2‐22後宮の廟の謎にせまる
この廟は異様だ。
儒皓梟は索盟先帝の時代から霊廟の調査を続けてきた。
廟とは祖霊を祭祀する場だ。帝族の陵墓、或いは英霊や神祇を祀る祠や祭壇として建てられる。宮廷において英霊や聖賢を皇帝と列ねて神格化するはずはなく、宮廷の敷地にある廟は総じて帝族の墓だ。
だが、ここは墓ではない。
廟からはこれまでもいくつか、石棺が発掘されてきた。
だが、骸が収まっていたものはない。
ならば、石棺のようなものは棺ではなく、食物等を収める櫃ではないか。そう唱える研究者もいた。この廟は盤古経にある始皇帝を祀っており、経時で風化する供物を石櫃に収めて捧げたのではないか。そう考えれば理にかなう。だが、廟には麒麟紋がひとつも遺されていなかった。
この廟は、なにを祀っているのか。神話を研究する学者として、たまらなく探究心がそそられた。
…………
崩れかけた階段をおりたさきには祭壇があった。
祭壇には石棺がおかれている。これまで発掘されたものとは違って、側面には彫刻が施され、解読できないが碑文まで彫られていた。
蓋は崩れており、なかはもぬけの殻だ。
皓梟は棺のなかに遺骸がないことを確め、外側にある彫刻を熟視する。
「ほお、これは饕餮紋かや。饕餮にたいする信仰は大陸の諸処に残っておるが、この地にも饕餮を祀るものがいたとは。これは歴史を揺るがす発見となるぞ」
昂奮して、彼女は声を張りあげる。
「そち、この棺の紋様を複写せよ」
側にいた宦官に命令する。宦官は承知しましたと紙を拡げ、石棺の紋様を描き写していった。
「皓梟様、こちらをご覧ください。壁画がありました」
「壁画だと!」
調査隊が松明をかざす。
壁は赤い紋様で埋めつくされていた。
絵のほかに古代言語らしきものもある。絵の一部は盤古経の伝承とも重なり、皓梟は眼を輝かせて「ほほお」と感嘆の息を洩らして壁に寄っていった。
後に残されたのは複写を命じられた宦官だ。
彼は松明をかざして、なにげなく石棺を覗きこむ。蓋の残骸にまざって松明の光を映射するものがあった。
「ん、なんだ、これは」
拾いあげる。白い石の塊だ。なかには男のこぶしほどはあろうかという金塊が埋まっていた。
金鉱石だ。
宦官は欲に眼がくらみ、ごくりと唾をのむ。
皓梟に報告しなければ。遺跡のなかにあるものを持ちだすのは禁だ。だが、これがあれば宦官を辞めて都に隠遁できる、それどころか死ぬまで遊んで暮らせるだろう――
宦官はわきあがる欲望を抑えきれず、金塊を懐にいれた。
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