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アストラルフレーム Lost throne  作者: 伊高フジノ
僕を守る悪魔
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僕を守る悪魔6

撒いた、とは言えない。

ヤツらは追って来なかった。

あの糸目の男、山田と名乗った変な奴が引き受けてくれたのだろうと思う。

山田は自分に責任があると言っていたから、もしかして僕は窓枠の件とは全然関係ない原因でハゲに絡まれたのではないだろうか。

状況を見ればそんな風に考えることも出来た。

とはいえ楽観視はしていられない、そうしていたからこそ今の状況がある。

一旦そのことは保留してまずは自分がすべきことを最優先で考える必要があった。

なにはともあれまずは巻き込んでしまった、もしくはこれから巻き込んでしまう可能性のあるシュウ君に話をしなければならない。

全力で走った後でまだ息も整わないまま、可能な限り急いでアパートに向かう。


シュウ君は既に帰宅していた。

様子がおかしいことを一目で理解してくれたようなので話が早かった。母さんも含めて三人で話し合うべきだと言うのをすんなり受け入れてくれ、車で自宅に向かう。

そしてやはりというべきか、玄関を開けて中に入るとそこには見慣れない革靴が二つ並んでいる。

肝が冷えた、今度こそ本当に。


「ゼン君? おかえり。ちょっとこっちに来てくれる?」


母さんの声がした。

その声はどこか楽し気で奇妙だ。さっきのヤツらが来たってワケではないのかもしれない。そういえば玄関の革靴のサイズが小さかった。

リビングに入る、そこには二人のお客さんがいて母さんの対面に座っている。

ひざ丈スカートの地味なリクルートスーツみたいなのを着た女性が手前、奥に座ってる方はネクタイを締めていて映画俳優みたいに端正な顔立ちをしている。その佇まいもオーラを感じるほど凛としていて、まさに芸能人とそのマネージャーといった感じだ。

母さんはその二人を同級生の子供さん達だと紹介した。

二人は名刺を取り出して、それがテーブルの前に並べられた。

肩書には花森学園とある。これは母さんの母校らしい。

マネージャー(仮)の名前は小早川慶子

映画スター(仮)の方は百目鬼聖


「ひゃ、ひゃくめおに、せい……?」


なんていう名前だえ!?

本当に芸名なんじゃないかえ!?


「姓はどうめき、名はひじりと読みます」

「かなり珍しい苗字ですね。そこはかとなくお強そうで」


目が百個もある鬼だ、最強レベルに違いなかった。

本人以外の全員が噴き出すように笑ったのは同じような事を連想をしている証拠である。


「ところでそちらの方は?」


笑ったのを取り繕うように小早川さんがシュウ君のことを聞く。

ややボカした形で事情の説明を試みると、その途中で話を遮られた。二人の目的もそのことが関係する話なのだという。シュウ君が一緒に話を聞くのは構わないということを確認した上で小早川さんは説明を始める。


まずはこれを、と差し出されたのは調査報告概要と書かれたファイル。

件の窓枠落下事故についてのものだ。

それによると落下の原因となった要因を特定するようなものは一切確認されなかったらしい。

製品の仕様上取り付けに必要となる全てのパーツが現場から発見されており、それらは全て破損しおらず、損壊の激しいフレームの部分は窓枠の保持に負担がかかる部位ではないのだという。

また、窓を壁に固定する際にあけたねじ穴等にも重さで破損した痕跡はなく、考えられるものとしては取り付け時にねじの締め方が弱かった等の人為的なミスである可能性が最も高い。

のだそうだ。

仕様上問題ないのだから現場のミスだろってことだ。そこまではすごく良く分かったのだが、説明のなされない大きな謎が一つある。

その話をするのがなんで学校の職員なのかということだ。


「おそらくこのままであれば製品のリコール問題にはならないのですが、人為的なミスというのは可能性が高いと言うだけで、証拠あってのものではありません。そして今後複数の賠償問題が生じる可能性もありますから、あなたの証言を優位な方向に誘導するような目的で何者かが接触してくる可能性があります」

「それだ。まさにそういうことがあったばかりなんです。シュウ君が来たのもそのことを母さんと三人で相談しようと思ったからなんだ」

「えぇ!? 嫌だわそんな怖い目にあったの?」

「ヤクザ風のハゲに追い回されたそうですよ。俺はまぁ大丈夫でしょうけど、ゼンが心配だったので送ってきたってワケです」

「そうなの……じゃあやっぱり父さんの言う通り転校した方が良いのかしら?」


ん?


「ちょっと待って。一応話の方向性は見えてきたけど転校って何?」

「お父さんがね、ゼン君はもっと自由な考え方の出来る環境で学んだ方が良いって言うの。事故の事もあれからすぐに調べてくれたみたいで――ほら、この窓を作ってるのお父さんの会社の系列でしょ? 揉め事に巻き込みたくないし、いい機会だから花森学園に転入させようって」


一見思い付きのように思える父さんの考えは恐らく昨日の電話の内容が原因なのだと思う。

僕が不安を口にしたばかりに、そして父さんがあまりに忙しくしすぎているばかりに即断即決でやってしまったのではないだろうか。

とはいえ


「転校ってそんなに簡単にできるもんなの? 試験とかって――」

「通常であればそうです。ですが花森には今年から運営を開始した分校がありまして、そちらに多く空きがある状態なんです。青桐さんからは度々寄付も頂いていますし、特別に都合させていただきました」


なんだろう、この裏口感。

昨日の今日で僕は悪の階段を一段飛ばしで駆け上がっている気がする。

しかも都合させていただきましたってもう決まったような口ぶりじゃないか。


「週明けから寮の部屋が利用できる事になっていますので、明日中には準備を終えられるようにお願いします」


早くない?

気持ちの準備期間無さすぎない?

そんな疑問をよそに母さんは学生時代の思い出などをするフェイズに入ってしまった。


「お前ん家の人間は皆エキセントリックなんだな」


シュウ君が言った。

何故僕もあちら側の人間、みたいな言い方をするのだろう。心外だな。

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