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サタン②

挿絵(By みてみん)


 「あんだよ?戦えよ」

 「申し訳ありませんが、悪魔と戦うのはトキヒサ様と聞いておりますので」

 「トキヒサァ?やだよ、飛び道具なんてムカつくだけだろ?」

 本当に従順なんだな。

 今にも殴りかかりそうな梶原美紀さんを前に、まさか構えを解くとは予想外だった。確かに俺が戦うことになっていたが、そこまで律儀に守る必要があるのだろうか。そして、ミキさんなのかサタンなのかわからないが、俺のことは覚えていないのかもしれない。少なくとも、魔法を防いだり撃ちだしたりと、遠距離での戦いが得意に見えているようだった。

 「ほら、構えなよ」

 「結構です」

 「ちっ、んだよ。じゃぁいいよ」

 鋭い突きがエイコムを襲う。俺にも見えなくはないので、右腕での防御が間に合ったようだが鈍い音とともに崩れ落ちてしまう。サタンは体を燃え上がらせながら追撃を始め、それをなんとか躱そうとしていた。

 調子に乗りやがって。

 思わず手加減を忘れて光弾をサタンへ放つ。やりすぎたかと冷や汗をかいたが、避けられたのを見て、なんで当たんねぇんだよ。

 守るようにエイコムの前に割り込みながら様子を確認する。右腕はあらぬ方向に折れてしまっていて、とてもではないが戦える状態には、サタンの野郎ふざけやがって。

 「トキヒサ様、申し訳ありません」

 「しょうがないさ」

 残念ながら余裕のある状況ではないので、軽く励ましながらサタンと向き合う。体全体が燃え上がっていて、額から角が生え、赤い長髪はタテガミのようになり、鋭い犬歯をむき出しにしている。狼とユニコーンが混ざり合った武闘家のような風貌になり、近くに立っているだけで汗がにじみ出てくる。

 「邪魔すんなよ」

 「お望み通りにしてやるよ」

 真正面から対峙し、これから戦うことになると思うと不思議と冷静になれた。ゆっくりと身構えているサタンをよく観察するが、その一撃は突然繰り出された。

 右足が振り上げられて上段蹴りに襲われる。エイコムと比べても鋭い蹴りだが、なんとか見えなくもない。とっさに左腕を構えて炎の壁を作ることもできた。それなりにしっかりと防御できたハズなのだが、かなり強めの衝撃と燃え盛る炎の熱を受ける。

 火傷してしまった左腕を冷やしながら体勢を整えようとする。サタンは振り上げた右足を燃やしながら加速、踏み込みながら炎を纏った右拳を振り抜いてきた。

 俺は膝を曲げながら後ろに倒れ込む。地面に逃げるように避けながら、一回転して距離を取る。かすめてしまったが、それだけで熱と拳で痛みを感じた。

 「チョコマカ避けてんじゃなぇ」

 サタンはさらに燃え盛っている。全身が燃焼し近くに立っているだけで熱く、体が焼かれるようだった。そしてその姿も、狼のような尻尾に馬のタテガミ、額の一本角、をへし折りてぇ。

 そりゃぁ遠くから魔法を撃ってりゃ勝てるだろうがさ。なんか負けた気がしてムカつくよな。

 だが、残念なことに直接攻撃するには熱すぎる。炎に対抗して水の魔法を発動させるが、そんな単純なことでなんとかなるとは考えていない。水を刃の形に変えながら、右手の手刀をサタンへ向ける。

 爆発音で鼓膜が破れたのかもしれない。それほどの爆音を発しながらサタンは肩から突進してくる。とてもではないが正面から受け止めきれるものではない。

 だとしても、逃げたりはしない。水刃の切っ先を、真っすぐにサタンの目へ向ける。予想外の行動だったのか、それとも目の前の刃に驚いたのか、必死に体の向きを変え避けていく。

 「チッ」

 かなり無理して方向転換したようで、勢いあまって前回りしながら受け身をせざるを得ないようだった。片手を地面に当てながら滑っていくところを見ながら、水刃を伸ばし縦一文字に切り下ろす。

 また爆音を発しながら拳を突き出し、切っ先を逸らされてしまう。水刃は空を切り、誰もいない地面を切ることになるが、同時に炎と爆発の残滓も跡形もなく切り裂く。始めから熱など無かったかのようになり、サタンも少し驚いているようだった。

 サタンの発する全てを水刃で切り裂き、水刃は爆風で悉く逸らされる。突きとともに発生する爆発に、爆発による推進力で威力を増した上段蹴りと、その後に残る熱。左足を軸に回転しながら振り上げる水刃に、水刃に切り裂かれる爆発と、その後に残る滴。

 お互いに一歩も引かないが、有効打を当てることもできない。お互いに意地になって、その場から動こうとしない。お互いに埒が明かないとわかっていた。

 どちらからだろうか。ほとんどどころか、完全に同時に走り出した。ただし初速については、サタンに軍配が上がっている。爆発で地面を穿ちながら突き進むサタンに、水刃で障害物を切り裂きながら追いかける俺。必死に追いつきながら、追い抜きざまに水刃を振るう。それを爆風で逸らしながら、意外な器用さで爆風を操りかかと落としまでつなげるサタン。再び距離がはなれてしまったが、今度はお互いに向かっていく。

 爆風に乗り加速するサタンへ、伸ばした水刃を斬りつけ、それが蹴りで逸らされると、水刃自体に振り回されながら回転を始め、フィギュアスケートの要領で回転を速めていき、もう一度水刃を伸ばし斬りつける。

 加速した上で振り抜いた水刃は完全にサタンを捉え、逃れられない速度で切り抜く。手応えはあったが、致命傷には至っていない自信もあった。あとはマコトに任せればいいと、動かないサタンを見ながら水刃を分解した。

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