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アストラルフレーム Lost throne  作者: 伊高フジノ
優れたる者
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優れたる者1

それはもう夜逃げに等しい転居の在り方だった。

本日中に準備せよということで僕は朝から荷造りに勤しんでいたわけだが、せっかくまとめた荷物のことごとくは学園側のチェックを受けた際に不要であるとされてしまった。

基本的に必要なものは支給され、また私物は保存スペースが少ないためであるたしい。

精査の上不要なものを除いていくと下着などの着替えが数日分と筆記具くらいになり、ほとんど着の身着のまま旅立つことになる。

ちょっと隣県までお泊りにいくくらいの、修学旅行に行くくらいの気軽さで実家を出ていくのだと思うと心細さが加速した。


「じゃあ気を付けてね」


意外にも母さんはいつも通りだった。

僕らをエキセントリックファミリーと言ったシュウ君も隣にいる。信じてくれ、僕はまだそちら側じゃない。これから染まっていくのだろうけどもまだそうではない。

餞別にとプレゼントしてくれた『マンガでわかるこども法律入門』を胸に抱えて、時が経ち変わってしまってもせめて社会のルールからははみ出すまいという気持ちを新たにする。

リーガルセルフチェック能力を身につけるのだ。


「クラスのみんなには当たり障りのないようなことを俺の方から言っておくよ。急な事でまた噂は立つだろうが――まあその辺りは気にしても仕方がないしな。それよりも新しい学校に慣れることを考えなさい」


飯田も来ていた。

休日にも拘らず、餞別の品まで持って来てくれたのだ。

宝飾品を入れるようなベルベットのケースを開けると、僕の名前入りの万年筆が入っていた。それと一緒に『自然体で!』と書かれたメッセージカードもある。


「これ好きだよね飯田……先生。ありがとう、大事に使うよ」


人前で呼び捨ては良くないのでちょっと取り繕う。


「座右の銘だからな。花森学園なんてメルヘンな名前の学校に行っても自分を見失うなよ」

「ええ、話題のお転校生としてご学友の皆様には初日から一発カマしてやりますわ!」


僕らは学園側の職員の前でそんな会話をする野蛮人であった。

風の噂によると飯田教諭はその昔、地元に逸話を残すような素行の悪い人物だったようである。

夕暮れ時には他所の学校の奴らにナメられんじゃねぇぞという気分にもなるというものだ。


「ではそろそろ出発いたします。皆様もお気をつけてお帰り下さい、それでは」


百目鬼さんのハスキーな声でお別れの時間が終了する。

不安だ、夕陽のせいかますます不安感が募る。


「じゃあみんな、またね」

「デカい男になってくるのよ~」


母さんの言うこともバンカラ染みていた。


ハイエースというかミニバンというか、かなりこじんまりしたマイクロバスに乗り込む。最後尾に座り外に向かって手を振った。ここから先しばらくは知ってる人に合うことは無いだろう、名残惜しさを感じるのもこれで最後だ。

遠のいていく姿をいつまでも眺めることは無く、わりとすぐにバスが角を曲がってサヨナラ。運転している小早川氏はあまり空気を読む感じの人じゃないのかもしれない。あと二種免許持ってるのが意外である。

しばらく走るとおもむろに百目鬼さんが歩いてきて、僕の横に腰かけた。

ふう、と息を吐く。お疲れの様子だ。


「映画でも見るか、退屈だろう? どんのが好みだ?」


少なからぬ違和感を伴って、何かリモコンのようなものを操作し始めた。


「そうですねぇ……怪獣がケンカするやつとか、巨大ロボットが殴り合うやつとか、マッチョが大群を蹴散らす感じのやつが好きです。百目鬼さんはどんなものが好きなんですか?」

「俺は――そうだな、趣味が似ているかもしれない。戦う映画が好きだよ」


やっぱりそうだ、違和感がある。

その正体は口調の変化だ、バスに乗る前と比べて随分とくだけている。しかも一人称が俺とは、まあなんとも勇ましい。

これが素なのだろうか?

ギャップを演出するための中二的キャラ付けなのだろうか?

なかなかの驚きがある変わりようだ。


「これにしよう。いい映画だ、何度も見ても楽しめる」


前方にリモコンを向けてボタンを押す。

すると運転席の後ろ辺りの天井からスクリーンが下りてきて、そこに映像が映し出される。イントロが流れ始めると重低音が気持ち良く体に響いてきた。

まるで映画館のようだ、設備がすごく良い!

なんか得した気分でスクリーンを見守るも、本編映像が始まるとやや気まずい気分になった。

趣味が合うというフィーリングは正しかった。

この映画は見たことがある。何度も見て何度も楽しんだことがある映画だった。

ベスト子供映画と言うべきその映画は自信の無いいじめられっ子が奇妙な修行を通してカラテのウデマエと心を成長させていく物語だ。

先日ピンチに陥った際、ハゲグラ=サンに向けて放った飛び蹴りは、まさにこの映画で学んだカラテの知識を生かしたもの。それほどに見飽きた映画なのであった。


車の揺れ、そして気持ちのいい重低音。

あたりはもうすっかり暗くなって、十分な条件が揃ってしまったので僕は気持ちよく眠りに落ちた。


どれくらい眠っていたのだろうか、目を覚ますとバスは山道を走っていた。

眠ってしまったのを見てそうしてくれたのだろうか、横になっていた僕の隣には誰もおらず、百目鬼さんは席を移動している。

映画はもう終わっていて、スクリーンも上がっている。

僕が起き上がったのを見て百目鬼さんはまだしばらくかかると言った。

街灯らしいものもなくヘッドライトを頼りにするしかない道、もし万が一脱走しようなどと思ってもそう簡単にはいかない立地であることが分かる。


「あの、百目鬼さん。寮ってスマホの電波届きますか? Wi-Fiとかって」

「使えない、残念だが――それと俺の事は先生と呼べ」


腕を組んで瞑想しているような格好でこちらを見ずに言う。

もしかして眠った後に寄りかかったりして失礼を働いてしまったのかもしれない、機嫌が良いとは言えない様子。話でもして到着までの間を持たせようなどと考えない方が良さそうだ。

プロット書いてる時には思いませんでしたが章のタイトルって難しいですね。

そこで書く内容に沿ったものでなくてはならないのにネタバレ感のあるものを避けなきゃいけない。

場合によっては全部書いてから適切なものに修正するかもしれません。

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