もう1人の転移者①
明くる日。再び王城を尋ねて、パトリック達と合流する。牢は城下町から少し離れた場所にあり、馬車で移動することになる。ベンジャミンに御者を任せながら、到着までの間に何があったのか話してもらうことにした。
「それで、何があったんだ?」
「何がって言われてもな。例の3人と違って大人しいもんだったぞ。森の中をさまよって力尽きたみたいで、倒れていたところを捕まえただけだからな」
「それだけ?」
「それだけ」
肩をすくめながら喋っている。その隣のクレアさんはすました顔をしているが、俺の隣に座っているアリシアは落ち着きがない。
「アリシア様?何か聞きたいことがあるのですか?」
「えっ、あ、はい。えーっと、その人なら助けていいっていう理由は何ですか?」
聞きづらそうにしているのは、もしかしたら否定的な意見になってしまうことを畏れているのだろうか。でも聞かれた方は全く気にしていないようだった。
「なんというか。悪い人に見えないというか、素直に全部答えてくれるんだよな。魔源樹のことは何も覚えてないって言っててな。それも嘘には聞こえないんだよな」
腕を組みながら話しているのは、説得力に乏しいと自覚しているのだろう。パトリックの言っていることは個人的な意見でしかない。俺もきっと同じことを思うだろうが、他人を説得するのには不十分な気もする。
「それは、理由として十分なのか?たしか、魔源樹を傷つけようとするだけで重罪だよな」
「だから相談してるんだろ?」
「んー。それもそうか」
言いたいことはわかるし、協力することも問題ないが、どうやって助けるかという問題はある。最悪、転移者をどこかに逃がしてしまえばいいが、できれば穏便に済ませたい。そんなことを考えていると到着したようで、大勢で入るような場所でもないのでアリシアとパトリックと3人だけで入ることにした。
薄暗い通路を通り、いくつかの空っぽの部屋を通り抜けて、奥にある薄暗い個室へ向かう。その部屋は重要人物を入れるための部屋で、鉄格子ではあるものの牢というより安宿のような雰囲気だった。パトリックなりの最大限の配慮の結果だろう。
「こっちだ。ヨシエ・マサキさん、調子はどう?」
案内された部屋にいたのは1人の女の子。椅子に座り、机に突っ伏していたが、声をかけられてこちらに顔を向けてくる。なんとなく予感はしていて、誰が来るのか気になっていたが、そこにいたのは正木義恵さん。10年前に委員長だった人がそこにいた。
「あっパトリックさん。一応、大丈夫です」
そう答えてはいるが、憔悴しているように見える。安宿のような部屋とはいえ拘束されていることに変わりはないし、今後どうなるかわからないという点でもストレスになっているのだろう。椅子から立ち上がっている。
「正木さん?大丈夫?」
つい癖で苗字呼びしてしまった。この世界では一般的ではないので、アリシアが動揺しているのがわかる。後で説明することすればいいと思っていて、一旦スルーした。
「九十九くん?」
おぼつかない足取りでこちらに近付いてくる。鉄格子ごしに見える顔は、やはり疲れているようだが、顔は若い。10年前と同じ年齢なのは間違いないだろう。
「本当に九十九くんだ。あのさ、私これからどうなるのかな?木を切っちゃったみたいなんだけど。でも、何も覚えてなくって。こんなこと九十九くんに言ってもしょうがないか。パトリックさんは味方してくれるんだけど、他の人はそうじゃなくて。木がそんなに大切なものなんてしらなかったから、」
「ちょ、ちょっと待って」
「あっ、ごめん」
不安だったのだろう。俺だとわかると、泣きそうな顔をしながら思いのたけをぶちまけていた。止まりそうになかったので制止しただけなのだが、俯きながら凍り付いてしまっている。でも、その様子を見てパトリックの気持ちは理解できた。自分も転移直後に牢に入れられた経験があるので他人事ではない。
「えーっと」
「おい、トキヒサ」
「今のは仕方ないだろ」
パトリックに咎められてしまうが、不可抗力だと思う。そこまで思いつめているなんてわかるわけがない。だが手の甲をつねられたのでアリシアを見ると、責められるように睨まれてしまう。
「いや、だからこれはだな」
「こーれはこれは、みなさまお揃いで。けっこうけっこう」
なんか出てきたぞ。
弁明しようとしたのだが、あまりに特徴的な喋り方で全員注目する。その風貌も特徴的で、中年の貴族の男性のような恰好をしているのだが、髪の色がピンクでウェーブしている。まるでワカメだなと思っていると、そいつはズカズカと歩いてきた。




