだろ別に」
「ダメとは言わんがな。出会ったときとだいぶ変わってしまったものだ。あの時は本当に見境なしだったというのに。最近はただ惚気てるだけだからな」
「そこまで言わんでも」
否定はできない、というより否定しなければならないことではない気がしている。
「まぁ、構わんさ」
どうにも含みのある言い方ではあったが、ちょうど空地に到着したところだったので話は切り上げとなった。街に入り、代表に3人のことを任せてもう眠ることにした。
次の日の朝、3人と話そうと思い代表の執務室を訪れる。
助けないとして何を話すべきなのか、正直わからない。だからといって会わないというのも違う気がした。まだ朝早いが、もう仕事を始めていると聞いている。ノックをすると、返事があったので部屋の中に入っていった。
「トキヒサ様。おはようございます。昨日はありがとうございました」
「いや、そんな大したことじゃないので」
部屋に入ると代表が立ち上がりながら謝意を示してきたので返答した。代表は感心しているようだが、何故か唖然としているようにも見える。
「大したことではない、ですか。流石としか言いようがないですな」
「え?」
なんだか、大げさじゃないか?魔力量だけは多かったけど、逆に言うとそれだけだったからな。
代表にいわれても、全く実感がなかった。3人が強かったわけでもないし、ただ行って帰って来ただけだと思っている。
「まぁなんと言いますか。森の外の果ての地で問題なく活動できる者を、3人も捕縛するとは、驚きしかありません」
理由を聞いてもピンとこなかった。3人はそういう魔法を使っただけだろうし、俺もテルペリオンが守ってくれただけなのだろう。何を勘違いしているのかわからないが、褒められるようなことではないように思えた。
「はぁ」
「あっ失礼しました。それでご用件は?」
「えーっと。昨日の3人の様子は、どうですか?」
どう話を戻そうか考えていると代表からそれをやってくれた。
「様子、ですか。とてもリラックスしています。まだ何も伝えていないので、そのせいかと思いますが。」
「そう、ですか。あの、お願いなんですが、その伝える役目を任せてもらえませんか?」
「トキヒサ様に、ですか?」
代表は驚いているようだった。助けようとしているのではないか、そんな疑われるような目で見られることを覚悟していたので、その反応は予想外ではある。
「やはり彼らと同じ転移者には任せられませんか?」
「いえいえ、そんな風に考える者はおりませんよ。失礼ながらまだ自覚されておられないようですが、ドラゴンに認められるというのは我々にとってはそれだけ大きいことなのです。ただ、その、トキヒサ様にとっては辛い役目になるのかと。」
3人と俺が知り合いということは、みんな知っていた。同級生だったとかいう詳しいところはまだだが、だからこそ気を使っているのだろう。
「大丈夫です。お願いします」
「左様ですか。もうご存じだと思われますが、今回の魔源樹の被害は計8本になります。処分内容に変更はありません」
「わかっています」
1本だけでも問題なのに、8本となるともうどうしようもない。代表は早速手配してくれて、具体的にどこまで話すことにするか打ち合わせる。結局、俺からは概要を伝えるだけにして、具体的な実施内容は別の人に詳しく説明してもらうことになった。