短い旅路
「助け出したら例の遺跡に行くのか?」
「だな。トキヒサはどうするんだ?」
「そこなんだよな」
パトリックとともに王都の滞在場所に一旦戻っている。転移者達も全員一緒に行くことになっているので、ここで合流するのが目的だ。みんなまだ起きていたのだが、夜も遅くなっていたので明日からまた行動を始めることになっていた。
とはいえパトリックはまだ興奮しているようで寝付けないようだった。そして俺も同じような状態だ。
なので自然と少し話していた。助け出した後のことを聞いたのは、どうなるかわからないにしてもある程度考えた方がいいと思い始めたからだ。今までは、そもそも助けるのかどうかばかり考えていてなおざりにしてしまっていた。
「まぁ、トキヒサの場合は戦力として稀有だからな。テルペリオン様とも一緒だし、暮らしていけなくなるなんてことはないと思うぞ。爵位は無理かもしれないけど、そんなの気にしないだろ?」
「あぁ、それで俺に助けを求めたわけか。多少なら問題ないから」
「当たり前だろ?じゃなきゃ頼んだりしないさ」
どうやら俺は自分で思っている以上に評価されているらしい。余計な心配をしていたらしかった。
「なんか考えていたのか?」
「まぁ転移者のこともあるから俺だけじゃ決められないんだけど。テルペリオンとアリシアと、旅にでも出られないかなと」
「はぁ?そんなこと考えてたのか」
考えていたというか、そうするしかないって思ってただけなんだけどな。
今まで通りに人間の街で生活できないのであれば、パトリックのように暮らしていく場所を探すしかない。一緒にエルフの遺跡で生活することはできるし、最終的にはそうなるかもしれない。それでも別の選択肢を探しに行きたかった。それが楽しそうと思っているだけかもしれないが。
とはいえ、別に笑わなくても良いのではとは思う。思い付きであることは認めるが、それなりに考えた結論であるのだから。
「そんなに変か?どうなるかわからんだろ?」
「あぁ、すまんすまん。そんなに心配する必要ないって」
つい語気を少しだけ強めてしまったが、特に気にするそぶりも見せない。転移者達も含めて、こんな反応するやつは他にいない。そんな懐かしくもありがたい会話をしながら、夜が更けていった。
そして翌日。
馬のない馬車でクレアさんの下へ向かう。馬のない馬車と聞いたときに何を言っているのかと思ったが、要するに魔力で動かす馬車のような乗り物のことだった。こんなものがあるなら普段から使えばいいのではと最初は思ったのだが、魔力量をかなり消費するということだった。つまりパトリックのような王族しか動かせず、実質的に王族専用になっているらしい。
そんな代物をパトリックは涼しい顔で動かしている。というより中でくつろいでいるぐらいで、同行している転移者たちも興味津々といった様子だった。巨人と戦うことになるかもしれないというのに一緒に行くということを、当初はパトリックが難色を示していたが、事情を説明すると納得してくれていた。
「あのあの、そのクレアさんって人とはいつであったんですか?」
「ん?3歳の時だな。出会ったというか、昔から知っていたというか」
「へ~、幼馴染だったんですね」
カノンさんが両手を合わせながらにこやかにしている。パトリックの気さくさからか、転移者たちとはかなり打ち解けていた。巨人と戦うという実感がないのか、それとも互いに緊張を和らげようとしているのか、緊張感は意外に感じられない。
「ヨシエさんにも迷惑かけましたね。雰囲気変わりました?」
「いえ、その節はお世話になりました」
「そんなにかしこまらなくったって、なぁトキヒサ」
「ん?ま、まぁそうだな」
以前のことが影響しているのか、ヨシエさんだけは少し距離感を感じるが時間が解決するようにも思えた。
「でもパトリックさんが元気になって良かったです」
「そうか?トキヒサもそう思うか?」
「わからん」
「なんというか。私と初めて会ったときは、もっと追い詰められているような感じだったので、九十九君が味方になってくれて嬉しいんですね」
いや、そんなにハッキリ言わんでくれ。
そこまで言われると俺もパトリックも苦笑いしてしまう。どうにも居心地が悪くなってしまい、アリシアと2人きりになりこれからのことを相談する。冷やかされているような声も聞こえるが無視した。
狭い馬車の中で、そんな感じで話をしながら旅路が続く。途中で野営もするが、魔法というのは便利なものでアリシアが一気に準備をしてくれるので特に不便はなかった。いろいろあって活動休止状態だが、普段から魔物討伐のために野営することはあり、手慣れているので当たり前と言われれば当たり前だが。
そうして順調に道なき道を進み、やがて巨大な家が見えてくる。長く滞在することになるからと、それまでとは違って大きめに野営地が作られる。転移者のみんなには、そこの管理をしてもらうことになっていた。食料調達したりと、アリシア1人でもなんとか出来なくはないが重労働になってしまう。普段は俺が手伝っているが、今回はそういうわけにもいかなくなるかもしれないので、手伝ってくれる人がいることは正直助かる。
なので俺とパトリックは、後ろのことを任せて巨人の下へと歩を進めた。最初は2人肩を並べ、やがて勇んだパトリックが1歩前を進むようになり巨大な門を叩く。ふと気配を感じて振り返ると、白銀色の巨体が降り立つところだった。




