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10年後の日常②

挿絵(By みてみん)


 「おかえり、トキヒサ。どうだった?」

 「計画通り。アリシアのおかげだよ」

 「そう、良かった」

 両手を合わせながら、アリシアは安心した様子で村の中に入っていき、俺も後に続く。編み込まれた長いブロンドヘアーが左右に揺れていた。とても長い髪を魔法で編み込んでいるらしいが、便利なものだと思う。そんな後ろ姿を見ながら、よくこんな綺麗な女性と結婚できたなと思う。そんなことを考えると、アリシアは後ろ手に振り返りながら質問してくる。

 「すごい音がしたけど、大丈夫だったの?」

 「うーん、テルペリオンが張り切っちゃってさ」

 「え!?まさか、全部やっちゃった?」

 今日は瞳の色と同じ青い服を着ていて、仕事用なので地味だがとても良く似合っている。驚いて振り返りながら聞いてくる妻を見ながら、考えているのはそんな事だった。

 「それは、ちゃんと手加減したから大丈夫。テルペリオンはまだ戻ってないの?」

 「ならいいけど。戻ってないね、そういえば皇太子様も戻ってないの?」

 「なんか気になるものがあったらしい。すぐに戻ると思うけど」

 「へー。なんだろう」

 全滅させたわけではないと聞いて安心したようだった。パトリックの事はあまり心配していないようで、再び村の中へ入っていく。テルペリオンは戻っていないようだが、どこへ行ったのだろうか?でも今はそれよりも、村の様子の方が気になりはする。ワイバーンの生活痕が生々しく残っていて、ほとんどの家が半壊、大小さまざまな木がそこかしこに生えている。

 「村の人達ってどうなったのかな」

 「それは、この村の人は魔力が少ない人が多かったらしくて」

 アリシアはそこまで話すと口をつぐんでしまう。でもそれだけ聞けばどうなったのか想像は出来る。魔力が少ない人間がワイバーンに襲われたらひとたまりもないだろう。たくさん生えている木を見ていると、少し悔しい気持ちになった。

 ワイバーンとの戦いを楽しんでいる場合じゃなかったな。それにしても、パトリックとテルペリオンはどこで油を売っているんだろうか。

 「そうか、しょうがないね。俺達の仕事は終わったし、帰ろうか」

 「うん」

 村の住人についてはどうしようもない。話を聞いて到着した時には、既にワイバーンに占拠されてしまっていたのだから。それはわかっていても、悔しい気持ちにはなってしまう。アリシアも似たような気持ちなのだろう。2人とも黙ったまま、準備をしていた野営地に帰った。

 「もう食料がほとんどないな」

 「そうだね。思ったより時間がかかっちゃって」

 野営地に帰り、残っている水や食料を確認したがもうほとんど無かった。1日くらい食べなくても問題はないが、今日中に街へ戻りたい。

 アリシアは戦闘に参加しないが、どうやってワイバーンを追い立てるかという計画を立てて貰っていた。いつもやってもらっている事で、俺とアリシアは夫婦であると共に仕事仲間であるともいえる。今回は、ワイバーンが元々住んでいた巣がどこにあるのか調べるのに時間がかかってしまったので、食料もギリギリになってしまった。

 テルペリオンに手伝ってもらえれば、もっと早く見つけることも出来ただろうが、戦闘以外の事は基本的に頼めない。ドラゴンとして誇り、という理由らしい。野営地まではテルペリオンに乗ってきていて、大量の食料を持ってきてもらえれば解決するが、同じ理由でそれも難しかった。

 「早く帰りたいな。テルペリオンはどこに行ったんだろう」

 「あのね、トキヒサ。テルペリオン様を煩わせちゃダメだよ」

 「わ、わかってるよ」

 別に迷惑かけてるつもりじゃないし、迷惑ってわけじゃないと思うけど。つい気軽に話しちゃうと、いつもこうなるんだよな。

 この世界の住人はドラゴンにすごい敬意を払っている。アリシアも例外でなく、軽いノリでテルペリオンと接しようとすると、いつもたしなめられてしまう。当のテルペリオンは全く気にしていないようなので、俺も気にしないことが多かった。

 「まぁ、パトリックが帰ってきてから呼べばいいか」

 「そうね」

 帰り支度をしながらパトリックを待つ。テントを片づけようかとしたところで誰かが着地する音が聞こえた。誰なのか確認すると、案の定パトリックだったが、どこから持ってきたのか水と食料をたくさん持っていた。

 「よっ。戻ったぞ」

 「よっ、じゃなくて。どうしたんだ、それ?」

 「見つけた。少なくなってたろ?」

 「まぁな」

 美味しそうな実を1つ食べながら一言で説明された。よくよく見ると、食料といっても何故か野菜や果物しかない。思うところはあるが、問題なくもう1泊できるようになったので、帰り支度を止めて食事の準備を始めた。

 「なぁ、それでどこから持って来たんだ?」

 「だから、細かいことは気にするなって」

 細かいことっていうか、なんで隠すんだ?独り占めしたいなんて、しょうもない理由でもないだろうし。

 頑なに食料をどこから持ってきたのか教えてくれないパトリックを不思議に思う。隠さなければならない理由も思いつかないので、なんだかよくわからない。

 「そんなことより、アリシアさん。朗報がありますよ。」

 「えっ、あっはい。なんでしょう?」

 かなり強引に話題を変えてきた。話を振られたアリシアも突然すぎて戸惑っている。

 「実はですね。トキヒサに爵位が与えられることになったんです」

 かなり驚いたようで、アリシアは完全に固まってしまっていた。俺はいまいちピンと来ていないが、多分すごいことなのだろう。この世界の王族と貴族は、優雅な暮らしもしているが、軍人のように戦いに明け暮れてもいる。なので特権階級というより、全うな報酬を得ているだけという印象が強く、嬉しいかと言われると微妙だったりする。

 「どうしたの?うれしくない?」

 「うーん、ピンと来ないというか」

 「ははは。トキヒサらしくはあるな。野心がないというか」

 上手くはぐらかされてしまった。爵位の話はアリシアにとって衝撃的だったようで、話題は完全に変わっている。アリシアも貴族出身なので、思うところはたくさんあるのだろう。

 「あの、パトリック様。いつもらえるとかわかりますか?」

 「それは、あと半年でトキヒサが来てから10年になるので、そのタイミングでという話になってますね」

 もう10年になるのか。話を聞いていて思ったことはそんなことだった。テルペリオンも戻ってこないので、3人で話しながら夜が更けていく。アリシアは余程うれしかったのか、いつも以上におしゃべりになっている。でもそれ以上に、パトリックの何かを考え込んでいる様子が印象的だった。

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