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アストラルフレーム Lost throne  作者: 伊高フジノ
僕を守る悪魔
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僕を守る悪魔1

ゲームを作るために用意したシナリオですが頓挫してしまったのでノベル風に作り直しています

最後までのプロットがありますが文章力が無いのであまりボリュームを付けられないかも

一先ず最後まで書くことを目指しつつ、できるようなら加筆します

まどろみを覚醒へと導くのは意志の力だ。

心地よい眠りの中から這い出るのは億劫である。目的もなく、ただ漫然と過ごしていたって日々を生きることに何ら問題の生じない時代に生まれた僕らのことだ。そこから歩き出すのならば、何かしらの目的があって然るべきだ。

『オ  ハ  ヨ  ウ』

ソレは僕に語りかける。

目覚めろと。

眠り、目覚める度に。人は毎朝生まれ変わっていると言った人がいるそうだ。

安らぎに満ちたゆりかごの中から苦しみの世界へ。

そんな過酷な旅路へ踏み出す強い目的が、意志が、僕の中にあったとは思えない。

ソレに呼ばれて、僕はこの世界に生まれ出た。

その声に導かれて青桐善(あおぎり ぜん)は意思を持ったのだ。


「おはよう、悪魔」

黒い煙が漂っている。あるいは黒い炎だろうか、ゆらめきながらベッドの傍らにソレはある。2メートルほどの体に手足は無く僅かに地面から浮いている。顔と思しき部分には嘴めいた鼻が突き出していて、だらしなく空いた口の中には釘をさかさまに刺したような長い牙がびっしりと並んでいる。背中には体よりも大きな翼を持ち、ぎょろりとした二つの眼球はいつもまっすぐに僕を見つめている。

そのように見える何か、便宜上悪魔と呼んでいる謎の存在と僕は幼い頃からずっと一緒に暮らしていた。

イマジナリーフレンドというものなのだそうだ。昔よく、誰もいないところに向かって話しかけていたと母さんに聞かされたことがある。昔のことだと偽ったのはこの存在を秘匿するため。それは未だに見えているし話しかけてもくる。こちらから話しかけるのは一人でいる時だけ、病院に入れられたくはないし、僕自身が自らの精神状態は極めて健やかなものだと感じている以上、変に治療なんかされたくない。

長年の付き合いで愛着だってある。奪われないために守らなければならない。

『オハ  ヨウ』

悪魔は返事をして、ゆっくりと消えていった。

気まぐれに出たり消えたりするが、朝の挨拶は必ずしに来る律儀な奴なのだ。無視すると不機嫌そうになり、ちゃんと返事をすれば満足そうな顔をする。

ただ、体の全てが煙のような靄でできているため正しい言い方をするなら表情があるように感じているだけ。シミュラクラ現象によって顔のように見えているだけなのかもしれないけれど、その正体が何であれ僕にとってこれは日常の一部なのだからそれでいいのだ。

サボテンや飼い犬に話しかける人なんて珍しくないだろう?

それと同じことだ。


時刻は六時半、奇々怪々なるものの導きによって優等生的なタイムスケジュールの遂行が可能となる。

寝床を整え顔を洗い、リビングに置いてあるノートPCを立ち上げて動画サイトへアクセスする。登録チャンネルの更新通知から連続再生を選択、視聴を始めた。

何がどうしてそれが継続しているのか分からないが、一般的には朝の情報収集は新聞を読むことが良いとされている。いったいどんな才能があれば朝の忙しい時間に活字の記事を読み込むことが出来るというのだろう、僕には全く分からない。

どうせほとんどを読み飛ばすのだから、昨日のニュースを手短にまとめているチャンネルの動画を流しながらSNSで話題の検索ワードを流し見していれば同等以上の情報を摂取できるじゃないか。

芥川龍之介ではないのだからそんなにたくさんの文字をすぐには読めないし、巨大な手を持っていないからニュースペーパーはサイズが大きすぎる。人類が滅びた後に宇宙人が来て文明の発掘を始めたのなら、掘り出された新聞を見て頭脳明晰な体長5メートルくらいの巨人が支配していた惑星だったのだと勘違いしてしまうだろうことうけあいだ。

「ゼン君? 起きてるの?」

玄関の方から声がした。母さんだ。

郵便ポストをチェックしてきたようだ、その手にはチラシとか回覧板とか、あと新聞がある。

「読む?」

「読まない。もう大体こっちで見たよ」

視線もやらずに返事をする。その紙は主婦にとっては使い勝手のいいものだろう。鍋敷や窓の拭き掃除や虫の退治などに有効利用すればいい。僕はもう丸めて剣にする遊びをする歳じゃないんだよ母さん。

「なんかね、猟奇殺人なんだって。山の方のアスレチックの公園分かる?」

母さんの言うのは今一番新しく話題性も高い事件のことだ、勿論ネットでもかなり注目を集めている。おそらくは一面記事だったのだろう、ポストから取り出してすぐにショッキングな見出しが目に入ったはずだ。

昨日の深夜、というか今朝の2時頃、僕の家から車で三十分くらいのところにある遥山で両手足の損壊した遺体が見つかった。遥山は標高が四百メートルほどの山で土地が確保しやすかったからなのか、公園施設などが設けられていて尾根の繋がる隣の山などを併せた総称として夢山とも言われている。

入場に料金がかからないから昼間は子供連れの家族で賑わうものの、付近にはそれ以外の施設はなく夜になれば人気は殆ど無くなるはずだ。

当然、そういった場所だからこそ夜には別の目的で訪れる人もあり、偶然近くを(・・・・・)通りかかったカップルによって事件は発覚した。身元は確認中とのことで、続報はネットの方にもまだ上がっていない。

「子供が遊ぶところでなんてのは嫌悪感があるね、楽しかった思い出だってあるのに」

そうね、と母さんは残念そうにして、手に持ったものをゴミ箱へ放り込んだ。便利に使えるはずの紙束は忌むべき情報を記載してしまったがために何の役目も果たすことなく葬り去られた。僕は読まないが、母さんなら普段はそれなりに読んで回収日までは我が家の中にあるはずだった。もったいないものだ、読む気は全くないけどそう思う。


不穏な記事を載せたものの顛末はさておき、そうこうしているうちに時間が過ぎていく。

朝ごはんを食べて着替えなくてはならない。

その気になれば四十秒で準備を整えられるのが男子高校生の身軽さだ、トースターに食パンを入れ、熱したフライパンの上に卵とベーコンを落とす。冷蔵庫を開け閉めするたびチルド室を転がりまわるレタスの葉を何枚かちぎって、一連のものを焼きあがったパンの上に乗せればそれなりの朝食が完成だ。

部屋に食べかすを振りまくことさえ気にしなければ何かやりながらでも完食できる。半分に折ってギュっとすればなかなか収まりのいいサイズになって、成り行き次第では遅刻を気にしつつダッシュしながらでも十分いけるだろう。

時刻は7時15分に差し掛かろうとしている。行儀の悪さを指摘されるような行いをする必要は全くないほどに余裕があった。

その後30分くらいかけて支度を終えて家を出た。

つつがなくいつものように通学路を行く人々の中に紛れる。何か変わったことでもなければ同じ時間に同じ人と出会うことになるだろう。それは学生に限ったことではなくてサラリーマンもそう。歩いている人は大体が公共交通機関の利用者である。バスの到着時刻に合わせているから家を出る時間も自然と同じになるというわけだ。学生は毎日同じ時間に待ち合わせて集まってから登校する人が多いから言うまでもない。

いつもと何かが違う時、それに気が付きやすい。通学路にはそういった仕組みが自然と出来上がるようになっている気がする。

そしてその違和感が訪れたのは今日だった。

一陣の風が吹き抜けるのを感じた。それがまるで周囲の音をどこかへ連れ去ってしまったかのように、静寂が僕を包む。

頭上に影が落ちてきた。

咄嗟に上を見上げる、静寂はその瞬間に破られた。

とても大きな、ものが壊れる音。背後で起きた何某かの破壊音の方へ顔を向けると、そこでは白い飛沫が跳ね回っていた。

粉々に砕けたガラスだ。見事なまでに粉砕された数多の欠片がビーズみたいに散らばっている。気付けば僕の足元にまで。

ややあってから絹を裂いたような悲鳴が聞こえ、僕はなんだかこれまでに感じたことが無いような不安感が押し寄せてくるのを感じる。

何かがあったのは分かる。でも、それくらいしか分からない。周りを見渡してみても何か新しいものを見つけることはできなかった。

少し遅れて悲鳴が上がったのはどういうことなんだろう、そのことがすごく気にかかる。

一瞬のこと。

もうここにはない、ガラスが砕けるその少し前に捉えた影。

僕意外には見えるはずのない、想像上の産物であるはずのその姿。


もしかしたら、彼女はそれが見えてしまったのかもしれない。


悲鳴が聞こえた方向には三人組の女生徒がいた。

三人とも呆けたような顔で僕を見ている。

冷静に、努めて冷静にその表情を窺った。そこに恐怖の色が浮かんでいるようであれば、きっと何かしらの行動を起こさなければならないだろう。

何も見ていなければいいと思った。

僕が創造した悪魔なんて僕以外の人は見ないに越したことは無いのだから。

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