10年後の再会②
どうしてこいつらがこんなところにいるのだろうか。毎日のように殴られていた嫌な思い出が湧き出てくる。転移者だとしたら、久々に地球の話を聞けるのではないかと少し期待していたので、残念な気持ちが強い
「トキヒサ、知り合い?」
「まぁ、ちょっとね」
知り合いであることは間違いないが、マイナスの意味でのそれだった。知り合いと聞かれて、3人の名前を思い出そうとしたがわからない。10年も経っているので、忘れてしまったようだった。
「お前、そんな子となんで仲良くしてるんだ?時久の癖に」
アリシアを見ながら不満気にしていた。要するに羨ましいのだろうと思うが、遠回しにアリシアを褒められているような気がして、それは嬉しいことだ。ただ、どうもいやらしい目で見られている気がして不快だった。
「そんなことどうでもいいでしょ。それより聞きたいことがあるんだけど?」
それにしても、10年前と全く変わらないな。悪いけど、アリシアもいるし、やられっぱなしってわけにはいかないんだよな。
イラつきながら返答すると、3人は目配せしている。
「九十九時久くん。ちょっと見ない間にずいぶんと態度が大きくなったじゃないか。もう一度立場をわかってもらわないとね」
そんなことを言いながらカバンから何かを取り出している。その手に握られていたのは、見たこともない禍々しい杖。しかも、その杖から炎の魔法を発動している。
「なんで魔法を使える?」
「うるせぇ」
あまりに予想外の事で反応が遅れてしまった。飛ばされた炎の塊が目の前に迫っている。避けると後ろのアリシアに当たってしまうので、正面からかき消すことにした。大した魔法ではなかったので、片手で軽く防御するだけで問題ない。
「はぁ?なんだそれ」
どうも気に障ったらしい。ムキになって炎を連発している。このままでは魔源樹にも被害が及びそうだった。かき消すことは簡単だが、炎を1つ弾き返して牽制する。直撃はしないように地面に当てたので、3人は少し前屈みになって衝撃に耐える程度ですんでいる。
「ちっ。どうなっているんだ?」
「なぁ。あいつは本当に九十九か?」
「なんでだよ?」
「だって、なんか雰囲気が違うし」
「九十九だろ」
「いや。俺もそう思っていた」
3人は立ち上がった後、次々と発言している。俺の事をおかしいと思っているようだが、むしろ3人の方が何かおかしいと思っていた。魔法を発動できることもそうだが、どうして高校の制服をまだ着ているのだろうか?10年も留年し続けるわけもない。
「あのさ。君たち高校生?」
「あぁ?当たり前だろ?なに言ってんだ、お前」
「そういうことか」
まぁ、よく考えれば高校の制服っていうのは変だからな。10年前の見た目しか知らないから、つい受け入れちゃってたけど。
気になったので聞いてみたが、10年前と同じ年齢で間違いないらしい。どういう原理かわからない。でもこいつらは10年後にタイムスリップしながら異世界に転移したらしい。逆に俺が10年前にタイムスリップしたのかもしれないが、大きな違いはないだろう。
「おい九十九。どういう意味だ」
「俺がこっちに来てから、もう10年経っている。そういうことだ」
「あはっ。なんだそれ?つまり10年分のハンデがあるってことか。上等じゃねぇか」
と言いながら、また炎を作り始めている。さっきより大きくなっているが、あの程度なら問題はない。大きくしたことで不安定になっているので、少し魔力を乱すだけで消滅させることが出来た。
「ちっ。なんでだよ。あれ?なんも出ねぇぞ」
魔力切れだろうか。杖をただ振り回している。何か考えた後に杖を捨てて魔源樹に駆け寄っていく。一体何をするつもりなのだろうか。
「おい、何をする気だ」
「うるせぇ」
「やめなさい」
後ろにいたアリシアが飛び出していく。魔法で水を作り出し、さらにその水を操って魔源樹に近づくのを止めようとしている。完全に出遅れてしまった。これは魔源樹を守ろうという意識の差によるものだろう。
「なんだ?邪魔するな」
魔源樹から直接魔力を吸い出したのだろう。さっきより更に大きい炎が、周囲の水を一瞬で蒸発させアリシアを襲う。
「アリシア!!」
とっさに水のヴェールを張って防御したようだが、吹き飛ばされて地面に倒れてしまった。急いで駆け寄り確認するが、気絶しているだけだった。一安心ではあるが、怒りが込み上げる。
油断してた。俺なら問題ないんだけど、アリシアじゃ対処しきれないよな。でも、やっぱり、アイツらが悪い。
魔源樹を見ると、もう破壊されてしまっていた。その姿は既に破壊されていたものと酷似している。やはりコイツらの仕業と考えていいのだろう。
「なんだよ。九十九の癖に格好つけやがって」
「なぁ。今のはちょっと」
「はぁ?別にいいだろ。九十九なんだし」
「いや、そうじゃなくて」
「もう行こうぜ。九十九に構っていたってしょうがないだろ?」
「ふん。それもそうだな。じゃぁな」
散々好き勝手して、どういうつもりなのだろうか。立ち去ろうとしている3人を見ながら、怒りを抑えて考える。追いかけたい気もするが、気絶しているアリシアを放っておきたくはない。
「テルペリオン。マーキングしてもらえないか?」
「追わないのか?仕方がないか」
マーキングしておけば追跡するのが容易になる、というより確実に居場所がわかる。でも戦闘に直結しないことなので、やってもらえるか分からなかったが、今回は大丈夫らしい。
「トキヒサ、1つ忠告しておこう。この世界の住人は、魔源樹に仇なすものを放っておいたりしない。たとえ愛する者のためであってもだ」
「それは、わかってるよ」
「ならいい。言っておくが、数本程度なら私は問題ない。だが、それ以上となると話は違う」
「あ、ああ」
上空で飛んでいたテルペリオンは、近くに着地しながら静かに話している。落ち着いている様子、というより戦う気がないように見えた。
正体がわかって興味がなくなったのか?テルペリオンは冷静になってるな。まぁ、本気を出せるほど強くないからなんだろうけど。
「それにしても、あいつらなんで魔法を使えたんだ?」
「あれは魔法ではない」
「え?そうなの」
翼を折りたたみ横たわったテルペリオンを見ながら、なんとなく呟くと返ってきたのは意外な答えだった。
「魔法というのは祖となる存在から力を借りるものだ。あのように祖を冒涜するようなものは、現象としては似ていても魔法ではない」
またテルペリオンの小難しい話が始まってしまった。アリシアを介抱しながら話半分に聞いているが、これで1つの疑問は解消されたように思えた。
「アリシア達が痕跡を見つけられなかったのは、そのせいなのかな」
「だろうな」
そして、痕跡を見つける理屈から説明し始めているが、アリシアが心配で全く耳に入ってこなかった。